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【英国法】2024年会社登記実務の変更点 ーEconomic Crime and Corporate Trasparency Act 2023ー

こんにちは。
お読みいただきありがとうございます。

本日は、最近のEconomic Crime and Corporate Trasparency Act 2023(以下「ECCTA」)の施行に伴う会社登記の変更点について書きたいと思います。

ECCTAは、その名のとおり、経済犯罪の防止企業構造の透明性を確保することを目的として、2023年10月26日に国王の勅許を得て法律となったものです。英国の会社登記を所管するカンパニーズハウスによれば、ECCTAは、「1844年に会社登記制度が創設されて以来、最大の変化をカンパニーズハウスにもたらす」と言われています。

そこで、本日は、ECCTAの解説を通じて、今度、英国の会社登記の実務がどのように変わっていくのかを紹介したいと思います。

なお、法律事務所のニューズレターとは異なり、分かりやすさを重視して、正確性を犠牲にしているところがありますので、ご了承ください。


ECCTAの概要

まずは、こちらが条文です。

制定の背景と目的

イギリスは、日本やEU諸国と比べて、基本的に行政規制の緩い国です。しかしながら、経済犯罪に対する国際的な問題意識の高まりに応じて、イギリスは、マネーロンダリングを厳格に取り締まる意向を明確にしています。金融サービス業は、イギリスの経済の屋台骨であり、その健全性の維持は、国家運営にとって死活問題だからでしょうね。

このようにイギリスは、アンチマネーロンダリング政策に熱心であり、今回のECCTAも、この政策の一環であると言えます。

ECCTAの説明文書によれば、ECCTAの目的は次の3つです。

ECCTAの目的:
① 組織犯罪者やテロリストが、会社等の企業体を利用してイギリスの市場経済を悪用することを防ぐ
② 当局に暗号資産に関する執行権限を与えるとともに、金融部門の企業が経済犯罪を防止・検知するための情報を共有を可能とすることで、経済犯罪の広範な防止を実現する
③ カンパニーズハウスのサービスを向上し、企業データの信頼性を向上させることで企業を支援する

政府の特設サイト

他にも法律事務所が出しているニューズレターなどもあるのですが、カンパニーズハウス周りの改正点については、こちらの特設サイトの内容が、シンプルで分かりやすいです。

今回のエントリーでは、これをかなり参考にしたので、英語を読むのに苦労されない方は、こっちを読んだ方が分かりやすいかもしれません。

主な変更点

ECCTAは、全部で221条にわたる割と分厚めの法律であり、網羅的な紹介をすることは、ここでは困難です。そのため、主な変更点のうち、会社登記に関係しそうなものに限って書いていきたいと思います。

私書箱が登記住所として使えなくなる

ECCTAにより、会社は、常に、「適切な住所」(appropriate address)を登記上の会社住所とすることが求められるようになります(*1)。

ここでいう適切な住所というのは、登記上の住所に送付された文書が、会社を代表して行動する者の目に留まることが期待されて、文書の送達が配達証明によって記録することができる住所を意味します。

そのため、私書箱(PO Box)を登記上の住所とすることができなくなります。設立時の申請で私書箱を選択できませんし、現在、私書箱を登記上の住所としている企業は、今後カンパニーズハウスから警告を受けるかもしれません。

なお、英国子会社をスモールサイズで運営している日本企業の中には、レンタルオフィスを登記上の住所にしたり、登記申請を代理する法律事務所・コンサルの住所を利用(ポスタルサービスもセットで利用)してたりしている企業も多いです。これらは、私書箱ではないため、今回の規制には引っ掛かりません。

さて、多くの人が、「じゃあ、いつから使えなくなるの?」と思うはずです。文末に、主な変更点について、その開始時期をまとめたものを置きましたので、そちらをご覧いただければと思います。

