2023年11月 レモンの旬を迎えて振り返る

久しぶりのnoteです。この1年、いろいろなことがありすぎて文字通り目まぐるしく動き回っているうちに、2022年の活動報告もままならない状態で今年度の旬を迎えてしまいました。長文になり、これまでの記事とは少しテイストが変わりますが、この一年の記録と学びを残しておきたいと思い、日記のような形で綴っていますのでご容赦ください。

2023年4月、3年目の定植ワークショップにて

この1年をふりかえって

以前の記事にて、2022年の冬、突然高知県の一部を雪国のようにした大雪のことに触れました。忘れもしない12月23日のことです。その後の、レモンの木や樹上で凍ってしまったレモンの処理に追われていたことや、樹のダメージの大きさなどについてはインスタにてお伝えしてきました。そのポストでも触れていたかと思いますが、昨年のレモンは文字通り「豊作」でした。樹上には隙間がないほどのレモンがたわわに実っていた状態での大雪は、重量の面からも木に与えたダメージを倍増させる結果になってしまったのです。

樹上で凍ってしまい落下したレモンたち。土の上で自然発酵し、それはそれは良い香りでした。

剪定と摘果ができなかった訳

これまでとさレモン関連のメディアで触れずにきた出来事がありました。実は昨年(2022年)の9月、とさレモンの会において、唯一リスボン種のレモンを(とさレモンの会発足以前から)化学合成肥料・農薬を使わずに育ててきていた生産者の吉川さんが、急逝されてしまったのです。会員さんにお送りするレモン生産者のメイン的存在の農家さんでした。
 7月末まで、普通に電話でやりとりをしていて「近々草刈りに行きますね!」と話していたのに、私自身が8月に入ってコロナに感染してしまい、体調が完全に復活するまで時間を要したためひと月近く連絡も取れずにいました。そうこうしているうちに2022年度の会員募集の時期になり、いよいよレモン畑のお手伝いに行かねばと気持ちばかり焦っていた9月のことです。


いつも飄々と畑の様子を語ってくれていた吉川さん。自然薯や栗、ぶしゅかんなども育てていました。

必然的にレモンの栽培に関わることに

知人から突然、吉川さんの訃報が届き愕然としました。頭が真っ白になりました。あまりに突然で頭が追いつきません。
 約10年の間、吉川さんは50本ほどのレモンを栽培してきました。とさレモンの会がスタートしてから、さらに10本以上の苗も植えてとても前向きにレモン栽培に取り組んでくださっていました。残念ながらそれらのレモンを引き継ぐ人はいません。ご家族は”家業の柱"であるトマトの栽培で手一杯だからです。
 もともと"とさレモンの会"は、事務局が栽培過程の認証の役割も果たし、新しい流通とCSAの仕組み作り、そして生産者とステークホルダーの間を繋ぎ役として客観的な立場で運営する必要があったため、私自身が生産の当事者になる予定ではありませんでした。実際、私には栽培の実績も所有する圃場もないため、あくまで実験的に苗を植えて栽培はするものの、自分自身が農家として深く栽培に関わる計画ではなかったのです。
 ただしこのプロジェクトの立ち上げを決めた当初から、実例の少ない「持続可能な農法」を、"慣行農法"をメインにしてきた農家さんたちに取り組んでもらうためには、私自身も同じようにリスクを負ったり、一緒に栽培に携わって行かない限り、説得性に欠けて信頼が築けないのでは?という懸念があったので、主人を亡くしたレモンたちの管理は私がするしかない、そのチャンスを吉川さんが作ってくれたのだと考えました。とさレモン栽培者メンバーの西込さんにもご同行いただき、吉川さんご家族にこちらの意向を伝え、承諾を得ることができました。そうして2022年10月から、吉川さんのレモンたちのお世話=栽培をし始めることになったのです。

レモンに語りかける作業の日々

さまざまな栽培方法の理論や、ちょっとした剪定の知識はあったものの、それまではオーナーである吉川さんに遠慮していたこともあり、あくまで補佐的な作業のお手伝いにとどめていました。改めて技術書に目を通し、装備を整えて畑に入ってみると、猛烈に枝葉が成長する夏の間に(おそらく吉川さんの体調がすぐれなかったため)あまり手入れができていなかったレモンたちは、好き放題に枝を伸ばし、小さな実をこれでもか!と付けていました。あまりに枝が混みあっていて作業もままならない状態だったため、まずは剪定作業から始まりました。
 栽培と収穫がしやすいように、つまりは柑橘専門の農家さんが通常行う方法で剪定されてこなかった吉川さんの畑の樹たちは、技術書にある樹とはまるで違い、ある意味野性的。言い方を変えれば伸び放題。見れば見るほど、どの枝をどう切るべきかわからず頭が混乱しました。とはいえ、やるしかない。ブツブツと自問自答しながら、いちいち木や枝に問いかけながら作業を進めました。近くに人がいなかったことが幸いですが、側から見たら相当ヤバい人だったと思います。
 人が思うよりも、植物たちの成長の早さはずっとずっと早い。雨上がりには地面を覆う雑草たちがあっという間に腰ほどの高さになるし、つる系の植物は3メートルほどあるレモンの木の先まで伸び絡まっていきます。と同時に、レモン自体の成長も著しく、隣同士の木の枝がお互いを傷つけ合うほど伸びています。自然栽培=ほったらかし、は大間違い。肥料や農薬を使わない代わりに、草刈りはもちろんのこと、枝葉の手入れがとても重要になります。理屈ではわかっていました。がしかし、やってみると作業がとても追いつかない。

雪が降った後、年越し目前のレモン畑。これでも剪定をした後です。

迷う暇もなく出荷スタート、からの強制終了

 連日、レモンの木に問いかけながら、枯れ枝の剪定&収穫の日々が続きました。とさレモンの会にとって初年度だった前シーズンは、(2022年の)新年早々に「10年に一度の大寒波」が訪れ、たくさんのレモンが樹上で凍ってしまいました。吉川さんも周りの農家さんたちも「10年に一度の寒波やき、もう当分こん(来ない)やろ」と言っていて、私自身もそう思い込んでいました。それで、2022年の冬はきっとレモンも年も越せるだろうと読んでいたのですが….甘かった。天気予報に雪マークがついていた12/23の早朝、外を見て呆然としました。すでに雪が30cmほど積もっていたのです。

これは大雪から2日ほど経った、自宅前の様子。「南国土佐」がすっかり雪国に。

終わった….

