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NY駐在員報告  「インターネットその後(その2)」 1995年10月

 先月に引続き、インターネットのその後について報告する。

米国のプロバイダー

 現在、米国にはインターネットへのアクセスサービスをしている企業、つまり「インターネット・サービス・プロバイダー (ISP) 」は100以上ある。一度数えようとしたのだけれど、調査している間に、買収されて他のISPに吸収されたり、新しいISPが誕生したり、名前を変えたりするので、リストが100を超えたところで断念した。ISPは全米をカバーしているものもあれば、ニューヨーク市のマンハッタン地区のみという小さな ISPもある。企業ユーザを専用線で接続するサービスを中心にしているところもあれば、電話回線によるダイアルアップサービスのみを提供しているところもある。

 ISPの市場に関するデータは非常に少ないのだが、ある調査会社の推計によれば、94年の売上高の合計はおよそ5億2100万ドルである。これにはコンピュサーブ、アメリカ・オンライン、プロディジーのような商用BBS(パソコン通信)市場は含まれていない。企業別にみると、UUNETテクノロジー社、NETCOMオンライン・コミュニケーション・サービス社、スプリント社、PSI社、ボルト・ベラネク・アンド・ニューマン(BBN)社の順となっている。この調査によれば、商用BBS市場と異なり市場の寡占化は進んでおらず、上位10社を合計しても市場の35%にしかならない。ISPのほとんどの企業が株式を公開していない関係で、多くの企業情報は秘密のベールに隠されているのだが、いくつかの企業は株式を公開しており、その収益の現状まで見ることができる。いくつかのISPの現状をみてみよう。

UUNETテクノロジー社

 87年に設立されたUUNET社は、最初の本格的な商用ISPとして知られており、企業や個人だけでなく、中小のISPにインターネット接続サービスを提供している。また、インターネット関係のアプリケーション・ソフトウェアやコンサルティング・サービスも提供している。米国内のバックボーンネットワークは、45MbpsのT3回線とATM交換機で構成されており、ニューヨーク(ニューヨーク州)、ボストン(マサチューセッツ州)、ブーン(バージニア州)、アトランタ(ジョージア州)、ダラス(テキサス州)、ヒューストン(テキサス州)、サンノゼ(カリフォルニア州)、ロサンゼルス(カリフォルニア州)、シカゴ(イリノイ州)を結んでいる。このT3回線はどこで障害が起きても、別ルートで通信が可能なように網の目状に張り巡らされている。また、カナダとインドには独自のネットワークを持つ他、スウェーデン、フィンランド、オランダ、ドイツ、ロシア、南ア フリカ、日本、タイへの国際回線をもっている。
 現在、上記のT3回線で結ばれている都市を含め98のアクセスポイント(英語では"POPs:points-of-presence"と呼ばれている)を持っているが、今年中に52箇所(うち20箇所は米国外)の増設が予定されており、95年末には世界の150都市にアクセスポイントを持つことになる。また96年中には200都市まで増強される計画になっている。
 技術力には定評があり、北米の700以上のセキュリティ関係企業の団体であるSIA (Securities Industry Association) から、会員向けISPとして選ばれている。
 95年度第2四半期(4-6月期)の決算では、売上高が1047万ドルで前年同期の273万ドルの約 3.8倍と急成長しており、企業ユーザ数も6月末で7074と1年前の2852の約2.5倍になっている。しかし、損益は▲56.5万ドルの赤字となっている(前年同期は▲145.7万ドルの赤字である)。

NETCOM社

 NETCOMオンライン・コミュニケーション・サービス社は、カリフォルニア州サンノゼに本拠地を置く、主に一般利用者を対象にした全米規模のISPである。同社の収入は約80%が個人ユーザで20%が企業向けの専用線サービスだと言われている。特に、個人向けにはNetCruserという専用のソフトが用意されており、これによって電子メール、ネットニュース、Gopher、WWW等の利用が可能となっている。このNetCruserによる利用料金は、ピーク時間帯(平日の午前9時から真夜中まで)の40時間の利用料込みで月に19.95ドルと極めて安く設定されている。オフピークの時間帯は無制限で、ピーク時間帯の40時間を超える利用については1時間2ドルとなっている。

