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太陽にほえろ! 1973・第34話「想い出だけが残った」

この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。

第34話「想い出だけが残った」(1973.3.9  脚本・鴨井達比古 監督・金谷稔)

 今回のゲストは江波杏子さん、沼田曜一さん、早川保さん。大映、新東宝、松竹の映画俳優の共演。1970年代のテレビ映画は、かつての娯楽映画の役割を果たしていた。もちろん主役はボス・石原裕次郎さん! 今回は1960年代、裕次郎さんと浅丘ルリ子さんが作り出し、ドル箱となった日活ムードアクションのフォーマットで展開される傑作!

 ある日、ゴリさんがお見合い写真を眺めてニヤニヤしている。相手の名前は山本礼子。なかなかの美人である。一係のみんなに揶揄われるゴリさん。「おいおい、みんな幼稚園のガキみたいに走り回って」とボス。ボスはゴリさんを誘って食堂でラーメン。「ボスはどうして結婚しないんですか?」「そんなこと関係ねえだろ」ボスは独身貴族だからね。

 その頃、山さんはジャズシンガー変死事件を追っている。前科二犯の国友康夫(柄沢英二)が捜査線上に上がる。国友が政治家、大会社の重役と会っている写真をみたボスの顔色が変わる。そこに写っている女に面識があるようだ。「加代子だ。間違いない。しかし、なんでこんな前科者と」。その三浦加代子(江波杏子)はボスの昔馴染みらしい。

 その夜、ボスは東慶大学法学部の同窓会で、親友の三浦邦彦(早川保)と久々の再会を果たす。三浦は母校の教授に昇進することになり、ボスが乾杯の音頭をとる。まさに「よろこびの酒」である。三浦はボスに相談があるというので、二次会は赤坂の例の店と一係へ電話するボス。

 バーでエレクトーン演奏されているのはペギー葉山さんの「爪」(平岡精二作曲)。もちろん「歌のない歌謡曲」である。この「爪」の歌詞と、今回の物語がリンクしている。鴨井脚本、金谷演出の見事さ! ここで加代子は三浦の妻であることがわかる。三浦の相談は加代子のことだった。「あいつは、加代子は狂ってしまった。とんでもない女になったよ」言いかけたところへ長さんから、国友が殺されたことと電話が・・・

 酔った三浦を置いて現場に向かうボス。刑事はつらいね。国友が解散した組織暴力団・竜神会の幹部と接触しているところで消されてしまったのだ。ゴリさん、マカロニが捜査を開始。国友の遺体のそばに加代子のイヤリングが・・・。ボスのイメージを見ていると、加代子に惚れていたようだ。

 竜神会の構成員・増田隆志(村山達也)を追い詰めるマカロニ、殿下、ゴリさん。ここでアクション。静と動のバランスがいいね。子供が夢中になるわけだ。ゴリさんのパンチが炸裂。マカロニが体当たり。殿下が手錠をかける。見事な連携プレー!

 取調室で増田を取り調べる山さんの責めは、さすがに厳しい。増田はなかなか吐かない。そこでボスの出番となる。「殺しの現場にいたのは、死んだ国友とお前だけか?もう一人女がいたんじゃないのか?」黙秘する増田の頭をつかみ「しゃべらないか!」と激しいボス。日活ムードアクションの裕次郎さんみたい。

 やがて、東慶大法学部に三浦を訪ねるボス。加代子と三浦の写真を見て回想する。「なぜなの?なぜ結婚できないの?刑事だって皆結婚してるじゃないの。私を愛してないなら、そう言って」。男と女の過去をめぐる「現在の物語」。これはムードアクションのフォーマット通りの展開である。

 大映の江波杏子さんは裕次郎さんとは映画では共演していない。もしも二人がムードアクションに出ていたら、という発想で作られたような気がする。「ねえ、俊介さん。はっきりそう言ってよ」。ということは早川保さんが二谷英明さんの役回りということになる。

 ボスが三浦に「昨夜の話の続きを聞こうと思って」ところが三浦は言葉を濁して「昨夜のことは忘れてくれ」と。謎が深まるばかり。三浦は何を隠しているのか?「刑事を十何年もやっているとな、酔っ払いの繰り言と、そうでない言葉の区別ぐらい、イヤでもつくようになるんだ」とボス。

 「お前が俺たちのこと、加代子のことを心配してくれるのは嬉しいが、お前と加代子が恋人同志だったのは昔のことだ」。やっぱり二谷さんの言いそうなセリフだ。裕次郎さん的には、星由里子さんとの『忘れるものか』(1968年)以来のムードアクション的ドラマ! その頃、山さんはボスを、マカロニは三浦を張り込んでいた。

 例のイヤリングは「学生の頃バイトで稼いで買ったものだ。俺がもし別な仕事を選んでいたら、彼女と結婚していた筈だ」と山さんに話すボス。刑事は「女房子供がいたら勤まらない」と考えていたと若気の至りを苦笑するボス。ボスは加代子を「徹底的にマークしてくれと」山さんに命じる。「いいんですね」と山さん。

