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『若い季節』(1962年10月20日・東宝・古澤憲吾)

深夜の娯楽映画研究所シアターは、東宝クレージー映画全30作(プラスα)全作視聴。プラスα作品として、昭和37(1962)年10月20日に封切られたオールスターキャストの音楽バラエティ喜劇『若い季節』(古澤憲吾)をDVDでスクリーン投影。

「ワーオ ワーオ おなかの底からワーオ」の歌詞でお馴染み、NHKテレビのバラエティ・ドラマ「若い季節」がスタートしたのが、クレイジーキャッツのビッグバンの年、昭和36(1961)年4月9日(〜1964年12月27日)。NHKらしい豪華キャストで、淡路恵子さん、沢村貞子さん、松村達雄さん、有島一郎さんといった”俳優陣”たちと、ハナ肇とクレイジーキャッツ、渥美清さん、古今亭志ん朝さん、三木のり平さんといった”コメディアン”たち、坂本九さん、ジェリー藤尾さんスリーファンキーズ、スパーク3人娘(1963年以降)といった”アイドル”たち、黒柳徹子さん、横山道代さんといった”タレント”たち。つまりあらゆる人気者達が集結した、豪華なスタジオドラマだった。

「若い季節」がスタートした2ヶ月後、日本テレビで「シャボン玉ホリデー」が始まる。さらに2ヶ月後には、クレイジーキャッツ結成6年目にして初めての曲「スーダラ節」「こりゃシャクだった」(作詞:青島幸男 作・編曲:萩原哲晶)をリリース。それがヒットしてクレイジーキャッツの快進撃に拍車がかかった。

半裁ポスター

それから一年、映画界が植木等の「スーダラ節」人気に目をつけて、各社で出演作品を製作。東宝は古澤憲吾監督、田波靖男さん、松木ひろしさん脚本による『ニッポン無責任時代』(7月29日)で、植木等=無責任男という決定的イメージを作り上げた。その勢いに乗って作られたのが、映画版『若い季節』だった。

製作は、日劇のプロデューサーだった山本紫朗さんと、「日劇ウエスタンカーニバル」を大成功させて”ロカビリー・マダム”として時代の寵児となった、渡辺プロダクション副社長・渡辺美佐さん。脚本はテレビ版の作者でありメインライターの小野田勇さんと、田波靖男さん。テレビのフォーマット部分が小野田さん、映画としてのストーリーを田波さんが手がけている。映画化が決まったのは、ちょうど『ニッポン無責任時代』が大ヒットした直後、田波さんは箱根のホテルに缶詰になってプロットを作り上げたという。

演出は『ニッポン無責任時代』を大ヒットに導いた古澤憲吾監督。中島そのみさん主演『頑張れ!ゴキゲン娘』(1959年)でデビューを果たし、坂本九さん主演「アワモリ君」三部作(1961年)「突然ミュージカル場面」を創出。勢いのある「突撃演出」で、東宝娯楽映画の黄金時代を牽引していく事になる。

特写スチール

映画版のキャストも豪華。テレビのレギュラーである、淡路恵子さん、沢村貞子さん、松村達雄さん、有島一郎さん、クレイジーキャッツ、坂本九さん、ジェリー藤尾さん、ダニー飯田とパラダイスキング、古今亭志ん朝さんはもちろん。団令子さん、浜美枝さん、若林映子さん、藤山陽子さん、中真千子さん、田村奈己さんたち”東宝ビューティーズ”、平田昭彦さん、佐原健二さんたち”東宝俳優陣”。さらにクレージー映画の最重要人物となる人見明さん、渡辺プロの世志凡太さん(テレビでの渥美清さんのパート)と、登場人物だけでかなりの人数となる。

