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『大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン』(1966年4月14日・大映東京・田中重雄) 妖怪・特撮映画祭で上映

 角川シネマ有楽町「妖怪・特撮映画祭」のガメラ・デーで、『大怪獣空中戦 ガメラ対ギャオス』(1967年・湯浅憲明)『大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン』(1966年4月14日・大映東京・田中重雄)を堪能。

 スクリーンで観るのは1980年代初頭以来なので40年ぶり。大きなスクリーンで、ガメラを観ると、幼児の頃の映画館体験を思い出す。ぼくは『ガメラ対ギャオス』が封切り初体験。なので『ガメラ対バルゴン』は、1970年代のテレビ放映が初見である。「ウルトラQ」放映により、空前の怪獣ブームが吹き荒れた昭和41(1966)年4月14日に、大映京都の『大魔神』(安田公義)と二本立て公開され、ブームはさらにヒートアップ。

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 しかも第一作『大怪獣ガメラ』(1965年・湯浅憲明)からわずか半年後の第二作。今からみるとかなりのハイペースだが、撮影所時代、シリーズものとしては、わりと普通のことだった。タイトルバック明け、前作のハイライトが若山弦蔵さんのナレーションで紹介され、カプセルに閉じ込めたガメラを火星にロケットで送り込む「Zプラン」のシーンとなる。このロケット、前作と微妙にデザインが異なるが、気にしない、気にしない。

 ここから画面はカラーとなり、新撮シーンとなる。火星に向かう途中、カプセルが隕石と衝突して大破! ガメラは回転ジェットで地球へ。エネルギーを求めて、東洋一の発電所「黒部ダム」を襲撃‼️ いきなりクライマックスのような特撮スペクタクルが展開! 眼福、至福! ガメラの暴れっぷり! 惚れ惚れする。特撮監督は、前作に続いて築地米三郎さんが担当する予定だったが「コメットさん」(TBS)のため国際放映に引き抜かれたために、前作の監督だった湯浅憲明さんが特撮監督となった。

 昭和38(1963)年、竣工した黒四ダム建設に命をかけた男たちのドラマ『黒部の太陽』(1968年・石原プロ・熊井啓)を、石原裕次郎さんと三船敏郎さんが完成させるのは、3年後。裕次郎さんは密かに製作準備をしていた時期。五社協定という壁が立ちはだかり苦労をしていくことになるが、ガメラがいきなり黒四ダムを破壊するシーンを観ていると「裕次郎さんと三船さんが苦労して建設したのに」とつい思ってしまう。本作では「製作・永田雅一」と堂々とクレジットしている永田ラッパによる「五社協定」サイドの牽制かも?とは穿ち過ぎか?(笑)

 というわけでトップシーンで、大怪獣ガメラが、カラーで大暴れするところをタップリと見せてくれて、ここから物語が始まる。脚本は昭和ガメラ全八作を手がけることになる高橋二三。前半、ニューギニアの奥地から巨大オパール(バルゴンの卵)を奪って一儲けを企む悪党たちの物語は、のちのシリーズからはおよそ「ガメラ映画」らしくない。永田秀雅プロデューサーは、田中重雄監督に、年少観客のために「子供を出して欲しい」と命ずるが、監督はそれを受け入れなかった。

 それゆえ「大人向けのドラマ」というイメージであるが、登場人物が、主人公の本郷功次郎さんも含めて「悪党」という異色作となった。大映東京の犯罪活劇としては、ごく普通なのだが、怪獣映画で、仲間割れや、殺人が堂々と描かれているので、ハードな印象となっている。脚本の高橋二三さんは、色と欲にかられた男たちの物語は、ハンフリー・ボガード主演、ジョン・ヒューストン監督の『黄金』(1948年)をイメージしたのだろう。藤山浩二さんの、裏切りに次ぐ裏切りは、実はコメディにもなる要素だが、田中重雄監督は正攻法で演出しているので陰惨なドラマの印象となっている。

 前半、元軍人・平田一郎(夏木章)の下、あわじ丸の船員・川尻(早川雄三)、悪党・小野寺(藤山浩二)、一郎の弟・圭介(本郷功次郎)が、戦時中、ニューギニア奥地の洞窟に隠した巨大オパールを、「戦友の遺骨収集」の名目で密輸しようと目論む。足の悪い一郎に変わって圭介、川尻、小野寺がニューギニアへ。

 秘境への探検というのは『キングコング』(1933年)以来のパターンだが、水木しげる先生の貸本版「墓場鬼太郎・大海獣」の展開とよく似ている。ニューギニアの奥地で、彼らを迎えたのは、これも怪獣映画でお馴染みの現地人たち。『モスラ』(1961年)『キングコング対ゴジラ』(1962年)では、日劇ダンシングチームの皆さんが、アンサンブルダンスを展開していたが、こちらでは、戦前から活躍してきたベテラン舞踊家・益田隆舞踊団が、現地人のダンスを披露してくれる。アフリカ、ハワイ、ポリネシアなどのイメージをミックスした「常磐ハワイアンセンター」風のダンサーたちの踊りに、この時代のイマジネーションのリミットを感じて、それはそれで楽しい。

