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【英国法】責任限定条項の有効性 ー企業間契約編ー

こんにちは。
お読みいただきありがとうございます。

本日は、英国法における企業間の契約に関する責任限定条項について書きたいと思います。

責任限定条項の定義として確立したものはありませんが、ここでは、当事者の責任の全部又は一部を免責する契約条項をいうものとします。例えば、「売主Aは、商品の引渡し時に買主Xが発見できなかった商品の不具合について責任を負わない」というような条項を言います。

企業間の契約における責任限定条項に関する主要な法律であるUnfair Contract Terms Act 1977(以下「UCTA」)の説明を交えつつ、解説していきたいと思います。

なお、法律事務所のニューズレターとは異なり、分かりやすさを重視して、正確性を犠牲にしているところがありますので、ご了承ください。


なぜ責任限定条項の有効性が重要なのか?

日本法の下でも英国法の下でも、対等な地位にあるべき契約当事者は、契約内容を、責任限定条件の設定を含めて、基本的に自由に定められます。

英国法は、この「自由」の幅が日本法よりも広いものの、紛争に至ってから、裁判所が責任限定条項を無効と判断することがあります。

契約書の役割は、つまるところ当事者のリスクの分配を定めることにあるにもかかわらず、責任限定条項が後になって無効を判断されることは、このリスク配分に基づいた当事者の勘定を根本から揺るがしかねません。簡単に言えば、カバーされていると思っていたリスクが実はカバーされていなかったという事態が、紛争になって初めて明らかになることを意味します。

そのため、「このリスクに関しては、責任限定条項を盛り込むことでは対応できない」と予め知っておくことは、契約交渉担当者として必須です。

では、企業間の契約における責任排限定条項が無効とされるのは、どのような場合でしょうか。以下で見ていきたいを思います。

Unfair Contract Terms Act 1977

UCTAは、企業間の契約に関する責任限定条項に関する規律を含む法律です。

こちらが条文です。

地域的適用範囲

UCTAの中身に入る前に、UCTAの地域的な適用範囲、つまりクロスボーダーの取引となった場合、どんなときにUCTAが適用されるのかを説明します。

UCTAの地域的適用範囲(*1)
・ 異なる国家間の当事者によって締結される、商品の売買契約又は商品の所有権若しくは占有が移転する契約には、UCTAは適用されない
・ 契約に適用される法律が、当事者の選択によってのみ英国法となる場合には、UCTAの一部の規定は適用されない

したがって、日本企業が英国企業との間で商品の売買契約を結ぶときには、UCTAは適用されないという結論になります。

BtoCの契約は?

UCTAは、ほとんどの条項について、企業と消費者の間の契約(消費者契約)への適用を除外しています。

もっとも消費者契約については、責任限定条項の有効性について定めた法律がないのではなく、Consumer Rights Act 2015により、規定が設けられています。

責任の限定が認められないもの

UCTAは、次の二点については、当事者が合意によって責任を排除・軽減することが認められません。

① 過失による死傷についての責任(*2)
② 所有権等に関する黙示の条件の違反についての責任(*3)

②にいう所有権等に関する黙示の条件とは、Sale of Goods Act 1979のs. 12に定められているものを言います。例えば、売買契約では、売主は商品を売却する権利を有しているという黙示の条件があるとされます(*3)。もし、買主が商品の引き渡しを受けられずに損害を被ったとき、(売買契約に売主の権利の有無が定められていない等の事情を考慮して)売主が商品を売却する権利を有しているという条件の存在が認められた場合には、売主はこれに違反したとして賠償責任を負います。このような責任を排除することができないということです。

責任の限定が困難なもの

UCTAは、次の点について、その内容が合理的でない限り、当事者が合意によって責任を排除・軽減することができません。

① 標準条項の違反についての責任(*4)
② 商品の品質に関する条件の違反についての責任(*5)
③ 不実表示(詐欺的不実表示を除く)についての責任(*6)
④ 過失による損害(死傷を除く)についての責任(*7)

合理性のテスト

では、条項が合理的か否かは、どのように判断するのでしょうか。UCTAのs. 11は、次のように定めています。

合理性のテスト(Reasonableness Test):
当事者が契約締結時に知っていたこと又は合理的に予期すべきであったことを全て考慮した上で、当該条項を契約に含めることが公正かつ合理的であること

これだけ読んでも漠然とし過ぎていますが、少なくとも、同等と言える交渉力を持つ当事者間で十分に交渉された条項であって、とりわけ、当事者がリスクを理解し、弁護士の助言を受け、保険に加入している場合には、合理性が認められると解されています(*8)。

その他の責任限定条項の制約

UCTAに基づく責任限定条項の無効化・制限に加えて、次のような根拠に基づいても、責任限定条項は制約を受けます。

責任の限定が認められないもの

自己の不正行為についての責任の全部又は一部を排除する条項は、公序良俗に反するものとして無効となります(*9)。

責任の限定が困難なもの

代表的なものとして、次のものが考えられます。

① 従業員・代理人・請負人の不正行為についての責任
② 故意の義務違反についての責任
③ 法律が定める救済に対する責任

これらについては、少なくとも、明確な表現でなければ、責任限定条項として有効にはならないと考えられています。

特に②については、対等な商人間の契約で責任限定条項の有効性が認められることは極めてレアではないかと思います。

おわりに

いかがだったでしょうか。
本日は、責任限定条項の有効性について書いてみました。

今回の話をまとめます。

・ 企業間の契約における責任限定条項に関する主要法令はUnfair Contract Terms Act 1977である

・ 次の責任を排除・制限するような責任限定条項は認められない
・・ 過失による死傷についての責任(UCTA)
・・ 所有権等に関する黙示の条件の違反についての責任(UCTA)
・・ 自己の不正行為についての責任

・ 次の責任を排除・制限するような責任限定条項は、合理性のテストを満たさない限り、有効でない
・・ 標準条項の違反についての責任(UCTA)
・・ 商品の品質に関する条件の違反についての責任(UCTA)
・・ 不実表示(詐欺的不実表示を除く)についての責任(UCTA)
・・ 過失による損害(死傷を除く)についての責任(UCTA)

・ 次の責任を排除・制限するような責任限定条項は、認められづらい
・・ 従業員・代理人・請負人の不正行為についての責任
・・ 故意の義務違反についての責任
・・ 法律が定める救済に対する責任

ここまで読んで頂きありがとうございました。
この記事がどなたかのお役に立てば、嬉しいです。


【注釈】
*1 s. 26 and 27, UCTA
*2 s. 2(1), UCTA
*3 s. 12, Sale of Goods Act 1979 and s. 8, Supply of Goods (Implied Terms) Act 1973。なお、"Term"には、PuffやRepresentationとの対比で契約法上特別な意味がありますが、本稿では説明を省いています。
*4 s. 3(1), UCTA
*5 s. 6(1A), UCTA
*6 s. 8, UCTA(s. 3, Misrepresentation Act 1967を参照)
*7 s. 2(2), UCTA
*8 Last Bus Ltd v Dawsroup Bus and Coach Ltd [2023] EWCA Civ 1297
*9 HIH Casualty & General Insurance Ltd v Chase Manhattan Bank [2003] UKHL 6


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