 NETCOM社は、92年8月にサービスを開始し、現在、全米200箇所以上にアクセスポイントを持っている。95年度第2四半期(4-6月期)の決算では、売上高が1053万ドルで前年同期の228万ドルの約4.6倍と急成長している。ユーザ数は9月末に23万人を突破した。年初から9カ月で約2.2倍になったことになる。この急激なユーザ数の増加に対応するため、ネットワークの強化とアクセスポイントの増設が続けられている。実は、アクセスポイントが200に達するのは、年初の計画では年末の予定であったが、実際には9月末に200を超えてしまった。つまり、投資計画は3カ月も前倒しされていることになる。(ちなみにこれらのアクセスポイントは、最低28.8Kbpsをサポートしている。)この結果、コストが急増しており、売上げが急増しているにもかかわらず、第2四半期は約▲290万ドルの赤字を計上している。

ニューヨークのISP

 94年5月に(つまり私がここに着任した時)ニューヨーク市でインターネット接続サービスをしている中小のISPは6つあった。ECHO、Maestro、Mindvox、Net23.COM、Panix、Pipelineである。このうち、 PipelineはPSI社に買収されたが、現在はさらに増えて20以上ある。この中で最も古いISPはPanixであり、ニューヨークの"King of the Internet"と呼ばれている。なんと81年にAlexis RosenとJim BaumbachによってUUCPによるメールとネットニュースのサービスが開始されている。当時の設備は、Baumbachの自宅の地下におかれた1台のマッキントシュと5本の電話回線だけだったという。ユーザが増加し、ISPと呼ぶに相応しくなるのは89年以降のことで、この時のユーザ数が130。現 在は設備も充実し、本拠地のマンハッタンには計20ギガバイト以上の磁気ディスクを備えたサン・マイクロシステムズ社製の5台のワークステーションと245台のモデムが設置されている。この他にロングアイランドに2箇所、ハドソン川の向こうのニュージャージー州のジャージーシティに1箇所、アクセスポイントを持っており、ニューヨーク市の北のウエストチェスター郡への進出も計画されている。これらのアクセスポイントはすべてT1回線(1.5Mbpsの 専用回線)で接続されている。また、Panixのネットワークは、全米をカバーしているSprintとMCIのネットワークのそれぞれにT1回線で接続されており、どちらかが障害でダウンしても、サービスに問題がないように配慮されている。現在のユーザ数は6000以上、そのほとんどが電話回線による接続である。平均年齢27歳という25人のスタッフによって運営されているが、スタッフの数もネットワーク設備と同様に増えていく一方だという。大手のISPとの競争をどう考えるか質問したところ、PanixのSimona Nassは「インターネットの市場は十分大きく、各ISPはそれぞれ特徴を持っているので、ユーザは自分に適したISPを選んでいる。Panixは技術的 にしっかりしたISPであると同時に、初心者でもダイアルアップIP接続可能なネットワークをつくっている。また、Panixは、本当のユーザのコミュニ ティをつくりたいと思っている。そのためにPanix独自のニュースグループも持っているし、ユーザが実際に会って話ができるピクニックのような催しも企画しようとしている」と答えてくれた。利用料金はダイアルアップIP(SLIP/PPP)で月35ドルの定額である。

