7.天気予報の恋人

グレられる人が羨ましかった。
コンビニでたむろしたり、暴走族に入るような、
「仲間」がいるってことだから。


高校に退学届を出したからといって、
すぐにそんなグレ仲間ができるわけもなく、
ネットして、本を読んで、CDを聴いて、テレビを見て、
基本的には一人で過ごしていた。

この時期に吸収したものが、今の私を作っていると思う。

辞めた直後の春先、一番ハマっていたのが、ドラマ。
中でもお気に入りは、朝ドラの『ちゅらさん』と、
夕方から再放送をしていた『天気予報の恋人』だった。

朝ドラは、一人で徹夜した流れで8時から見て、見終わったら寝た。
昼過ぎに起きて、シャワーを浴びて、だらだらしてたら再放送が始まる。

『天気予報の恋人』を観るときは、隣のパン屋さんで、
ブーレという丸いフランスパンを食べた。
このパン屋さんはオープンしたばかりということもあり、
キレイな内装で、店の前にはいつもママチャリが停まっていた。

ブーレの皮はもっちり厚くて、ふわふわの生地はイースト菌の香りがした。

かけらをこぼさないように、ベッドの上で体育座りをしながらほおばる。
カーテン越しに光が射し、外の雑音は何も聞こえてこない。
夕方前の、一番静かな時間帯だ。

深津絵里のいじらしすぎる態度にもっといけと心の中で叫んだり、
ブレイク寸前の米倉涼子の今でこそ珍しい奥手キャラのヤキモキしたり、
テレビの向こうの恋模様に踊らされていた。

エンディングに流れる浜崎あゆみの『SEASONS』を聴き終え、
テレビを消すと、ブラウン管に私が映り込んだ。
時間はまだ16時。
薄暗い昼下がりの部屋で、何度も見た一人っきりの私の姿。

さみしいとか、悲しいとかは、あまり考えようとしなかった。
でも、ただただ「本当に一人っきりなんだな」とは、いつも思っていた。

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