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【英国法】暗号資産規制の現状とこれから

こんにちは。
お読みいただきありがとうございます。

本日は、イギリスにおける暗号資産規制の現状と、現在、取り組まれている規制強化の動向について書きます。

この分野は難解な用語が多く、ぼく自身も苦労しているのですが、「セキュリティトークンとは、、」みたいな説明を逐一書いていると全然進まないので、用語の解説はざっくり削りました。もし不明な用語があれば、検索すればだいたい一発なので、お手数ですがお願いします!

なお、法律事務所のニューズレターとは異なり、分かりやすさを重視して、正確性を犠牲にしているところがありますので、ご了承ください。


暗号資産規制の現状

イギリスにおける金融サービスの規制当局は、FCA(Financial Conduct Authority)です。

現在、FCAによる暗号資産ビジネスに対する規制は、かなり限定的であると評価されてます。具体的には、次の4点です。

暗号資産に対する現行の規制:
① セキュリティ・トークンに対する規制
② 電子マネー・トークンに対する規制
③ マネーロンダリング規制
④ 広告規制

① セキュリティ・トークンに対する規制

セキュリティ・トークンとは、株式や社債などのような伝統的な金融商品と同じ又は類似の機能を持つ暗号資産です。サイバーではなくて、「証券」の方のセキュリティですね。

セキュリティ・トークンは、その実態に応じて、イギリスにおける金融商品取引法の一つであるFinancial Services and Market Act 2000(以下「FSMA 2000」)における特定投資(specified investment)に該当する可能性があります(*1)。

特定投資に関連する一定のビジネスを英国で行う者は、Part 4A permissionと呼ばれる許可を得なけれなばならないことがあります(*2)。したがって、セキュリティ・トークンを取り扱う事業者もPart 4A Permissionの取得が必要な場合がでてきます。この許可が必要な事業者には他にも規制がかけられますがここでは割愛します。

② 電子マネー・トークンに対する規制

イギリスにおける電子マネー規制法の一つであるThe Electronic Money Regulations 2011(以下「EMR」)は、電子マネー(electric money)の発行を規制しています。

EMRでは、電子マネーについて、次のように定義されています(*3)。

支払取引を行う目的で資金の受領時に発行され、発行者以外の者によって受け取られる、発行者に対する請求によって表される電子的に貯蔵された金銭的価値

電子マネー・トークンはその名の通り、このような電子マネーとしての機能を営んでおり、多くの場合、規制の対象となります。

まず、規制の対象となる電子マネー・トークンの発行者は、EMRに基づき登録義務などを負います。

また、発行者が銀行などの一定の金融機関の場合には、FSMA 2000に基づき、Part 4A permissionの取得も必要です。

③ マネーロンダリング規制

英国のアンチ・マネーロンダリング(AML)規制の主要な法令は、Money Laundering Regulation 2017(以下「MLR 2017」)です。

MLR 2017は、FCAに対して、次の暗号資産事業者の登録簿を維持することを義務付けており(*4)、新たに暗号資産事業を営もうとする者は、登録を受けない限り、これが許されません。

・ 暗号資産交換業者
・ 委託管理型ウォレット業者

MLR 2017の登録を受けた事業者は、各種リスクアセスメントの実施、顧客に対するデューディリジェンス、従業員に対するトレーニングなどが求められます。

④ 広告規制

FSMA 2000は、同法の許可を受けていない者が、投資活動への誘導(金融プロモーション)を行うことを禁止しています(*5)。金融プロモーションを行ないたい場合には、当該プロモーションについて、FCAなどの許可を得なければなりません。なお、金融プロモーションには、電子メールやSNSへの投稿なども含まれ得ます。

ここで、適格暗号資産(qualifying cryptoasset)に関するプロモーションは、金融プロモーションに該当するものとされます。適格暗号資産には、上記①のセキュリティ・トークンや②電子マネートークンのみならず、ビットコインやイーサリアムも含まれます(*6)。

したがって、これらの適格暗号資産を取り扱う事業者は、FSMA 2000の許可を受けていない限り、原則として、金融プロモーションを行うことができません。

暗号資産規制の改革

現在、イギリスでは、次のような暗号資産規制の改革が行われています。

暗号資産規制の改革
フェーズ1:ステーブルコインの規制
フェーズ2:その他の暗号資産の記載

2023年2月、財務省(HM Treasury)は、暗号資産に関する将来の金融サービス規制の枠組みについて、コンサルテーションペーパーを発表しました。なお、意見公募は締め切られており、すでに財務省からのフィードバックも公表されています。

上記に述べたとおり、イギリスでは、フェーズ1とフェーズ2という、段階的な形で規制強化が進められる予定です。

フェーズ1:ステーブルコインの規制

コンサルテーションペーパーの発表前から、ステーブルコインの規制に関する議論は進められており、最近できたFinancial Services and Markets Act 2023(以下「FSMA 2023」)は、財務省に対して、ステーブルコインの記載に関する二次法を制定する権限を与えています。

二次法は未制定で、今のところ、2024年の早い時期に、議会の承認を得た上で制定されるだろうと言われています。

もう2月に入ってしまっていますが、「stable coin HM treasury regulation」と言ったワードで調べても去年の情報しかでてこないため、もしかしたら、もう少し遅れるのかもしれません。

フェーズ2:その他の暗号資産の規制

その他の暗号資産とは、ここまで述べてきたセキュリティ・トークン、電子マネー・トークン以外の暗号資産であって、ステーブルコインとは異なり、法定通貨の裏付けのない暗号資産が主に想定されています。

財務省は、前述のコンサルテーションペーパーに対するフィードバックの中で、暗号資産に対して、従来の金融規制の枠組みから外れたオーダーメイドの規制をかけることを断念したことを表明しています。これは、伝統的な金融セクターと暗号資産事業者の間で、不公平な競争が生み出されるという懸念に基づくものでした。

代わりに、暗号資産業者は、FSMAの規制枠組みの中に組み込まれることとなりそうです。セキュリティ・トークンが特定投資に指定されてPart 4A Permissionの取得を求められているように、その他の暗号資産についても、規制対象に組み込まれることとなりそうです。

このフェーズ2についても、二次法が定められる予定で、2024年に制定目標だそうです。

規制の対象となる暗号資産の種類やビジネスについて、色々と議論が交わされていますが、ここでは割愛します。まずは、二次法を待つ感じですね。

おわりに

いかがだったでしょうか。
最後に今日の記事をまとめてみます。

暗号資産に対する現行の規制:
① セキュリティ・トークンに対する規制
② 電子マネー・トークンに対する規制
③ マネーロンダリング規制
④ 広告規制

暗号資産規制の改革:
フェーズ1:ステーブルコインの規制
フェーズ2:その他の暗号資産の規制


ここまで読んで頂きありがとうございました。
この記事がどなたかのお役に立てば、嬉しいです。


【注釈】
*1 Part 1, Schedule 2, The Financial Services and Markets Act 2000 (Regulated Activities) Order 2001
*2 s. 55A, FSMA 2000
*3 Art 2(1), EMR
*4 Art 54(1A), MLR 2017
*5 s. 21(1), FSMA 2000
*6 定義は、The Financial Services and Markets Act 2000 (Financial Promotion) Order 2005のArt 2(1)のとおりです。


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