見出し画像

舟木一夫と「青春歌謡映画」の時代


                   佐藤利明(娯楽映画研究家)

舟木一夫には「青春」という言葉がよく似合う。四十五年の芸歴を重ね、ファンと共に歩みを続けてきた今も、それは変わらない。1962(昭和37)年、高校二年の三学期に、地元名古屋の放送局・CBC放送の「歌のチャンピオン」で優勝し、その年の四月に上京。六月には遠藤実門下となり、歌手としてのスタートを切ることになる。

 そして翌1963(昭和38)年に6月、コロムビアレコードより、デビュー曲「高校三年生」がリリースされ大ヒット。街角からは舟木の歌声が流れ、詰襟服でステージに上がるその姿の爽やかさに、ティーンからお年寄りまで幅広い年齢層のファンが広がった。

 映画界がその人気を放っておく筈もなく、1963年11月には大映が『高校三年生』(弓削太郎)を封切り、それに続いて日活も一ヶ月後の12月15日に『学園広場』を封切って、映画界に舟木一夫旋風が吹き荒れることになる。
 ちょうどこの頃の日活は、吉永小百合、浜田光夫らによる青春路線が好調で、それまでの石原裕次郎、小林旭といった男性スターのアクション路線と共に、幅広い観客層を獲得していた。その青春路線に、舟木一夫のヒット曲と爽やかなイメージがマッチして、舟木一夫映画が十六本連作されていくことになる。

 この「舟木一夫 青春BOX」に収録されているのは、ちょうどその半分にあたる八本。1963年末の『学園広場』から、1969(昭和44)年正月の『青春の鐘』にかけての日活時代の舟木一夫の演技、歌唱が堪能できる。日活での第一作となる『学園広場』は、まさに「明朗青春もの」という言葉がピッタリの爽やかなドラマ。山内賢のバンカラ学生を中心に、優等生の舟木一夫、そのガールフレンドの松原智恵子らが繰り広げる騒動の数々を、明るいタッチで描いている。舟木たちの通う高校に伝統的に伝わる番長の帽子をめぐる珍騒動は、学生生活を楽しくデフォルメして、多くの観客の共感を得たことだろう。舟木と松原が、学校に内証で出演する公開番組は、当時一世を風靡したトニー谷司会の「アベック歌合戦」。番組そのままのライブ感が往時をしのばせる。

 『あゝ青春の胸の血は』(64年9月9日公開)は、大学のボート部員・山内賢と、元非行少女の和泉雅子の等身大の青春が、アクション映画の要素も織り交ぜて描かれている。舟木一夫の役は、和泉雅子の幼なじみのクリーニング屋の青年。勤労に励む姿、友達思いの好青年ぶりは、観客の期待するイメージでもあった。

 『花咲く乙女たち』(65年1月24日公開)は、舟木一夫の故郷愛知県でロケーションが行われている。山内賢と堺正章はチンピラ青年で、愛知県岡崎市に女子工員を、夜の世界にスカウトすべくやってくる。日活映画ではおなじみの暗黒街のムードと、チンピラ青年のやり場のないエネルギー。山内賢と心通わす女子工員に西尾三枝子。彼らの汚れた心を浄化させるのが、舟木一夫の勤労青年の歌声と真っ直ぐな心。日活青春映画においては、浄化装置として舟木一夫の存在があるのだ。

 日活の舟木一夫映画のスタッフには、様々な逸材が参加している。『学園広場』の脚本を手がけたのが、スチールマン出身で後の映画監督・斎藤耕一と、日本を代表するシナリオ作家となる倉本聰。倉本が脚本に参加した『北国の街』(65年3月20日公開)は、舟木一夫と和泉雅子の悲恋を叙情的に描いた佳作。それまで主演だった山内賢は、優等生である舟木と薄幸の少女・和泉雅子を暖かく見守るバンカラ学生として好演。家庭的に不幸な舟木と、余命幾ばくもない和泉の心の触れ合いと悲しい別れは、観客の感涙を誘ったことだろう。同時に、舟木一夫映画では、舟木とヒロインは決して結ばれてはならないという不文律を遵守した作品でもある。

 学生や勤労青年といった庶民の若者を演じ続けてきた舟木が、唯一弁護士志望の青年を演じたということでは『哀愁の夜』(66年3月27日公開)は、ユニークな作品。親友・藤竜也にかけられた嫌疑。汚職にまつわる陰謀がめぐらされるなか、正義感の青年弁護士の卵はどうするのか? というミステリータッチの物語に、当時人気絶頂のアニメ「オバケのQ太郎」のアニメスタジオを切り盛りしているという設定のヒロイン・和泉雅子とのロマンスも加わって、ミステリアスなドラマが展開する。

 『友を送る歌』(66年6月2日公開)は、日活アクションの聖地・港町横浜を舞台に、暗黒街に身を沈めた親友・山内賢に心を砕く、船乗り志望の青年を舟木一夫が好演。山内賢に心を寄せている食堂の看板娘・和泉雅子と、舟木とのさわやかな交流。日活アクションでは定番の展開に、青春歌謡映画のテイスト加わっている。

 そして舟木一夫のフィルムキャリアのなかでも、代表作の一つとなったのが『絶唱』(66年9月17日公開)。和泉雅子の可憐さ。戦争に引き裂かれて行く二人の愛。戦場の舟木一夫と、肉体労働をしながら彼の帰りを待つ和泉雅子が、決まった時間に交わす「吉野木挽き唄」の哀切。悲恋のドラマは観客の感涙を誘い、舟木の確かな演技力は高い評価を受け、以後「悲恋もの」というジャンルが定着していく。

 日活での最後の作品となった『青春の鐘』(69年1月1日公開)は、親の意思でエリートを目指させられている少年・吉田次昭と、サッカー部キャプテンの大学生・舟木一夫の家庭教師の交流と、少年の姉・松原智恵子との爽やかなロマンスが綴られる。日活お得意の明朗青春映画。

 こうして1960年代を駆け抜けた舟木一夫の日活「青春映画」の時代。21世紀を迎えてもその魅力は色あせることなく、魅惑の歌声とともに、永遠の「青春」がタイムカプセルのように凝縮されている。

日活「舟木一夫 青春BOX」DVD ライナーノーツより



よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。