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事業戦略大学(教員1名、生徒無限大) 第1回 事業戦略企画はなぜ難しいのか?「考え抜くための戦略フレームワーク入門」コース

事業戦略計画の目的を明確化することの重要性

■ 多くは計数計画だけに終わってしまっている

仕事がら、中期計画、事業計画書を拝見する機会がよくあるが、多くの場合、事業戦略計画の重点が計数計画に置かれており、戦略部分のウエートが低い。計数計画に展開する前の事業戦略企画に、ある程度の手順を踏んで時間をかけている組織は少ない。外部環境分析から内部環境分析、K ・F ・S (事業成功の鍵)の分析、事業戦略ビジョンの策定といった事業戦略企画の標準的な方法を共通言語として、組織的に企画に取り組んでいる会社は、10%にも満たないのではないか事業に参画する人の多くが、事業の戦略企画に対し曖味さと不安を感じながら、目の前にある″当面の課題″に取り組んでいるのではなかろうか。

しかし、いくら一生懸命業務を行っても、事業のあるべき方向性、市場での戦い方が悪ければ、努力はすべて意味のないものになる可能性がある。日本企業の多くは海外の組織に比べ社員全般のモラルも高く、業務能力に優れていると確信している。しかしそれ故に、戦略面での失敗が大きなダメージになってしまう可能性が心配である。

■事業戦略企画が難しい三つの理由

では、なぜ計数計画面ばかりに目がいき、事業戦略面が不十分になりがちなのか。

1つ目に、組織の中で事業戦略計画を策定する目的が曖昧なまま進められがちなことが挙げられる。これは意外に思われるかもしれないが、皆さんが事業戦略計画を企画する際、「何のための計画か?」について、明確に答えられることは少ないのではないか。「組織を拡大する」「シェアなどの勢力基盤を拡大する」「技術力を向上させる」「長く続いたブランドを守る」といった、ぼんやりした目的が暗黙的にはあるものの、ビジネスとしての明確な目標はあまり考えられていないことが多い。具体的には、株主をはじめとしたステークホルダーに対して約束すべき成果が不明確なのである。
事業戦略にはたくさんの利害がからむ。各ステークホルダーの目的や、成果認識という側面からの議論は、和を重んじる日本の慣習ではついつい避けたくなるものである。事業戦略計画の基本的な策定目的とは、本書の冒頭に述べた通り、「限られた資金の範囲で、利益の最大化と資産の最適化を図ること」であり、それは各ステークホルダーに明確なベネフィツトを示すものでなければならない。

2つ目は、事業戦略の企画作業そのものが複雑であることが挙げられる。事業戦略の企画作業には、他の事業活動の作業と比較して特異な性質がいくつもある。情報の量と種類もかなり多い。その上、組織横断的検討が必要であり、検討視点も複数ある。従って検討のプロセスが長く、時間がかかることが多い。

また、アウトプットが構造的なものである一方で、多くの人に理解してもらうためにメッセージとして単純化する必要性もある。議論が混沌としてまとまらないリスクもある。結果として、時間をかけるメリットや必要性は強く感じるが、自分が議論をリードするにはためらいが出てしまいがちである。事業戦略企画とは、このように非常に複雑な特徴を持つ仕事なのだ。
 
3つ目は、事業戦略企画作業にはかなりハードな利害調整力が必要とされる点であろう。営業部門の利益は製造部門の利益とは必ずしも一致しないし、製造部門と設計部門も同様である。会社全体や事業全体の「利益の最大化と資産の最適化」に向けて各組織をまとめていくには、強い権限とリーダーシップが必要である。そのリーダーシップは短期間に育成できるものではない。ある程度の資質と多くの挑戦の経験が必要である。事業戦略企画をリードできる人材を育てるには相当な時間と努力を要する。

■効果的な事業戦略企画の押さえどころ

効果的に事業戦略企画を作成するポイントを挙げるとすれば、1つ目は「企画の標準的な方法論をある程度身につけ、基本的な企画方法で迷わないようにすること」であろう。事業戦略企画の方法については、本コラムや他の事業計画策定に関する書籍に示してあるような、ごく標準的な方法で十分である。

2つ目は、前述のように、事業戦略計画策定の目標や目指すべき目標をできるだけ明確にすべきである。目標の明確化は数値目標化に代表されるが、その場合、戦略的に意味を持った指標を選定できるかが重要であろう。売上げや利益だけでなく、資産の構成やブランド、あるいはビジネスモデルの確立といった、財務指標では表しにくい非財務指標についても工夫して、仮にでも目標値化すべきである。そして、事業戦略企画の仕事は情報量が多く、企画作業も長く複雑で、利害関係者も多い。そのため企画の作業中は、目的、目標を絶えず意識することが大変重要なこととなる。目的、目標が曖味なことは、目指すべきスペックが決まっていない製品を企画するのと同じである。企画開発に膨大な時間がかかる上に、競争力のないものができあがってしまう可能性が高い。

3つ目は「将来の変化や変動」に注目することである。事業戦略企画段階では、さまざまな内部環境や外部環境を分析するが、大事なのは、それらの「将来の変化や変動」である。戦略的な問題解決は、単に過去を分析するのではなく、将来の変化をうまく活用することで可能になる。環境分析は、ともすると過去に起こった事実を分析するのみで終わってしまいがちである。過去の分析のみからでは将来の戦略は生まれない。それどころか、間違った意思決定をしてしまうおそれがある。さらに、自社の弱みを強みに変える発想、または自社の強みを活かせる発想力の重要性を意識することが事業戦略を効果的なものにしてくれる。

組織も個人も同様であるが、過去に体験した成功は、弱みを意識しそれを直そうとする努力からではなく、弱みを強みに変える思いきった発想や強みへの徹底的な注力が成果に結びついて生まれたのではなかろうか。では次項から、事業戦略企画段階で行うさまざまな内部環境や外部環境の分析手法について解説していく。

本質的思考のための問い

問1:リーダーや管理職が業務に追われず、本質的な戦略思考をするためにはどのような工夫が必要か?

問2:強みを基軸にする戦略はなぜ有効なのか?

問3:戦略とは現在と過去を分析するのではなく、将来を構想することですが、どうすれば将来を構想できるのでしょうか?


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