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【英国法】代理店規制#2 ー留意すべき強行規定ー

こんにちは。
お読みいただきありがとうございます。

パート2ということで、前回に引き続き、イギリスの代理店規制について書きたいと思います。前回はこちら。

前回は、いかなる場合にイギリスの代理店規制に関する主要なルールであるThe Commercial Agents Regulations 1993(以下「1993年規則」)(*1)が適用されるのか、という文脈で、商業代理人の定義と地域的適用範囲の議論について確認しました。

今回は、1993年規則が適用される場合において、代理店契約の留意点について見ていきます。

なお、法律事務所のニューズレターとは異なり、分かりやすさを重視して、正確性を犠牲にしているところがありますので、ご了承ください。


はじめに

1993年規則は、意外と簡素な法令で、全部で23条までしかありません。

法務部の方などで、条文を読むことに慣れている人は一度ざっと読んでみても良いかもしれません。目次だけでもOKだと思います。

以下では、1993年規則の構成に沿って、どのような定めがなされているのかを見ていきます。

当事者の義務

Part 2(s. 3-5)は、プリンシパルと代理店の義務について定めています(*2)。

代理店の義務は、s. 3に規定されていますが、まあ代理人として普通のことを言っているだけなので、あまり気にしなくて良いです。

プリンシパルについては、次の義務が課せられていることが重要です。

プリンシパルの通知義務:
・ 取引の量が代理店が予想し得るよりも著しく少なくなることが予想される場合には、合理的期間内に代理店に通知しなければならない
・ 代理店が獲得した取引に関して、その受諾又は拒絶について、合理的期間内に代理店に通知しなければならない

Part 2に定める当事者の義務は、双方の合意で排除できません
そのため、プリンシパルは、必ず上記の通知義務を負うことになります。

代理店の報酬

Part 3(s. 6-12)は、代理店の報酬の計算方法と支払時期について定めています。

S. 6は、代理店契約において報酬の合意が無い場合の規定であり、実際に使用することは、あまりなさそうです。

また、コミッションの形で報酬を支払う建付けではない場合(例えば、成約件数に関わらず毎月定額の報酬を支払うなどのスキーム)は、Part 3の残りの規定(s. 7-12)の適用はありません。ただ、多くの場合、代理店に対して、コミッション形式での報酬の支払いがあるのではないでしょうか。

コミッションが発生するイベント

S. 7は、代理店契約期間中に、代理店にコミッションが発生するイベントを定めています。また、S. 8は、代理店契約期間終了後に、代理店にコミッションが発生するイベントを定めています。そして、S. 9は、代理店をスイッチした前後における新旧代理店の間のコミッションの分配について、定めています。

これらの規定については、基本的に、双方の合意により排除が可能と考えられています(*3)。

したがって、プリンシパルに最大限有利な規定とするのであれば、次の内容を代理店契約上で定めることが考えられます。

コミッションの発生イベントに関する代理店契約上の手当て:
・ 1993年規則のs. 7-9の適用を排除すること
・ 代理店は、代理店契約期間中に直接手配した取引に関してのみ、コミッションが発生すること

コミッションの支払期限

S. 10は、コミッションの支払時期について定めています。この時期は、双方の合意によっても、代理店に有利な内容で変更できません

遅くとも、次の時点までに支払いが必要です。

コミッションの支払期限:
・ プリンシパルへの支払が行われた日(*4)が属する四半期後の翌月末日

ここでいう四半期とは、代理店契約の開始日から起算して四半期という意味です。例えば、3月15日が開始日であれば、最初の四半期は7月14日となり、この間にプリンシパルへの支払が行われた取引については、8月31日までにコミッションを支払うことになります。

このほか、Part 3では、s. 11で、プリンシパルの責に帰さない理由により売買契約が履行されない場合に、コミッションが消滅することを定めています。また、s. 12では、コミッションに関するプリンシパルの情報提供義務等が定められています。

代理店契約の締結と終了

Part 4(s. 13-20)は、代理店契約の締結、変更、終了などに関する定めを置いています。

最低通知期間

S. 15は、無期限の代理店契約を終了する場合に、最低通知期間を定めています。双方の合意により、これを短縮することは認められません

最低通知期間:
・ 契約1年目は、1か月
・ 契約2年目は、2か月
・ 契約3年目以降は、3か月

なお、双方の合意によりこれより長い期間を設定することは可能ですが、プリンシパル側の通知のみ短い期間とすることはできません。たとえば、代理店からの終了通知は6か月を要求する一方で、プリンシパルからの終了通リは3か月で足りるような定めは、認められません。

なお、S. 16は、相手方の債務不履行等がある場合等の即時解除を代理店契約に定めることを認めています。

代理店契約終了に伴う補償・賠償

S. 17は、代理店契約の終了時に、代理店が、(3)-(5)に従って補償され(compensation alternative)、又は、(6)-(7)に従って賠償を受けられること(indemnity alternative)が定められています。

当事者が明示的に賠償を選択してない限り、補償が適用されます。つまり、補償が原則ということです。補償金と賠償金の算定方法の詳細は、ここでは割愛しますが、一般的には補償金の方がプリンシパルにとって低額となる可能性が高いです。

なお、この代理店契約終了時の代理店への補償・賠償は、双方の合意により排除することは認められません

S. 18は、代理店契約の終了が正当化される場合(例えば、代理店の債務不履行に基づく解除)に、補償・賠償が行われないことを定めています。

取引制限事項

S. 20は、代理店契約における取引制限条項について、次の場合に限り有効としています。

取引制限条項:
・ 書面で締結されていること
・ 代理店に委託された地理的地域又は顧客のグループ及び地理的地域並びに契約に基づく代理の対象となる商品の種類に関するものであること
・ 代理店契約終了後2年を超えないものであること

まとめ

いかがだったでしょうか。
1993年規則について、基本的なところは知って頂けたかなと思います。

代理店契約のドラフティングや解約手続について、次の点に気を付けるべきだと思います。

代理店契約に出会った際の留意点:
・ プリンシパルの通知義務
・ コミッションに関する規定(s. 7‐10)の排除と適切な手当て
・ コミッションの支払期限
・ 契約終了の最低通知期間
・ 契約終了時の補償金・賠償金
・ 取引制限条項

ここまで読んで頂きありがとうございました。
この記事がどなたかのお役に立てば、嬉しいです。


【注釈】
*1 Commercial Agents Directive (86/653/EEC) (OJ 1986 L382/17)
*2 Part 2のタイトルは"RIGHTS AND OBLIGATIONS"となっていますが、権利は特に規定されていないため、上記のような小見出しにしています。
*3 S. 7(1)(b)の「取引が、以前に同種の取引について(代理店が)顧客として獲得した第三者との間で締結された場合」に発生するコミッションについても、双方の合意により排除し得ることが欧州司法裁判所(CJEU)で確認されました(Rigall Arteria Management sp z oo spk v Bank Handlowy w Warszawie S.A. (Case C-64/21) EU:C:2022:783 (13 October 2022))。Brexit後のEU判例ではありますが、イギリスにおいてもpersuasiveだと思います。
*4 正確には、「第三者が自己の取引部分を履行したとき、又は、プリンシパルが自己の取引部分を履行すべきであった場合には履行すべきであったとき」です(s. 10(2))。


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