ISP市場の見通し

 最近、大手のISPが中小のISPを買収したというニュースがいくつか流れた。たとえば、93年7月 にNEARNET (New England Academic & Research Network) を買収したBBN社は、94年6月にはBARRNET (Bay Area Regional Research Network) を、94年12月にはSURANET (Southeastern Universities Research Association Network) を買収している。BBN社が買収した地域ネットワークは、いずれも大学を中心とする学術・研究用のネットワークで、NSFNETに接続されていたものである。大学は自ら地域ネットワークを運営していくよりは、民間のISPからインターネット接続サービスを購入した方が安上がりだと判断しているのである。ちなみに、93年にNSFも、NSFがサポートするインターネットの民営化という方針を打ち出し、95年5月からNSFがサポートする高速ネットワークの利用はNSFのスーパーコンピュータセンターの利用者に限定され、一般の研究者は民間ISPの提供するバックボーン・ネットワークを利用している。

 この他、94年11月にはアメリカ・オンライン社がANS CO+RE社を買収しているし、PSI社は95年2月にニューヨークのPipelineを、95年8月にはNETCOM社がテキサス州ダラスの PICnetを買収している。こうしたISP間の買収は、ISP業界が再編に向けて動き出していることを意味しているのかもしれない。中規模の事業者は市場から姿を消し、UUNET社、PSI社などの大手企業が市場を独占するようになると見ている専門家もいる。しかし、一方ではベーシックなインターネット接続サービスを低料金で提供する小規模なISPが存続し続けるという意見もある。実際に、多くのISPは、業界の統合が進むという見方には否定的だという。日本から見れば、インターネット先進国である米国も、各プロバイダーの売上の急増ぶりを見て分かるとおり、まだ市場は拡大の一途を辿っている。おそら く今後も大手企業による買収は行われるであろうが、市場再編が本格化するまでにはまだ数年を要するのではないだろうか。

マイクロソフト社

 マイクロソフト社は95年8月24日、おそらく将来も含めて、会社の歴史で最大の製品 Windows95の販売を開始した。衆知のとおり、これに併せて同社は極めて大がかりな宣伝イベントを各地で繰り広げた。英国では24日付けのタイムズ 紙をすべて買取り、150万部を無料で読者に配布し、ニューヨークではエンパイヤ・ステート・ビルをWindows 95のトレードマークと同じ色の3色にライトアップし、全米のテレビで信じられないくらい退屈な30分の特別番組を放映した。そうそう、CMに使われた曲は、マイクロソフト社にもビル・ゲイツ会長にも似つかわしくないローリング・ストーンズだったことも忘れてはいけない。業界ではいくつものジョークが流れた。Macintoshのファンにはこれが一番喜ばれるだろう。「Windows 95であなたのPCもMacintosh並みに。ただし87年版だけど」
 Windows 95の販売本数は最初の4日間で100万本を超えた。100万本を達成するのにMS-DOS Ver.6は40日、Windows 3.1は50日かかっていることを考えると、これはすごい記録である。

 マイクロソフト社自身が「歴史に残る偉大な日」と讃える日は、マイクロソフト・ネットワーク(MSN)のサービスが開始された日でもあった。MSNは、94年11月まで「マーベル」のコード名で開発を進めていたオンラインサービスで、ちょうどアメリカ・オンライン(AOL)やコンピュサーブのようなものである。マイクロソフト社の関係者は、年内に200万人の加入が期待できると述べているが、 Windows 95の売れ行きを考えると、それも夢ではないかもしれない。
 このMSNには最初からインターネットへのアクセス機能が組み込まれている。当初、WWWへのアクセス機能だけは、MSNのサービス開始から数カ月遅れると発表されたが、実際にはWindows 95の発売に間に合った。
 ただ、MSNの評判はサービス開始後はそれほどでもない。既存の商用BBSと比べて、コンテンツはまだ十分整備されていないし、料金体系に大差はない。ちなみに一番安い料金体系を選択すると、月に3時間の利用だと、MSNは圧倒的に安いが、5時間以上になると差はかなり縮まり、25時間を超えたところでAOLやプロディジーの方が安くなってしまう。