しかも植木等さん、坂本九さん、ジェリー藤尾さんが唄い、展開に弾みをつけるために突然インサートされる、ダンスシーンがなかなかイカす。もしかしたら古澤憲吾映画のなかでは、最もスケールが大きく、「突然ミュージカル場面」も含めて、編集のタイミングも含めて、最も成功している作品かもしれない。特に坂本九さんが「ドント節」、植木等さんが「上を向いて歩こう」。それぞれの持ち歌交換をするのは、映画というよりテレビバラエティの味わい。ジェリー藤尾さんが日比谷公園噴水の前で唄う「インディアン・ツイスト」(作詞:永六輔 作曲:中村八大)のパワフルな勢い! この歌詞は今ではコンプライアンス的には問題ありだが、戦後の西部劇ブームを反映しての曲となっている。

特にプランタン化粧品とトレビアン化粧品が新商品”飲む白粉・ドリンク・ローズ”をめぐって凌ぎを削る商戦にインサートされるダンスシーンでは、クレイジーキャッツ=プランタン化粧品、パラダイスキング=トレビアン化粧品の対立が「ウエストサイド物語」スタイルで展開。最前列で踊る植木さんのパワフルなダンスが見もの!

また「シャボン玉ホリデー」のメイン作家で、この頃からテレビに露出し始めた青島幸男さんが、プランタン化粧品の社員行きつけの喫茶店「トップ」のマスターとして登場。植木さんとの絡みが楽しめる。その素人っぽさも含めて、今は観ることができない「シャボン玉ホリデー」でのノリをイメージすることができる。

古澤監督が好んで起用した人見明さんも「スイングボーイズ」時代の十八番ネタ「民謡教室」のギャグを、植木さんと共に披露。上半身と下半身の間にあるから「ウエスト」ではなく「ウエシタ」。という例の笑いである。人見明さんがズーズー弁なのも「スイングボーイズ」のスタイル。また、古今亭志ん朝さんが、人見明さんの甥の大学生という設定で、就職のスカウトに来た人見さんと麻雀をするシーンがある。かなりC調なキャラクターだが、これが当時の志ん朝師匠のパブリック・イメージでもある。ことほど左様に、こうしたコメディアン、落語家、タレント達がどういうポジションだったか、その感覚が掴めるのがプログラム・ピクチャーの良いところ。

2シートポスター

クレイジーのメンバーは、プランタン化粧品の宣伝課員。これはテレビと同じ設定。ハナ肇さんが宣伝課長、植木さんが宣伝係長でチャームガール主任。他のメンバーはクリエイターということで、今回、出番は多くないがちゃんと全員野球的に印象的なシーンが作られている。

で、谷啓さんが、フランス・パリから帰国してきた化粧品研究家・ケン加賀見役。どことなくインチキ臭いキャラクターで、クレイジー第三の男として、本作では「ドラマを回していく」役を任されている。このインチキっぽさが、後半の大騒動に繋がっていく。

坂本九さんは、定時制高校に通いながら、プランタン化粧品の給仕をしている。いわば会社のマスコット。ジェリー藤尾さんはフリーランスのカメラマンから、チャームガールの令子(団令子)の”あんぱん”フェイスを撮った写真がきっかけで入社。また、淡路恵子さんの当時のハズバンドだった、歌手のビンボー・ダナオが後半に登場。甘い裏声で「人恋しい秋」を歌い上げる。

古澤憲吾作品として楽しいのは、坂本九さんと有島一郎さんのツーショットの芝居場があること。プランタン化粧品の社内に、どうやらトレビアン化粧品のスパイがいるらしい。そこで社長・棚尾ケイ子(淡路恵子)は、有島人事課長(有島一郎)に調査を命ずる。で、給仕の坂本九馬(坂本九)にスパイを探して欲しいと依頼。有島一郎さんと坂本九さんといえば、古澤監督の「アワモリ君」三部作で親子を演じていた。なのでそのコンビの復活!というショットが続く。しかも、一方の植木さんをはじめとするクレイジーの面々は『ニッポン無責任時代』直後、ということで「クレージー映画」「アワモリ君」シリーズの合流みたいで楽しい。

