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【英国法】株式会社の組織・運営に関する日英比較#4 ー計算、その他の事項ー

こんにちは。
お読みいただきありがとうございます。

本日は、株式会社の組織・運営に関する日英比較の第4回です。今回は、計算とその他の事項について、比較していきたいと思います。

いきなりこの記事にたどり着いてしまった方は、第1回の記事から読んで頂けると分かりやすいかも知れません。

今回のトピックのバックグラウンド等は第1回に譲り、早速中身に入っていきたいと思います。

なお、法律事務所のニューズレターとは異なり、分かりやすさを重視して、正確性を犠牲にしているところがありますので、ご了承ください。


計算

事業年度

日本では、事業年度は、原則として1年であり(*1)、基本的にどの会社もこれに従っているはずです。業種にもよりますが、3月末日を事業年度の終期にしている会社が多いですよね。定款記載例でも、事業年度は、毎年4月1日から翌年3月末日までとしています(*2)。

なお、設立直後の初年度は、設立の日から事業年度の終期までが事業年度となります。例えば、10月25日に設立された会社の第1期は、10月25日から翌3月31日になります。

英国でも、事業年度は、原則として1年です。少しトリッキーなのは、事業年度の終期が設立日の属する月の末日となり、そこから1年間が次の事業年度となることです(*3)。

例えば、7月3日に設立された会社の場合、第1期は7月3日~7月31日、第2期が8月1日~翌7月31日となります。日本企業の子会社として英国に会社を設立する場合、事業年度を合わせたいと考えるでしょうから、設立のタイミングが合わない場合、事業年度の変更手続が必要となります。

配当

日本では、配当は、総会普通決議事項です(*4)。通常は、期末の配当が想定されていますが、取締役会設置会社が、定款に定めることにより、一事業年度一回に限り取締役会の決議によって剰余金の配当をすることもできます(中間配当)(*5)。

他方で、英国では、配当は、通常は期末に実施する建付けとなっているものの、英国会社法は、配当の宣言に関して株主の承認を要件としていません。したがって、定款に定めがない場合、取締役は、株主の承認なくして配当を宣言できると解されています。もっとも、モデル定款は、期末の配当の宣言について総会普通決議を要求しています(*6)。また、中間配当の宣言については、取締役により実施可能であり、回数に制限はありません(*7)。

なお、分配可能額については、細かいところまで確認できていませんが、基本的には、日英ともに同様の基準で算定されるという理解です。

その他の事項

資本金と設立時の払込み

日本では、最低資本金の定めはないため、資本金の最低額は1円です。なお、設立に際して、設立時に株主となるには、出資に係る金額の全額を払込まなければなりません。さもなくば、設立時株主たる地位を得ることは出来ません(*9)。また、払込取扱銀行は銀行であり、少なくとも銀行の関与なくして、株式会社は設立できません。

英国も、同様に最低資本金の定めはありません。また、Companies House
(日本でいう法務局)が提供する設立申請書の書式によれば、ポンド以外を払込むことも想定されています(*8)。ましたがって、その価値が限りなくゼロに近い価額(例えば、1ジンバブエドル)を設立時発行株式の額面とすることも、理論上可能ではないかと思います。なお、英国会社法は、設立時株主に全額の払込を要求しておらず、かつ、単に会社を設立するだけなら銀行の関与も不要です。

定款の認証

日本では、株式会社の設立時の定款について、公証人による認証が必要です(*10)。

他方で、英国ではそのような認証は不要です。上記のように銀行の関与も不要ですので、単に英国で非公開有限会社を設立するだけなら、かなり簡易な手続で済みます。

おわりに

いかがだったでしょうか。
本日は、日英の株式会社の組織・運営に関する比較のうち、計算とその他の事項について、まとめてみました。

全部で4回に及んだこのトピックも、今回が最後です。ここまで書いてみて、監査人(auditor)に関する事項や、取締役の責任&賠償責任の付保なっどについても触れていないことに気づきました。

また時間のあるときに、追記するかも知れません(多分)。

ここまで読んで頂きありがとうございました。
この記事がどなたかのお役に立てば、嬉しいです。


【注釈】
*1 会社法計算規則59条2項  *2 定款記載例27条
*3 ss. 390-391, CA 2006  *4 会社法454条1項
*5 会社法454条5項  *6 モデル定款30条1項
*7 ibid  *8 フォームについては、こちらをご覧ください。
*9 会社法36条3項等  *10 同法30条1項


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