見出し画像

『大江山酒天童子』(1960年4月27日・大映京都・田中徳三) 妖怪・特撮映画祭で上映

 妖怪・特撮映画祭で上映される、田中徳三監督『大江山酒天童子』(1960年4月27日・大映京都)


画像2

 丹波国、大江山(山城国京都と丹波国の境にあった大枝・老の坂)の洞窟に住み、配下を従えて、都を恐怖のドン底に陥れていた鬼の頭・大江山酒呑(天)童子伝説。南北朝後期から室町初期にかけての「大江山絵詞」(大江山酒天童子絵巻)が最も古い文献で、江戸時代には様々な絵巻で、庶民にも広まった。

 一条天皇の御世、京で若者や姫君たちが次々と神隠しに遭い、安倍晴明が占うと、大江山に棲む鬼・酒呑童子の仕業と判明する。そこで帝は長徳元年(995年)、源頼光と藤原保昌たちを、酒呑童子成敗に向かわせる。

画像3

 これが世に伝わっている「大江山絵詞」の物語である。2年前に特撮スペクタクル『日蓮と蒙古大襲来』(1958年・渡辺邦男)を大成功させた、大映トップの永田雅一プロデューサーは、大映スコープに相応しい「絵巻物映画」として、鳴り物入りで企画。長谷川一夫が「酒天童子」を演じるという大胆なキャスティングの超大作となった。

 長谷川一夫さんを立たせるための映画的なツイストが「実は酒呑童子の正体は・・・」という過去を設定したこと。原作は川口松太郎さん、脚色は『日蓮と蒙古大襲来』などを手がけたベテラン八尋不二さん。もちろん、観客の期待する「大江山酒天童子VS四天王」の物語として、特撮、スペクタクル、チャンバラ満載の娯楽大作となっている。

 アバンタイトルの源頼光(市川雷蔵)率いる四天王・渡辺綱(勝新太郎)、坂田金時(本郷功次郎、卜部季武(林成年)、碓井貞光(島田竜三)の紹介シーンは、”平安アベンジャーズ”的で、赤を基調にした照明がスタイリッシュで、カッコいい。ちなみに本郷功次郎さんが演じた坂田金時は、足柄山の金太郎!

 京を跋扈する茨城童子には左幸子さん、鬼のメイク、佇まい、アクションが見事で、冒頭、一条戻橋での渡辺綱とのバトル。斬られた腕を取り返しに、綱の叔母に扮して屋敷に入り込むシーンなど、本作の妖怪パートを背負って、見せ場がたくさん。大映特撮的には、鬼童丸(千葉敏郎)の化身の猛牛が空から舞い降りたり、土蜘蛛陣内(沢村宗之助)の化身の巨大蜘蛛などが楽しい。

 なんといっても、タイトルロールの酒天童子を長谷川一夫さんが演じているので、妖怪変化でも悪鬼でもなく、妻・渚の前(山本富士子)に横恋慕した関白(小沢栄太郎)に追放された、橘備前介がその正体。なので、クライマックスは長谷川一夫先生VSカツライス! つまり殺陣はない。眼力と所作、佇まいとセリフだけで、解決してしまう、驚きのクライマックス!

画像4

 しかし、袴垂保輔(はかまだれ・やすすけ)を憎々しげに演じる田崎潤さんの欲望にまみれた感じが、映画の躍動感となって、観ていて楽しい。田崎潤さんは『日蓮と蒙古大襲来』でも、長谷川一夫さんと堂々と渡り合い、一番の儲け役だった。ちなみに池部良さんが『袴だれ保輔』(1951年・東宝・滝沢英輔)で袴垂保輔役を演じている。

 市川雷蔵さん、勝新太郎さんの見せ場も用意されていて、大映オールスター映画を満喫できる。山本富士子さん、中村玉緒さん、浜田ゆうこさん女優陣も充実している。

 なんといっても、この夏、公開『妖怪大戦争ガーディアンズ』の寺田心くんが、渡辺綱(勝新太郎)の子孫という設定なので、ある意味「エピソードゼロ」としても楽しめる。この「鬼退治」がきっかけで、渡辺姓の家庭では節分の豆撒きの時、鬼が「渡辺家」を怖れて近づかないため、「鬼は外」とを言う必要がなくなった、という民間伝説もある。

 また、陰陽師・安倍晴明(荒木忍)、平井保昌(根上淳)も活躍するので、荒俣宏先生の「帝都物語」シリーズの遙かなるビギニング・ストーリーでもある。ちなみに実相寺昭雄監督『帝都物語』で、平幹二朗さんが演じていたのが平井保昌の子孫だった。

 1960年、大映京都の時代劇の伝統が作り上げた、平安マジカル・ファンタジー。温故知新「帝都物語」や『妖怪大戦争ガーディアンズ』の遙かなるルーツとしても楽しめる!

この夏、妖怪・特撮映画祭で上映!


画像1


よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。