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0ゲートからの使者「41」

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何人もの人が重なりあって倒れていた。
ドームの壁は熱にも風にも耐えられるものであったはずだが、空気は灼熱を帯びてきていた。
玲衣は必死で身を起こし、よろけながら前方の玉座に向かった。
 
私の使命
私は責任を果たさなきゃ
私はやり遂げるんだ!
 
うわごとのようにそうつぶやきながら膝をついて階段を這い上っているときに、玉座両側それぞれにある大きな縦長の2枚のタペストリーに気づいた。
左に白い虎、右に黒い猫が描かれていた。
 
「ああ! イン! ヤン! こんなところにいたのね、私をどうか守って!」
 

玉座の両脇には、3メートルほどの高さのクリスタルでできたオベリスクが立っていた。
玲衣は足を引きずりながらそこへ辿り着くと、すぐに丸い鍵穴を胸の高さに発見した。
中は円錐状に穴が開いていた。
 
「ここだ! ああ、でもどっちからやったらいいんだろ?」
 
玲衣はペンダントを握りしめたまま2本のオベリスクの前でうろたえた。
スーサに尋ねたいけれど、もはや彼の姿はどこにも見えなかった。
阿鼻叫喚の光景しか目に入ってこなかった。
 
「だめ、できないこんなこと……なんのとりえもないどんくさい私にできっこない!」
 
妙な腹立たしさと無力感で膝から崩れ落ち泣いている玲衣の頭の中に、突如、甲高い強い声が響いた。
 
「最初は私、次はインの側よ!」
 
「ヤン?」
 
ハッと顔をあげ、黒猫が描かれたタペストリーを見上げた。
玲衣ははじかれたように立ち上がり、黒猫側のオベリスクの鍵穴に震える手でクリスタルを差し込もうとしたけれど、うまくいかない。
 
「落ち着け、落ち着け、落ち着け私!」
うわごとのようにつぶやきながらもう一度今度はきっちり差し込むと、クリスタルが突然まばゆく発光し出した。

すると鍵穴の手前に光る数字が10個浮かび上がった。
 
「スーサが言っていたのはこれだ。4つ選ぶのね。」
 
ズーン、ズーン、と不気味な音が外で響きだした。外のシェルターがそろそろもたなくなってきているようだった。
熱い空気にむせながら、玲衣は意を決し数字を選ぼうとしたが、いつも肝心なときに失敗してしまう自分を思い出して震えた。
 
「うう、どうしよう、これを間違えたら取返しつかなくなる。ここのみんなが消えてしまうかもしれない。私も消えたらきっともう元の世界に戻れない……」
 
弱気になった玲衣に、聞き覚えのある優しい声が心の中に届いた。
 
「れい、おちついて、だいじょうぶだよ、ぼくたちがついているよ!」
 
「イン!」
 
続いてヤンの声。
 
「玲衣、目を閉じて。これまでのこと思い出して! 玲衣にとって意味のある数字がきっと浮かんでくるはずよ!」
 
玲衣は流れていた涙を手の甲で拭うと、大きくうなずき、息を吸った。
目を閉じると、これまでのテラスとスーサと過ごした記憶が再生され、彼らとの会話が高速で早送りされていった。
 
「ゾロ目の数字は、次元間をつなぐ架け橋的な役目を持っていたりするものです」
「玲衣のゲートは今開かれてきているということよ」
「え、そうなの?」
「自分の内側と外側の世界がひとつになってきている証拠ね」
 
そうだ、ゾロ目の話をしていた日だ。
あのときシンクロが起きて目の前に来た車のナンバーは0のゾロ目と私の数秘……
 
0011!
 
玲衣はすかさずボタンを押す。
しかし鍵穴の手前に浮かび上がった10個の数字に何の変化もない。
 
えっ、違う!
 
一瞬うろたえたが、またすぐ目をつぶった。コマはもう少し先へと勧められた。

  
落ち着いて……
私にとって意味のある数字よ……
 
「ゆるしの心は数字の0です。どんな数字にだって0をかけたら0になりますよ」
 
スーサの声が頭の中に再生された。玲衣はパッと目を開け、数字のボタンを押した。
 
0、0、0、0!
 
すると、数字が点滅し出した。どうやら合っていた!
ひとつめのコードはクリア。玲衣はへなへなと床に座り込んだが、ハッと我に返り立ち上がった。

急いで白い虎の側に行き、今度は難なく鍵を差し込みオベリスクが光るのを確認した。もう一度、数字を選ばなければならない。玲衣は再び目を閉じる。 
 
大丈夫、大丈夫、
 
おまじないのように心で言葉を唱えた。
いつの間にか亡くなった祖母の声にそれは変わった。
 
だいじょうぶ、だいじょうぶ、
だいじ、だいじ……
 
「おばあちゃん!」
 
チカちゃんや瀬田さん、十和子の顔が浮かんだ。
そして一馬の顔も。両親も。
みな欠点もあるが、愛すべき人々だった。
   
そうだ、LOVEという言葉。
ゆるしへと向かう愛の9よ。
優も劣も善も悪も、すべてがゆるしゆるされ愛されている……。
 

玲衣は目を開け、深く息を吐きだし、数字を入力する。
 
3、6、4、5……。
 
数字が点滅した。

2柱のオベリスクの先端から強烈な光が発せられた。
目の前が真っ白になり、何も見えなくなった。
きゅるきゅるという音が遠くで響いていた。

白い光の強烈な洪水に飲み込まれ、玲衣の意識はどんどん遠のいていった……
 
 



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