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『カメラは、撮る人を写しているんだ。』を読んだ日。

ワタナベアニさんの2冊目の著書『カメラは、撮る人を写しているんだ。』が、1月31日に刊行された。

SNSでは様々なバリエーションの表紙や、師弟の物語として書かれていることなど、楽しい事前情報が飛び交っていて、発売を待っている間1mmも退屈せずに、アニさんのnote:写真の部屋、博士の普通の愛情などを読み返しながらのんびりと待っていたのです。

予約開始直後にAmazonで予約済みだったから、発売日には届くなぁとぼんやりとした夜を過ごしていました。

ところが‼︎ なんと発売前日1月30日にアニさんのスペースでお話する幸運に恵まれて、編集者の今野さんが、本をつくりはじめると同時にカメラを買ったこと、言葉と写真のことなど著書にまつわる様々なことを聞かせて頂いたのです。

ここから後は長くなるので、先にまとめてしまうけれど『カメラは、撮る人を写しているんだ。』は、これからカメラで写真を撮ってみようかなという人に向けられた様々なメッセージとともに、写真に限らず何かを学びとろうとする人に登場人物の会話を通して、能力を身につける方法や、独学の陥りがちな落とし穴を示してくれます。慎重に選ばれた平易な言葉の裏側に著者のアートディレクターとしての様々な造詣が漏れてくるのも、初心者(という言葉は好きではないのですが)だけではなく、初級者であると自覚する僕のような経験者にとってとても楽しい。

カズトはロバートの宿題を必ずやってきます。反論したり疑問を投げかけることはあってもです。中途半端に技術(と呼べないようなTIPSも含めて)身につけてしまった人には、案外難しいことかもしれません。覚える前に身についてしまったいらない知識とヘンな思考の癖を忘れる必要があるからです。

師弟の物語として読んでも楽しく、写真を楽しむための本としても素晴らしく、装丁も含めた一冊の本としてモノを作り、自分の看板で世に出すことの苛烈なまでの精緻でデリケートな、表現の奥深さをエレガントにみせてくれる写真の本です。

前夜のスペースで僕はすっかり舞い上がり、勢い余って新宿に35mm単焦点のちっちゃくて軽いレンズを買いに行ってしまいました。

SIGMA 35mm F2 DG DN | Contemporary

なんだか苦手で避けていた35mm。でもカズトに近い形で練習してみたかったので、本は大家さんに受け取って貰うことにして伊豆からカメラ屋さんを目指しました。途中の用事もあったので往復には14時間かかりました。

帰りの道すがら「帰宅してからヘトヘトで読むのももったいないなぁ」と思い、翌日を読書の日と決めて温泉旅館を予約しました。アニさんの本だからちょっとエレガントな温泉にしてみました。椎名誠さんの本ならテントだったかもしれません。買ったばかりのレンズと『カメラは、撮る人を写しているんだ。』を車に積んで小一時間ほど離れた温泉に向かいました。チェックインまで時間があったのでラウンジで読み始めました。

エレガントな温泉宿

読み始めてすぐに、35mmのレンズをカメラに着けてテーブルに置いてみた。少し意識していたのだと思います。ここに僕は本を読みにきたんだという記憶を残そうと思ったから。

ラウンジで読み始めた

『 5|写真は文学だ』まで読み終えたところで部屋に通された。貸切風呂を2箇所予約したのだけれど、とりあえずシャワーを浴びて部屋の中をバシャバシャと撮ってラップトップで現像してみました。そこにはヒドい写真が並んでいる。どこにピントが合っているのかわからない写真、さっきシャッターを押したのに何を撮ろうとしたのかわからない写真、そんな写真を見ながら、これは初心者以前にダメなものが多すぎるな… と暗澹たる気持ちになった。けれどその答えも書いてあったので、もう1度読み返そうと足湯BARへ場所を移しました。

カウンターの下には足湯

BARのカウンターで物思いに耽るおっさんもだいぶ気持ち悪いので、足湯をチャプチャプしながら、さっき読んだところを読み返す。こういうシーンでも紙の本はいい。スマートフォンだとやはり気持ち悪いし、ラップトップなんか開いたらワーケーションかぶれの阿呆に見える。第5章はスペースでも触れていたところだし、言葉を使って考える以上、思考の語彙が足りない人は考えることもそれなりになってしまうと思っていたので、何度読んでも読み足りない気持ちになった。僕は能書きばかり多い写真(写真を撮る前にステイトメントとか書いちゃうやつ)を撮ったり、レタッチをしたりして細々と暮らしているので、言葉にならないイメージに基づいて修正指示なんかもらって途方にくれたことは何度もあります。

能書き多めの僕の写真

第5章を堪能したあたりで、貸切風呂(その1)の時間が来ました。湯船が深くて立ったまま入る不思議な温泉。まったく似ているところはないのだけれど、平林勇監督の長編映画『SHELL and JOINT』を思い出してしまい記録用に持ち歩いているGoogle Pixel 8 Proで動画を撮ってみました。

脱衣場
不思議な温泉
お風呂でも読んだ

なんだか集中していないようだけど、そういう訳ではなくて読んでいると色々なことを試してみたくなってしまう本なのです。試しては読み、試しては考える、そうしていつの間にか0:00になる頃、もう少しで読み終わる36章になりました。なんだか読み終わるのが勿体無い気もしましたが、また読めるのだからまずは2度目の貸切露天風呂へ向かいました。

ドリンクとバスローブと小部屋付きの貸切露天風呂

少し肌寒い露天風呂で、頭をリラックスさせて小部屋のソファで最後まで読みました。最後にビールを飲みながら露天風呂に入り、アニさんのnote:写真の部屋 や、スペースでお話しされていたこと、色々な記憶を手繰りながら、とにかくたくさんの写真を撮ろう、そうして撮りたくないものは撮らないようにして、それから人の写っている写真を撮ってみようとも思いました。

そうして約1ヶ月、毎日写真を撮り、2日に一回現像して
この写真に僕は写っているのだろうかと、そういう目で写真を見るようになりました。

読み終えて撮った写真


PS.
後日、YouTubeで幡野広志さんがPHOTOGRAPHICAでアニさんが連載をされていたとお話されていました。そういえば… うちに何冊かあったと思い出して本棚を探したら2冊ありました。

当時、ぼくは写真にもカメラにもまったく興味も関わりもなかったのに、何故かこの雑誌が好きで書いてあることなどわからないのに時折買っていたのです。

ほんとうに不思議。

PHOTOGRAPHICA
PHOTOGRAPHICA


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