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『白蛇小町』(1958年6月15日・大映京都・弘津三男)

今宵の娯楽映画研究所シアターは、大映名物、化け猫、狸御殿、そして白蛇! というわけで毛利郁子さん主演『白蛇小町』(1958年6月15日・大映京都・弘津三男)を楽しく、コワく、面白く観た。

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毛利郁子さんといえば、僕らの世代は『妖怪百物語』(1968年・安田公義)のろくろ首だが、その十年前、怪奇女優として大映のスクリーンにお目見えしたのが、この『白蛇小町』だった。大映10期俳優研修生として入社した彼女のデビューは、前年の大映東京『透明人間と蠅男』(1958年・村山三男)のヴァンプ役。

蠅男(中條静夫)がそのナイスボディに登頂するという、少年観客にはいささか刺激的なシーンを演じた。当時セクシー女優として大々的に売り出され、その最初となったのがこの『白蛇小町』だった。

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アバンタイトル。花嫁を乗せた籠が、道を誤り、寂しい常念寺の前を通る。花嫁の父・柴山主殿(南部彰三)が訝ると、行手には花嫁衣装の女が立っている。それがふわりふわりと宙に舞う。綿帽子をとったその顔は・・・

いきなり、怪談映画のクライマックスのようなヴィジュアルが展開。ここがかなり怖い。ようやく、花嫁一行が輿入れ先の安藤家に着くと、籠の中には花嫁がいなかった。この滑り出し。六十七分の短い尺ながら、このアバンタイトルはたっぷりと見せてくれる。

花嫁は何処に? 当主・安藤左門(志摩靖彦)は、花婿である長男・新之助(和泉千太郎)に、過去の因縁話を始める。若かりし頃、左門はお屋敷勤めの女中・お巳年(おみね・小町瑠美子)とねんごろになるが、両親に反対される。左門の留守中に勘助(原聖四郎)とお巳年は不義密通に仕立てられ暇を出されてしまう。

ショックのあまりおかしくなったお巳年は、花嫁衣裳を着て、自分の家に火を放ち、顔半分を大火傷してこの世を去っていた。情念寺は、お巳年の菩提寺。花嫁が姿を消したのは、お巳年の祟りだと左門は息子に話す。

こゝまで話が進んでも、まだ主人公、放蕩ゆえに左門から勘当されたままの源次郎(梅若正二)は登場しない。

さて、毛利郁子さんは、両国の芝居小屋で、蛇使いで大人気の女座長・お紺。綱渡りの女芸人・お菊に、可憐な中村玉緒さん! 綱渡りの最中、落下したお菊を抱きとめて助けたのが、本作のヒーロー、源次郎である。

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ここからの展開はネタバレになり、未見の方の興趣を削いでしまうので^_^ お巳年の因縁話と、お紺たちがどう絡んで行くのか? ミステリー映画的に、なかなか入り組んだ人間関係が面白い。

お紺と腐れ縁の遊び人・矢島大助(千葉敏郎)が、実は、左門を籠絡して安藤家に後妻として入り込んだ、おすが(朝雲照代)の弟だったり。こちらも、因縁に次ぐ因縁話。毛利郁子さんが、半裸同然で蛇と戯れるエロティックなシーンもあり、怪談映画のコワサとエロティシズムがちゃんと盛り込まれ、さらには謎解きミステリーに、チャンバラと、娯楽映画のエッセンスがタップリ。

クライマックス、常念寺での、お巳年のたたり再びのシークエンスがなかなか面白い。脚本の土屋欣三さんは、次作『執念の蛇』(1958年)も執筆。大映京都のプログラムピクチャー時代劇を撮ってきた弘津三男監督の演出は、撮影所の水準の高さに支えられて、良い意味でアベレージである。

なんといっても毛利郁子さんが、堂々の蛇女優っぷりで、これが人気シリーズとして連作されていくのがよくわかる。

よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。