 一方、三浦は加代子の身辺調査を興信所に依頼していた。よそよそしい夫婦の会話。加代子は毎晩、家を開けているようだ。仮面夫婦になっている。加代子の留守に、彼女の部屋を調べる三浦。引き出しの宝石箱の中には、三浦も知らない高価な宝石の数々。

 加代子には二つの顔があった。毛皮を身にまとい、贅沢な買い物をする加代子。尾行するマカロニは、その支払い方法をブティックのオーナーに確認する。請求書は「クラブサファイア」の社長で、元竜神会会長の神山和雄(沼田曜一)に回されていたことが判明する。

 赤坂署のマル暴担当刑事から、神山が宝石の密輸をしていることを、聞き出すボス。殿下の調べで、死んだ国友が、そうそうたる名士と接触していることも判明する。さらに増田の部屋から宝石が出てくる。国友殺しの代金替りに受け取ったダイヤモンドについて、増田を調べるボス。「殺しの現場に女がいたか?」

 増田が語る、加代子のもう一つの顔。「あの女、今夜あたり消されるかも知れないぜ。俺がやることになっていたんだ」。神山の汚いやり口が増田の口から明らかになる。ボスはテキパキと部下に指示を出すが、その胸中は複雑。長さんに、神山の「殺人教唆」の礼状をとるように命ずる。

 ここで沼田曜一さんと江波杏子さんの芝居。いいねぇ。佳代子は運び屋から、殺しの手引きと、あらゆるダーティな仕事をして、その報酬として宝石を手に入れてきた。そのことを不思議がる神山。「そうまでして手にれたいものですかね」根っからのワルも驚く加代子の宝石への妄執!「宝石は嘘をつかないわ」

 そんな加代子はボスから貰ったイミテーションのイヤリングを大事に身につけている。片方を落としたことを知った神山「まさか殺人現場に?」。二人ともいい芝居だね。加代子が出て行った後に、神山は西田(木村博人)に彼女の殺害を命じる。おお、これぞフィルム・ノワールの世界。

 加代子は代議士の大林秘書(小倉雄三)を使って密輸をさせていたのだ。ボスの手元には現場に残されていた片方のイヤリング。切ないねぇ。加代子が立ち去り、ゴリさんたちがその取引現場に踏み込み、大林を逮捕。加代子は宝石を持って神山のマンションへ。

 加代子の乗ったエレベーターが開くと、目の前にボスが立っている。やっぱりムードアクションだ!無言のボス。悲しそうな表情。「もうお会いできる頃だと思っていました」「なぜ?」「イヤリングを落とした時から」ボスの手には手錠が・・・「女には手錠をかけない主義でね。これは神山の手にかける」

「相変わらず優しいのね。うわべだけは」神山の事務所のある8Fを押す加代子。非常停止ボタンを押すボス。8Fでは神山と西田が加代子を殺そうと待ち構えていた。
「同じことを考えていたようね。誰もいないところで二人きり」加代子の手には拳銃が!

「弾は入ってます。二発だけ」
「そんなに俺を憎んでたのか?」
「もうどうでもいいことだわ。そんなこと」
そっとイヤリングを差し出すボス。加代子の驚いた表情。「教えてくれ。なぜだ?」

「ずいぶんいろんな宝石を手に入れたわ。冷たくて高価な宝石に埋もれたら、この石(ボスのイヤリング)も色褪せてしまうだろう。そう思った。でも、でもやはりだめだった・・・」

「君は納得して三浦と結婚したはずだ。三浦のことを考えてやったことがあるのか」
「じゃ、あなたは私のことを考えたことがあって?愛してもいない男との10年間が、どんなに重い虚しい生活だったか。考えていたことがあって?でももういいの、何もかもおしまいにするの」
ボスに銃口を向ける加代子。

 しかし加代子には撃てない。加代子の拳銃を手にしてエレベーターを動かすボス。そっと加代子と抱き合うボス。「ここを動くんじゃないぞ」神山、西田たちと銃撃戦。ボスかっこいい!神山を追い詰めるボスたち。しかし、遠くで銃声が聞こえる。現場に落ちていた拳銃で、加代子が自殺したのだ。

 「加代子、加代子」ボスの腕の中で満足げに息を引き取る加代子。加代子の耳のイヤリングを外して、自分のイヤリングとともに手のひらに握るボス。切ない別れ。ボスの目に涙が。イヤリングを握るボス。まるで「錆びたナイフ」を握る裕次郎さんみたい。これぞ日活ムードアクションの世界。裕次郎さんの魅力を最大限に引き出した映画一本分の濃密さ。

 全てが終わって、今日はゴリさんの見合いの日。みんなに見送られいそいそと出ていくゴリさんに、ボス「気に入ったら躊躇わす結婚しろよ。俺の真似をするんじゃねえぞ」。オチも含めて見事なエピソード!








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