Prologue

7月12日、土曜日。
オープニング曲に合わせて大勢の拍手の中を歩き、
一礼して見渡したその景色に眩暈がした。

小学校、中学校、高校、大学、会社と、
これまで関わってきた人たちが、今、同じ場所にいる。

数々のおめでとう、素敵だよ、お幸せに、が飛び交う中、
出会ってきた全ての人に祝福される喜びを噛み締めた。

夢見心地の一日があっという間に終わり、布団に入ったとき、
心臓が締め付けられるほどの強烈な寂しさを感じた。

何が「出会ってきた全ての人」だ。
決して忘れられない、忘れてはいけない4年間で出会った、
二度と会えない彼らがいるじゃないか。

出会い系のサクラで一緒にエロメールを送っていたバンドマン、
四畳半アパートでひと夏を共に過ごした停学中の高校生、
真っ白な腕に何本も引かれた赤い線を見せびらかした金髪の子。

今どこで何をしているの?
私、結婚したんだよ。
笑っちゃうよね。
中卒で無職で朝からチューハイ飲んで親に殴られていた私が。

どうやったら伝えられるんだろうね。
もうきっと、伝えられないんだろうね。
名前もケータイも全部記憶から消えてしまったんだから、
FacebookやLINEなんて分かるはずもない。

ただ残っているのは、肌に染み付いた東京の空気だけ。
大人になろうとしている私から、それすらも消えてしまいそうだった。

目つきが悪くて、誰にも甘えられず泣きそうな10代の私が、
夜の歌舞伎町で佇んでいる。

残すしかない。
私が覚えている限り、あの濃くて苦しくて熱い4年間を書かないと、
もう出会えない人に、本当に一生出会えなくなってしまう。

2001年から2005年。
ゼロ年代の東京に戻る旅へ、私は出る。

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