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4.中退の相談

高校を中退して間もない初夏の頃、
地元の友達から「私も高校辞めたい」とメールがきた。

かわいくて、勉強もスポーツもできて、
いつも明るく決して嫌われるタイプではなかったから、
この相談は意外すぎて戸惑った。

学校が終わった頃、吉祥寺駅北口のロンロンで待ち合わせた。
誕生日が近かったので、彼女が好きな色のアイシャドウをプレゼントした。
「わあ!ありがとう」いつも通り、甲高い声で素直に喜ぶ姿から、
高校中退なんて言葉は全く結びつかなかった。

高校を中退する人は、家庭の事情でもない限り、
勉強嫌いのギャルか、私のような偏屈かの二択だと思っていた。

私たちは井の頭公園に移動して、池を眺められるベンチに腰掛けた。
お金がない10代、どこかのカフェでゆっくり話すという発想はない。

平日の夕暮れの公園は、人通りが少なく、
夕日が射す木陰にいるといっそう寂しい気持ちになった。

彼女が高校を辞めたい理由は、クラスが荒れ放題で楽しくない、
いじめがあったり、友達が他の友達の彼氏を奪ったり、
ひどいことが日夜行われていてつらい、ということだった。

私は何も言えず、うなずくしかできなかった。
どんなことが理由であろうと、「もう辞めてしまいたい」と
逃げたくなる衝動は、誰よりも分かっていた。

本人が原因じゃないのだから続けてもいいんじゃないかな。
でも、辞めない方がいい、なんてどの面下げて言えるんだ。
「そんなことで辞めるな」って言葉は、自分も傷つくことになる。

沈黙が続いている時、数名の男性が話しかけてきた。
「僕たちお笑い芸人で、ライブに来てくれるお客さん探してて〜」
私は助け舟がきた、とばかりに、チラシを受け取り、
必要以上に彼らの話にリアクションした。

友達は明らかに苛立っている様子で、目を伏せて適当にあしらっていた。

彼らが去った後、「びっくりしたね」とつぶやいたら、
しばらくして「うん」と小さな声が返ってきた。

夕日が沈み、池が黒く深みを帯びてきた。
ご飯もあるし、そろそろ帰ることにした。

「結局なんにも解決しなかったなぁ」
最後にそう、ため息まじりに言い残し、
彼女は反対方面へ自転車を漕いで行った。

なんだか泣きそうになってきた。
私だって、高校を辞めてよかったとか、それが運命だとか、
誰からも正解を教えてもらえず生きているんだから。

この決断の答えが出るときが来るのだろうか。
少なくとも、何も動き出せていない私には、到底導きだせそうもなかった。

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