 戦後、風土病の研究で現地で暮らしている松下博士(菅井一郎)と、その助手で日本語をマスターした現地の娘・カレン(江波杏子)が登場。江波杏子さんの抜群のスタイルとエキゾチシズムで、子供もドキッとするお色気パートであり、本作のヒロインとして、彼女はバルゴン退治のキーとなる。江波杏子さんの存在感は、ガメラやバルゴンと双璧。改めて、その美しさを味わった。

 というわけで、無事、オパールを見つけた途端に、小野寺は、サソリに咬まれた川尻を見殺しにして、さらには洞窟を爆破して、圭介を閉じ込め、置き去りにして「お宝」を独り占めして日本への船に乗る。この辺りで子供は退屈してしまうが、いやいや、ガメラよりもバルゴンよりも、小野寺を演じた藤山浩二さんの“そこまでやるか!”の悪党っぷりが面白い。

 中盤、神戸港にバルゴンが出現。ポートタワーを倒して、市街地をめちゃめちゃにして、大阪へ。バルゴンの卵を急激に発育させたのが、水虫治療の赤外線照射というのも、子供心に強烈だった。しかもあわじ丸船医・佐藤役に藤岡琢也さん! 船では麻雀をしたり、テキトーな感じなのだが、後半になると大真面目で防衛会議で「赤外線照射」について説明をしたり(笑)

 バルゴンが大阪の「いづもや」という料理屋の前を横切るシーンがある。ミニチュアの「いづもや」の窓から、逃げ惑う人々が見えるショットは、何度観てもびっくり! ミニチュアセットの窓に、16ミリで逃げる人のカットを投影して撮影したという。

 さて、大阪城公園で、悪魔の虹を背鰭から出して、あたり一面を凍結させてしまう。大映東京の一番大きい(と思われる)ステージに組んだ、大阪城のセットは、素晴らしい。高山良策さんによる冷凍怪獣バルゴンの造形は、眺めているだけで惚れ惚れする。しかも爬虫類のように動きが軽快で、魚のような丸い目玉が、かえって生物感が出ている。長い舌をビョーンと出すのも、子供の頃、お気に入りだった。尻尾を振りながら、四足歩行するバルゴン。本当に生き物みたいでカッコいい!

 バルゴンの「悪魔の虹」は、大映特撮映画の初期作品『虹男』(1949年・牛原虚彦)由来のイメージかもしれない。面白いのは『虹男』で物理学者・摩耶龍造博士を演じていた見明凡太朗さんが、本作では防衛隊司令として、バルゴンの「悪魔の虹」対策をする。人に歴史あり、「悪魔の虹」にも歴史あり(笑)

 その「悪魔の虹」に誘われて、ガメラが大阪城公園に飛来。バルゴンとの第一ラウンドが展開される。セットが巨大なので、二大怪獣が対峙するショットは、大きなスクリーンを眺めていると「ああ、怪獣映画を観ている」喜びが溢れてくる(笑) ガメラの火炎放射に、バルゴンは劣勢になるも、最後は冷凍光線でガメラは凍結してしまう。

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 ここからは「冷凍怪獣バルゴン」が主役の怪獣映画として、特撮シーンふんだんの大サービス! なぜか防衛隊の地上配備のミサイル基地があったり、カレンがニューギニアから持ってきた巨大なダイヤでバルゴンを琵琶湖に誘い出す「ダイヤモンド作戦」、悪魔の虹を反射させてバツゴン自滅させようとする「バックミラー作戦」と、防衛隊vsバルゴンの戦いがパノラミックに展開する。

 これが相当なヴォリュームで、体感時間も良い意味で長い。で、子供心に衝撃的なシーンが、「ダイヤモンド作戦」展開中の船に、小野寺が乗り込んで、巨大ダイヤを奪い、作戦は失敗。小野寺はバルゴンの長い舌に巻かれて、その口の中へ。怪獣映画史上、初めて人間が食べられるシーンである。円谷英二特技監督が『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』(1966年7月31日・東宝・本多猪四郎)で、ガイラが女性を食べるシーンを撮るが、この映画の3ヶ月後のこと。

 さて防衛隊は、万策尽きて、もはやなすすべがなくなる。その時、われらがガメラが復活! いよいよ第二ラウンド、琵琶湖での「大怪獣決闘」と相成る。なので、とにかくお腹がいっぱいになるほど、怪獣映画の醍醐味をたっぷりと味わうことができる。神戸→大阪→京都と、ガメラとバルゴンによる「特撮・三都物語」は、いま思えば贅沢なヴィジュアル。この映画の名場面は、シリーズ第3作以降、『宇宙怪獣ガメラ』(1981年)まで、毎回登場して、子供達の目に焼き付いていた。

 しかも『ガメラ対ギャオス』主題歌「ガメラの歌」、第4作『ガメラ対宇宙怪獣バイラス』以降の主題歌「ガメラマーチ」の歌詞の中にも、対バルゴン戦が歌い込まれていて、昭和の子供たちは本作を未見でも『ガメラ対バルゴン』のクライマックスを熟知していた!

『ガメラ対ギャオス』のエンディングに流れる「ガメラの歌」は、歌詞と映像が見事にリンクしていて「ミュージックビデオ」という概念がない時代だけど、完全なPVになっている!

この夏、妖怪・特撮映画祭で上映! 会期が9月2日まで、延長! ぜひ、スクリーンで体感して欲しい! 


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