取締役等の本人確認

現行の会社登記申請では、取締役等の本人確認は求められていません。

例えば、新たな取締役を選任した場合、新取締役の名前、住所、国籍、生年月日などを申請フォームに記載しなければならないものの、日本のように本人確認証明書の添付は不要です。そのため、登記にあたり、新取締役の実在性は、事実上問われません。

このような状況が企業を隠れ蓑とする経済犯罪を助長しているとの批判があり、ECCTAでは、一定の会社の関係者について、登記申請時に本人確認が必要となりました。制度変更後は、会社の設立時/取締役等の変更時にはそれらのタイミングで、既に登録済の取締役等については一定の猶予期間中に、本人確認が必要になるとアナウンスが出ています。

なお、本人確認が必要となるのは、取締役、及び、PSC(Person with Significant Control)と呼ばれる者です。PSCの定義はやや複雑ですが、基本的には、25%以上の株式を保有する者と理解しておけば大丈夫かなと思います。

この本人確認ですが、日本のように運転免許証の写しを添付すればOKという話ではなく、結構面倒で、おそらくスマホのアプリを使った顔認証が必要になるものと予想されます。日本の企業は、法律事務所や会計事務所に会社登記申請の代行を依頼することがほとんどですが、今後、取締役等の本人確認が必要となると、代行者の手間も増える分、(ぼくが言うのもなんですが)依頼料も高くなってしまうんだろうなと思っています。

決算書類提出のソフトウェア利用

イギリスの会社は、所定の決算書類を毎年カンパニーズハウスに提出しなければなりません。日本では、小規模の閉鎖会社であれば、決算公告としてBSとPLの要旨を官報に載せればよいだけなので、少し違いますね。

従来は、紙の資料を郵送で提出するか、PDF化してWEB上でファイリングすることもできましたが、今後は、所定のソフトウェアを使用しての提出が必須となります。

既にソフトウェアでの提出は実装されており、どのぐらいの会社がこれに移行済なのかは分からないのですが、今後は他の選択肢がなくなるので、準備が必要となりますね。

年次確認書の内容変更

イギリスの会社は、年に一度、カンパニーズハウスに登録されている会社の情報が最新のものであることを確認する書類を提出しなければなりません。

細かい点ですが、次回の年次確認時(新設の会社は設立申請時)にメールアドレスをカンパニーズハウスに提供する必要があります。なお、このメールアドレスはカンパニーズハウスと会社のコミュニケーションにのみ使用され、公表はされません。

その他にも、二次法で年次確認書の内容に変更を加えることが予定されています。

いつから変わるのか

イギリスの法律あるあるなのですが、国王の裁可を得て法律となっても、全ての条項が一斉に有効となるわけでは必ずしもなく、パートごとに効力発生時期が別になっていたり、追って制定される二次法に効力発生時期を委任している場合も多いです。

ECCTAについても、未だに効力が発生していない条項も多く、整理が必要です。そこで、上記の主要な変更点について、次のとおりタイムスケジュールをまとめました。

タイムスケジュール(本日時点)
・ 登記上の住所としての私書箱の使用禁止 -> 2024年3月4日(予定)
・ 取締役等の本人確認 -> 数か月以内に方針発表
・ 決算書類提出のソフトウェア利用 -> 今後2~3年をかけて移行
・ 年次確認書類の内容変更 -> 2024年3月4日(予定)

おわりに

いかがだったでしょうか。
ECCTAによる主要な変更点のうち、登記実務に関連するものをピックアップして紹介しました。

個人的には、取締役等の本人確認が必須となることが、特に実務への影響が大きいところだと思っています。

ここまで読んで頂きありがとうございました。
この記事がどなたかのお役に立てば、嬉しいです。


【注釈】
*1 s. 28, ECCTA


免責事項:
このnoteは、ぼくの個人的な意見を述べるものであり、ぼくの所属先の意見を代表するものではありません。また、法律上その他のアドバイスを目的としたものでもありません。noteの作成・管理には配慮をしていますが、その内容に関する正確性および完全性については、保証いたしかねます。あらかじめご了承ください。


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