 マイクロソフト社は、自社の製品をデファクト・スタンダードにするという戦略を展開してきた。おそらく、この分野においても同じような戦術を展開してくるだろうと想像される。事実、Windows NT用のサーバー用ソフト「ジブラルタル」「カタパルト」(いずれも開発コード名)を開発している。マイクロソフト社は、既にUUNETテクノロジー社に出資しているだけでなく、スパイグラス社からMOSAICのライセンスも取得している(実はマイクロソフト社はネットスケープ社とも交渉を進めていたのだが、ネットスケープ社のジム・クラーク会長が「当社にはメリットがない」と断ったために、スパイグラス社と組んだのだと言われている)。また、マイクロソフト社はインターネット上の強力な検索エンジンである「ライコス・カタログ」の使用権も獲得している。ライコスはカーネギー・メロン大学で開発されていた WWWサーバーの検索システムで、数百万件のドキュメントがインデックス化されているという。ちなみに、ライコスには、新しいWWWサイトや更新されたドキュメントを検索し、タイトル、作成日、頻出単語、最初の20行などを自動的にインデックス化する技術が用いられている。

 この様にマイクロソフト社は、インターネットを自分の庭にするための計画を着々と進めている。しかし、ネットスケープ社が提携を断ったように、インターネットの先住民はマイクロソフト社の進出を歓迎しているわけではないし、専門家の中には参入のタイミ ングが遅すぎてこの市場では2番手にもなれないという声もある。また、MSNにアクセスするソフトがWindows 95にバンドルされている問題を、司法省が反トラスト法違反容疑で継続して調査中であることもある意味では足枷になっていると見なければいけないだろう。

IBM社他

 IBM社は、マイクロソフト社に比べれば早くからこの世界に参入している。仮に80年代にスタートしたBITNET(IBM機をホストとする大学の計算機センターを結ぶネットワーク)を別の話だとしても、90年9月には、MCI社及びミシガン州の大学のコンソーシアムであるMerit社と協力してANS (Advanced Network and Services) 社を設立し、当時最大の教育・研究用のバックボーンであったNSFNETの運営に関与していた。当時はバックボーンに利用するルータの開発に焦点が当てられていたのだが、現在はサーバー用のワークステーションからWWWページの作成サービスまで、インターネット関係のあらゆる商品、サービスを提供している。例えば、94年12月にはファイヤーウォール技術サービス提供を中心とするインターネット関係の新サービスメニューを発表。これにはWWWホームページ代理作成、WWWによる情報提供支援サービス、インターネット接続のコンサルティングなどが含まれている。95年1月には4月から企業向けにインターネット・システム構築サービスを提供すると発表。94年12月に発表したサービスに加え、インターネットへの接続、関係アプリケーションの提供、情報提供用のサーバーのセットアップ、オンライン受注用システムの構築、各種セキュリティサービス、ドメイン名の取得などをメニューに加えた。さらに95年4月には、インターネットを利用したオリンピック中継、エレクトロニック・パブリッシング・パッケージの開発、 IBMグローバル・ネットワークの強化、セキュリティシステムの開発などの事業計画を発表している。

 こうした全方位的戦略を取っているのはIBM社だけではない。他のコンピュータメーカーもIBMほどではないが、様々な商品、サービスを提供している。例えば、アップル・コンピュータ社は、Macintoshの上位機種を用いた各種サーバーをソフトウェアと一緒に販売している他、95年4月、教育関係者向けに「パーソナル・インターネット・ソリューション・バンドル」を、95年8月には、ネットスケープ・ナビゲータやインターネットラジオなどを聞く際に必要な「リアル・オーディオ」が付属している「インターネット・コネクション・キット」を発表している。

通信事業者の動向

 長距離通信事業者の中で、早くから積極的にインターネットに関与してきたのはMCI社とスプリント社である。NSFNETについては、国内のバックボーンはMCI社、海外との接続はスプリント社というおおまかな住み分けが行われていたように見える。ただ、商用サービスの開始はスプリント社の方が早く、92年4月にSprintLinkのサービスを開始している。

