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『心の日月』(1954年1月15日・大映東京・木村恵吾、吉村廉)

1954年の若尾文子研究。木村恵吾&吉村廉『心の日月』(1954年1月15日・大映東京)をDVDで。この菊池寛原作は、1931(昭和6)年にも日活で田坂具隆によって映画化されており、入江たか子と島耕二が主演している。


待ち合わせ場所を間違えたために、行き違いになったカップルの生々流転と再会までの紆余曲折を描いた、現在では成立し得ない「すれ違いメロドラマ」。前年の『君の名は』(1953年・松竹・大庭秀雄)による「メロドラマ」ブームのなかリメイクされた。

親が決めた結婚(相手は高松英郎!)が嫌で、岡山から家出してきた若尾文子。汽車の中で銀座のバーのマダム・水戸光子と知り合い名刺をもらう。翌朝、心の恋人である同県人の学生・菅原謙二と13時に「飯田橋駅改札」で待ち合わせをする。

しかし、待てども暮らせども菅原謙二は現れない。なんと19時まで待ったのに! でも彼も若尾文子を「飯田橋駅改札」で待ち続けていた。二人とも飯田橋の改札が「飯田橋口」「牛込坂下口」があるのを知らなかった。ただそれだけで、二人は一年近く、逢えなくなってしまう。

おいおい。とツッコミを入れたくなるも、1954年、田舎から出てきたばかりの二人には仕方ないこと。若尾文子は汽車で貰った名刺を頼りに、銀座の水戸光子のバーへ。そこで顧客の青年社長・船越英二を紹介してもらい、社長秘書として無事に就職。

船越英二は恐妻家で、妻にはない若尾文子の優しさに惹かれて恋をする。それを察した妻・村田知栄子が会社に乗り込んで、若尾文子は退社を余儀なくされる。

一方、菅原謙二は岡山県人会学生寮に住んでいたが、若尾の婚約者で有力者の高松英郎の逆鱗に触れて、追い出されてしまい路頭に迷っていた。そこで、彼にゾッコンの金持ち娘・立山美雪の家に住み込みで犬の世話&家庭教師となる。なんと立山美雪は、船越英二の妹だったというメロドラマ的偶然(笑)

それでも二人はなかなか逢えない。若尾文子は、水戸光子のパトロン・菅井一郎の世話で、日本橋三越のハンカチ売り場へ勤めることに。ところがスケベな菅井一郎の毒牙にかかりそうになる。

といった、菊池寛メロドラマらしい、運命の皮肉とピンチの連続で、季節がどんどん過ぎていく。飯田橋の改札で六時間待った段階で、誰かに「他に改札ありませんか?」と確認しとけば良かったのに。

この映画、面白いのは日活移籍前の高品格が課長で出ていたり、黒田剛がバンカラ学生で出ていたり、日活脳がピクピク反応する。吉村廉の演出の緩さも含めて楽しい。

後半、偶然、映画館で二人は再会。しかし、若尾文子は「あの時」自分はすっぽかされたと怒っているので、取り合わない。おいおい、それでも「夜7時から10時、有楽橋で待っています」あなたが現れるまで、と書いたメモを、若尾が乗ったタクシーに投げ入れる。しかし、プンプンの若尾はすぐには行かない。

この有楽橋界隈がオールセットで再現されている。美術は柴田篤二。キャメラは姫田真佐久。ビルも含めてミニチュアで色々再現されているのが楽しい。

色々あってのラストは、船越英二の粋な計らいで、ちょっとフランク・キャプラの映画みたいなイイ、オチになっているので、それまでの隔靴掻痒が一気に「良かったね」となる。

『君の名は』が数寄屋橋なら、『心の日月』は飯田橋。という発想で企画されたリメイクであります。


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