タイトルバックは、主要メンバーがラインナップして主題歌「若い季節」(作詞:永六輔 作曲:中村八大)をワンフレーズずつ合唱する。落ち着きのない古澤演出だけに「躍動感」があって楽しい。ちなみにテレビではザ・ピーナッツが主題歌を歌っている。エンディングでも一番がリプライズされる。

タイトルバックが開けて、空撮の東京から、プランタン化粧品社長・棚尾ケイ子を乗せたクルマが都内を走る。東京駅八重洲口にほど近い、プランタン化粧品の本社ビルの外景は、『ニッポン無責任時代』で太平洋酒本社ビルとして撮影された、大和証券ビルである。東宝クレージー映画では『日本一のゴリガン男』(1966年)『クレージー黄金作戦』(1967年・坪島孝)まで植木さんが勤める会社の外形としてロケ。古澤憲吾監督が好んで撮影に使用。古澤作品のセオリーの一つに、建物の外景はセットではなく「必ずロケーション」という鉄則がある。例えば「若大将」の実家・田能久は、それまで外景もスタジオ内に組まれたセットだったが、古澤監督は「違う!」と、麻布の田能久なのに、浅草仲見世「今半」で外景を撮影。セリフでは「麻布」なのに、ロケは「浅草」ということに。

さて、棚尾社長が慌てて社長室に飛び込み、部課長クラスを呼びつけた理由は、ライバル会社「トレビアン化粧品」にプランタン化粧品で密かに開発を続けてきた「飲む白粉=ドリンク・ローズ」のアイデアが盗まれて、販売の先を越されたことだった。そこで宣伝課の波奈課長(ハナ肇)にハッパをかけて、急遽、この日に「ドリンク・ローズ」発売を繰り上げることに。

デパートのフロアで繰り広げられるトレビアン化粧品とプランタン化粧品の販売合戦。とにかく画面に映っている人たちが忙しなく動いている。東宝の大部屋俳優たちを総動員しての賑やかな画面。で、いつしか「突然ミュージカル場面」となり、「宣伝合戦の唄」が展開される。原色のホリゾントをバックに、クレイジーキャッツVSパラダイスキングのダンス対決は見もの。

どうも社内に産業スパイがいるらしい。社長の命を受けた有島人事課長は、給仕の九馬に調査を命じる。今度は「先手必勝」とばかりに、パリの化粧品研究家・ケン加賀見(谷啓)が帰国するとの情報を、ケイ子の姉で赤坂の料亭「さわむら」の女将・沢村さわ子(沢村貞子)が入手。羽田空港に出迎えに行くが…

第一ラウンドは「飲む白粉の販売合戦」。第二ラウンドは「液体口紅・開発」とプランタンVSトレビアンの企業競争が、賑やかな喜劇のなかで描かれていく。ちなみに「液体口紅」は、植木係長がコンペで「ベニカオール」とアナクロな名前で命名。プランタン化粧品のチャームガール・浜美枝さんがとにかくキュート、そしてクールな若林映子さんはトレビアン化粧品の社員。『キングコング対ゴジラ』(8月11日・本多猪四郎)で共演した二人は、この後「国際秘密警察」シリーズで共演、5年後には『007は二度死ぬ』(1967年・ルイス・ギルバード)で揃ってボンドガールを射止めることとなる。

後半、スパイが南川常務(平田昭彦)であることが判明。さらにケン加賀見が飛んだ食わせ者で、本物は箱根の研究所にいる(ビンボー・ダナオ)であることが明らかになる。それをチャームガールの女の子たちと、新人キャメラマン藤尾富士男(ジェリー藤尾)たちが突き止める。アメリカから来日した全身美容の研究家・楠七重(三原葉子)が、本物のケン加賀見の元恋だったからだ。という「産業スパイ」ネタで盛り上がったところで大団円。

わずか88分の中に、かなりの人数のキャストが出たり入ったり。それでも各スターのキャラクターを生かして華やかな印象となっている。古澤憲吾の「突撃演出」は観客にも、社内にも評判となり、続いて12月20日公開のクレージー映画第二作『ニッポン無責任野郎』を手がけることとなる。


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