 一方のMCI社は95年3月、当初予定より2カ月ほど遅れて「インターネットMCI」サービスを開始した。このサービスには、電話回線及び専用線によるアクセスサービスの他、種々のソフトウェア、「マーケットプレースMCI」と名付けられたサイバーモール、コンサルティングなどが含まれている。ちなみに、ダイアルアップによる接続料金は月5時間以内は9.95ドル、それ以上は1時間2.5ドルの追加料金という体系になっている。

 残された巨人AT&T社が、インターネット市場に本格的に参入すると発表したのは95年8月のことである。サービスの名前は"WorldNet Services"。AT&T社はこのためにウォールストリートで人気のネットスケープ社や大手出版企業のマグローヒル社、インターネット内の情報を捜すためのディレクトリ開発で知られているマッキンレーグループ、"agent"と呼ばれるソフトウェアをネットワークに配信して情報検索を行うソフトウェアを開発しているバリティ社などと提携している。なお、この1カ月前には、インターネット・サービス・プロバイダーのBBNプラネット(BBN社の子会社)に800万ドルの出資を行うことを明かにしている。

 地域電話会社の中にもISP事業への参入を決定したところがある。パシフィック・ベル社は95年3月、カリフォルニア州でインターネット接続サービスを開始すると発表した。同社のサービスは、回線からハードウェア、ソフトウェアまで必要なものをすべて提供するもので、接続の繁雑な手間を省き、確実にインターネットに接続できるとしている。RBOCsでこうしたサービスを提供するのは初めて。サービスの開始は5月からで、料金は専用線サービスで月525ドル程度からとなっている。また、USウェストも子会社を使って95年10月からインターネット接続を含む各種サービスの提供を始めた。

大手商用BBSのその後

 3、4カ月前に商用BBSの現状について報告したが、インターネット関係のその後の動きを拾ってみよう。ちなみに、95年7月には商用BBSの利用者は850万人に到達している。

 95年7月にユーザ数が300万人を突破し、世界最大の商用BBSになったアメリカ・オンライン(AOL)は引続き積極的な企業買収、事業提携戦略を繰り広げている。94年11月にインターネットサービス拡充のために、インターネット関連ツールを開発しているナビソフト社とブックリンク・テクノロジー社を買収し、その直後にANS CO+RE社を買収すると発表。95年3月にはBBN社との事業提携を発表。さらに95年5月には、Medior社とWAIS社を買収すると発表している。ちなみにMedior社は双方向型メディア製品の開発を専門とする企業で、エンタテイメント、出版、教育、エレクトロニック・コマース等の分野で150種類以上の製品を開発・販売している。一方のWAIS社はAOLがインターネットに接続するためのゲートウェイの構築ですでに協力関係にあり、インターネット上で大規模なデータベースが構築できるWAISサーバーを開発・販売している企業である。このAOLは、95年8月からインターネットへのフル・アクセスを提供する「インターネット・ブランド・サービス」を開始すると発表している。また、AOLはインターネットサービスのために、"The Whole Internet"等のインターネット関連書籍の出版で有名なO'Reily & Associates社の子会社であるGlobal Network Navigator社を1100万ドルで買収している。

 ユーザ数でAOL社に抜かれ、第2位の商用BBSとなったコンピュサーブも負けてはいない。コンピュサーブの親会社であるH&Rブロック社は、95年3月にスプライ社を1億ドルで買収すると発表、95年4月にはインターネットへのフル・アクセスの提供とWWWブラウザの配布によってインターネット事業を本格的に開始すると発表している。

 第3位のプロディジーは、すでに94年末から独自でWWWへのアクセスサービスを開始しており、95年5月には個人会員向けにWWWの作成サービスも開始している。このWWWのホームページが簡単に作れる"Homepage Creator"は、親会社のIBM社と共同開発したもので、HTMLの知識がなくても、あらかじめ準備されたテンプレートに情報を入力するだけで、初心者にも簡単にホームページが作れるようになっている。