と思いました。私の自宅から吉川さんの畑までは車で約40分。まず自宅から車を出すこともできないし、何しろ畑までの道のりは急勾配の坂道。「折れているかも」「もっと収穫しておけば良かった」と頭の中をさまざまな想いがグルグルめぐりましたが、考えても仕方がない。終日雪は止まず、むしろどんどん降り積り、ついには積雪50cmほどまでに。こんな経験は滅多にできないと思い、学校も休校となった息子と2人で庭にかまくらを作りました。
 雪に対する耐性のない”南国土佐”を襲ったこの大雪は、交通事情に多大な影響を及したことは言うまでもありません。なにせ”南国”、除雪車が圧倒的に足りない。ようやくレモンの畑に行けたのは積雪から4日後。
 枝や葉が密集していたため、雪はたくさん樹の上に積もったまま、あちこちの枝が折れており、数え切れないほどのレモンが枝ごと土の上に横たわっている状態でした。

雪と寒波で強制終了→搾汁加工へ

 それからはとにかく、少しでも販売可能なレモンの救出(収穫と出荷)に追われる日々。レモンにとって良くなかったのが、雪が溶け出してからの数日、極端に気温の高い日が続き、またその後にマイナス6〜8度の寒波がやってきたことです。(レモンの耐寒温度の限界はマイナス5度までと言われています)

 多くのレモンの中から少しでも状態の良いものを収穫し選別する作業が連日続き、農家の業務では栽培以外に検品・選別作業なども大きな比重を占めていることを痛感し、なぜ消毒薬などの農薬を使用してまで見栄えにこだわるのかも納得せざるを得ませんでした。
 ”A品””B品””等級””はねもの”などの言葉は青果の流通でよく使われる言葉です。見栄えやサイズなどで価格設定を選り分けるための選別目安があるためです。この選別作業、売り場が求めるから必要になり、消費者が見栄えの良いものを求めるために売り場もそうせざるを得ないのです。そしてその裏側では、農家さんが収穫を済ませた後に、たくさんの時間をその選別作業に費やしているのが現状です。これは、とさレモンのプロジェクトにとっても大きな課題だと痛感しました。それを痛感できたのも、吉川さんの畑を管理させてもらい、大雪と言う緊急事態をいきなり経験させてもらったおかげだと感じています。

レモンのお尻が少し茶色が立っているのは凍ってしまったあと。黒い点は剪定不足などで生じた黒点病。ただし切ってみると、果汁自体の味わいにはまったく問題のない状態でした。

 プロ会員さんの中には状況をご理解いただいた上で「AやBに関係なく」加工用にまとめて定価で購入してくださる方がいらっしゃり、心底ありがたいと思いました。また、完全に(外皮が)凍結してしまったレモンの一部を、東京のクラフトビールのブルワリーさんが購入してくださり、のちに美味しいレモンビールに生まれ変わらせてくれました。これらは、このプロジェクトの主旨をお伝えし、会員制にしたからこそ実現できた良いスタディケースだったと思います。とはいえ、私(事務局)にもっとマンパワーがあったら、さらに多くのレモンを無駄にすることがなかったはず…と言う反省もあります。
 当初の計画では、3年目以降に事務局主体の加工品製造に着手するつもりでしたが、大雪に後押しされ、急遽救い出したレモンを搾汁工場に出すことにしました。そうなると、一気にまとまった量の収穫と搾汁施設までの輸送手段の確保が必要になります。収穫に人を雇ったり、輸送に配送業者を利用した場合、出来上がる果汁はとんでもない高価な商品になってしまいます。ここでもまた頭を悩ませましたが、収穫で人手を使うのは1日のみと決め、輸送には、県内のプロ会員さんが週に一度(搾汁施設方面まで)走らせている営業車に便乗させてもらうことにしました。収穫の人件費(ギャラ)も、輸送費も、レモン果汁の原料代に加算されないよう「等価交換」で交渉。(その内容についてはここでは省略)
 そうしてトータル450kgのレモンを搾汁し冷凍保存できる結果となりました。


搾汁施設へ送り出す直前のレモンたち。柑橘を専門の施設で搾汁する場合、普通はトン単位。


 
とさレモンの会のポリシーとして、できるだけ農家さんの希望する価格でレモンを買い取り、それを使うプロ会員さんやサポーターのみなさんにはできるだけ農家さんの出し値で提供することを目指しています。通常流通はこの両者の間に、仲介業者がいくつか入ってきます。輸入レモンにおいては、生産現場から日本の売り場に届くまでに一体何社・何十社が入っているのか??スーパーなどの売値をベースに想像すると、一体生産者の手元にいくら残るのか、あるいはどれほどの大量生産をしているのか….。収穫されてから店頭に並ぶまで、かなりの日数を経ていることは間違いないのに、輸入レモンが妙に小綺麗なのもますます気になります。

つづく

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