 商用BBS第4位のデルファイは、そもそもインターネットへの接続を主要サービスとするBBSである し、eWorldも95年6月、インターネットアクセス機能を強化した新バージョンを発表しており、米国のユーザにとって、商用BBSとインターネット・ サービス・プロバイダー(ISP)の違いはますます分かりにくいものになってきている。

HotJava

 サン・マイクロシステムズ社が開発した簡易プログラム言語「Java」とJavaに対応したブラウザ「HotJava」が注目を集めている。ニューヨーク・タイムズ紙も、95年9月25日には「Making the PC Alive」という見出しでこのJavaを取り上げているくらいだ。ちなみに、Javaと言えば、言うまでもなくインドネシアの本島の名前、あるいはその 特産品であるコーヒー豆の名前であるので、日本語ではジャワと読むべきかもしれないが、英語ではジャヴァと発音される。

 Javaは、サン・マイクロシステムズ社のJames Goslingが率いるソフトウェア設計チームが4年の歳月をかけて開発した言語で、比較的C++に似ていると言われている。このJavaをWWWの記述 言語であるHTMLに付加することによって各種マルチメディア・データをリアルタイムで表示することが可能になる。例えば、コカコーラ社のホームページのボトルキャップをクリックすると、例の白熊がコーラをガブガブと飲み干すアニメーションが現われるというように。つまり、この技術を採用するとより能動的な情報提供と魅力的なホームページ作りが可能になるのである。

 Javaで書かれたプログラムは、Javaのコンパイラを内蔵しているHotJavaのようなWWWブラウザによってコンピュータで実行可能な形に変換される。つまりJavaで書かれたプログラム(アプレットと呼ばれている)は、Javaを解釈するブラウザがある限り、どんなコンピュータでも同じ様に動かすことが可能になる。現在Javaは、WWWのホームページでアニメーションを動かすことができるものとして注目を浴びているが、実際にはWWWのブラウザの上でJavaで書かれた表計算のプログラムを動かすこともできる。つまり、回線さえ十分太くなれば、どんな種類のアプリケーションでも必要になった時に適当なWWWサイトにアクセスしてブラウザ上でそのアプリケーションを動かすことが可能になる。これはまさにプログラム・オン・デマンドの世界だ。

 WWWのブラウザ市場の約75%を占めると言われているNetscape Navigatorで有名なネットスケープ・コミュニケーション社はサン・マイクロシステムズ社とJava移植のためのライセンス契約を提携した。また、オンライン電子出版システムを開発・販売しているエレクトロニック・ブック・テクノロジーズ社は、SGMLで記述された電子ブックの検索ツール 「HotJava DynaWeb applet」の開発を進めている。市場で約75%のシェアを占めると言われているNetscape Navigatorに採用されれば、間違いなくJavaはデファクト・スタンダードになるだろう。これでまた一つ、インターネットの世界が広がるのではないだろうか。

RealAudioとインターネットラジオ局

 インターネット上でリアルタイムで音声を再生することができるソフトがある。プログレッシブ・ネットワークス社の「RealAudio」である。従来から音楽やスピーチなどのファイルを公開しているホームページは少なくない。ホワイトハウスにはクリントン大統領のスピーチやファースト・キャットであるソックス君の鳴き声のファイルがあるし、新しいCDの試聴ができるサイトもある。しかし、これらの従来のサイトは音声ファイルを一度ダウンロードしてから音声を再生する方式であった。RealAudioはデータをダウンロードしながら、音声を再生してくれる。つまりここでの「リアルタイム」は、データを受け取りながらという意味になる。したがってつまらないと思えばいつでもデータのダウンロードを中止することができる。もちろんリアルタイムと言っても、インターネットの世界だから、情報はパケットで送られてくるので、ある程度の速度は必要である。データは圧縮されて送られてくるので、音声ファイルによってリアルタイムであるのに必要なデータ通信速度は変わってくるのだが、概ね1秒あたり1000バイト前後である。したがって、14.4Kbpsのダイアルアップ接続で十分だということになる。

 米国ではこの技術を利用したインターネットラジオ局が人気を集めている。たとえば、95年2月に開設されたインターネット上のラジオ局「Radio HK」はRealAudioを利用しており、インターネットにIP接続されてさえいれば、リアルタイムで放送を聞くことができる。音質はAMラジオ並みであるが、東京大学のリスナーが参加する番組なども放送されており、かなり話題になっている(Radio HKのURLは<http://www.hkweb.com/radio>)。本来、放送地域を限定されているFM放送局が、 インターネットを利用して世界に発信を始めるケースもある。たとえばノースカロライナ州のWXYC-FM局は94年11月から、カンザス州のKHJK- FM局も94年12月から放送を始めている。こうした放送局には世界中のリスナーから電子メールが届いているそうだ。また、大手では全米8地区で21の放 送局を持つラジオ・データ・グループが、95年8月にインターネット・ラジオ放送を開始すると発表している。サーバーソフトはジン・テクノロ ジー(Xing Technology)社の「ストリーム・ワークス」が利用される。このストリーム・ワークスは、デジタル・ビデオや音声関連技術を専門とするジン・テク ノロジー社から同じ8月に発表されたばかりで、同社によれば、データ圧縮技術にはMPEGを採用。ISDN回線でフルモーションビデオを送ることができ、 オーディオもCD並みの音質を確保できる性能を持っている。

 RealAudioはオーディオ・オン・デマンドを実現するソフトであるが、ISDN回線クラス以上の通信回線が普及すれば、このストリーム・ワークスのようなソフトによってインターネット上でビデオ・オン・デマンドが流行するようになるのだろうか (バックボーンが破裂しないとよいのだけれど)。

フリーネット

 オハイオ州クリーブランドで始まったフリーネットが各地に拡大している。95年9月に数えたところ、 全米で149のフリーネットを確認できた。フリーネットは米国特有のものではなく、カナダやオーストラリア、欧州の各国にもみることができる。フリーネッ トは地域のコミュニティによって運営されるコミュニティのためのコミュニティが所有するコンピュータネットワークである。発祥の地であるオハイオ州には 18のフリーネットがある。フリーネットはインターネットへのアクセスを提供しているが、目的はあくまでもコミュニティに必要な情報をコンピュータネット ワークによって提供することにある。どのような情報サービスに重点をおいているかは、ネットによって異なるが、具体的には、一般市民への情報提供(利用料 はただ)、公共サービス(公共図書館の書籍検索やコンサルティングサービス)、地方自治体への窓口(議員への陳情や意見の送付、自治体のDB利用、地方議 会の議事録閲覧など)、中小企業育成(人材募集、情報検索、コンサルティング)、農村地域の振興(都市部との交流、地域情報の交換)などに利用されてい る。

 このフリーネットの設立と運営は、NPTN (National Public Telecomputing Network) という非営利の団体が支援してくれる。NPTNは、コミュニティでどのように委員会を発足させればよいか、どんなハードウェアやソフトウェアを揃えればよいか(人口5万人以下の田舎用キットと5万人以上の都市用キットが用意されている)、どのように現実的な予算を立てるかを指導してくれる。もちろん、運用開始後の様々な相談にも応じてくれる。
 フリーネットは、地域の住民と地方政府とのコミュニケーションの改善に役立つのはもちろん、公立学校の教育にも、中小企業の育成や誘致にも役立つだろう。ただ、予想されるとおり、ボランタリーで運営されているフリーネットはその多くがスタッフ不足、設備を拡充するための資金不足などに悩まされているらしい。日本でもインターネットがブームになっているが、米国の149ものフリーネットは地域の情報化に取り組んでいる地方公共団体や、情報化によって地域振興、農村地域の振興を考えている団体・組織の参考になるのではないかと思う。

(おわり)

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