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クレイジーキャッツの音楽史 第4回 コミックソングと高度経済成長

クレイジーキャッツの音楽史 第4回 コミックソングと高度経済成長
講師・佐藤利明(娯楽映画研究家)

NHK文化センター「クレイジーキャッツの音楽史」第4回(6月3日(金)19:00〜20:30)「コミックソングと高度経済成長」での講義内容を再録(放送ではカットされている部分もそのままテキスト化してます)。

イラスト・近藤こうじ

東宝クレージー映画とクレイジーソング

M1 くたばれ!無責任(作詞:青島幸男 作曲:萩原哲晶)1963.10.26 クレージー作戦 くたばれ!無責任  東宝

【クレージー作戦シリーズ】
*映画のみで歌われ、レコード未発売の曲も多い。『クレージー作戦 くたばれ!無責任』(1963年10月26日・坪島孝)のラスト、クレイジー全員が丸の内ビル街で歌う「くたばれ!無責任」(作詞:青島幸男 作曲:萩原哲晶)は高度成長時代を象徴するようなヴィジュアル。

M2 馬鹿は死んでも直らない (作詞:塚田茂 作曲:萩原哲晶)1964.06.11 日本一のホラ吹き男  東宝

【馬鹿は死んでも直らない】
*「節」「行進曲」と、トラディショナルなリズムで無責任ソングを作ってきた萩原哲晶が、いよいよ「音頭」に挑戦。クレイジー・サウンドは日本人の好きなリズムの原点に立ち返り、それをアッと驚くアレンジに発展させてきた。植木の歌声には、余人にはない説得力がある。植木とクレイジーの人気の勢いが生み出した傑作の一つとなった。

M3 ゴマスリ行進曲(作詞:青島幸男 作曲:萩原哲晶) 1965.05.29 日本一のゴマすり男  東宝

【日本一のゴマすり男】
*クレイジー結成10周年の1965(昭和40)年5月29日公開『日本一のゴマすり男』(古澤憲吾)の主題歌として4月5日に発売。「ゴマすり」は思想ではなく、出世のための「行為」なのだという開き直りが、この歌を突き抜けたものに。

M4 ヘンチョコリンなヘンテコリンな娘(作詞・作曲:ヘンリー・ドレナン) 1965.10.31 大冒険  東宝

【谷啓の不思議な魅力】
*谷啓三枚目のシングルは、その個性を最大限に生かした不思議ソング。作詞・作曲のヘンリー・ドレナンは、のちに「かわいそうな娘」(67年)をビッグヒットさせるシンガーソングライター。

クレイジーキャッツ結成10周年 1965年のアニバーサリー

【結成10周年】
*1965(昭和40)年、クレイジーは結成10周年を迎えた。7月には、東京宝塚劇場で「結成10周年記念 クレージーキャッツショー 10年だよ!! クレージーキャッツ」公演が行われた。

【音頭・節からロックへ】
*空前のビートルズブームの1960年代半ば、クレイジーサウンドも変革の時が訪れた。
ビートルズスタイルの「遺憾に存じます」やエレキ歌謡の「シビレ節」など、ビート感の強いロックサウンドへ。

M5 遺憾に存じます(作詞:青島幸男 作曲・編曲:萩原哲晶) 東芝音工・TP-1182・1965年11月15日発売

【遺憾に存じます】
*イントロがいきなりザ・ビートルズの「抱きしめたい」を思わせる仕掛けに驚かされる。バックバンドもジャズ・バンドではなく、ロックの時代にふさわしく「寺内タケシとブルージーンズ」が演奏をつとめている。萩原哲晶の音楽的挑戦は、この曲でクレイジー・サウンドの世界をさらに押し広げた。

M6 シビレ節(作詞:青島幸男 作曲:宮川泰) 植木等・人見明 1966.03.16 日本一のゴリガン男  東宝=渡辺プロ

【シビレ節】
*ザ・ピーナッツのメイン作曲家の宮川泰は渡辺プロダクションを支えた音楽家である。「シャボン玉ホリデー」や東宝映画挿入歌を手がけてきたものの、クレイジーのシングルを手がけることが叶わなかった宮川の思いが、一気に爆発したかのような傑作。エレキ民謡ともいうべきアレンジのビート感。あらゆる「シビレ」を次々と繰り出す青島幸男の歌詞は、来るべき昭和元禄のハレンチな時代を予見しているかのよう。

M7 ハローラスベガス~金だ金だよ(作詞:田波靖男 作曲:宮川泰) 1967.04.29 クレージー黄金作戦  東宝=渡辺プロ

【クレージー黄金作戦】
*上映時間2時間37分。アメリカ横断ロケを敢行した大作。
ラスベガスの大通りで唄い踊る「ハローラスベガス〜金だ金だよ」(作詞・田波靖男 作曲・宮川泰)。進駐軍のキャンプ廻りからジャズマンとしてのキャリアを始めたメンバーにとっては、少年時代のかつての敵国であり、若い頃に音楽や映画に夢中になったアメリカで「バカ踊り」をすることは格別な思いがあったことだろう。

【植木等ソロLP「ハイおよびです!!」】
*植木等初のソロアルバム 脱・無責任ソングを目指して、浜口庫之助、中村八大、永六輔、岩谷時子、神津善行、中村メイコ、萩原哲晶、塚田茂、山本直純、坂田寛夫、宮川泰、安井かずみ、内藤法美、越路吹雪、鎌田洲見雄、森岡賢一郎、植木等が楽曲提供。

M8 笑えピエロ  植木等 作詞・作曲・浜口庫之助 編曲・森岡賢一郎 東芝音工・TP-1368・12月5日発売

【TBS植木等ショー】
*1967年7月9日。TBS系で「植木等ショー」がスタート(〜1968年1月11日)。「ペリー・コモ・ショー」「アンディ・ウイリアムス・ショー」形式で、ホストの植木等が、毎回豪華ゲストを招いての、植木初のワンマンショー。第2期が1968年7月4日〜12月26日。

M9 そうだそうですその通り(作詞:青島幸男 作曲:萩原哲晶) 1967.12.31 日本一の男の中の男  東宝=渡辺プロ

【日本一の男の中の男】
*1年ぶりのシリーズ第5作は、日活のトップ女優・浅丘ルリ子をヒロインに迎えた。
主題歌「そうだそうですそのとおり」(作詞:青島幸男 作曲:萩原哲晶)は東芝レコードから発売が予定されていた。

M10 ウンジャラゲ (作詞・藤田敏雄 作曲・編曲・宮川泰) 東芝音工・TP−2186・7月10日発売

【ウンジャラゲ】
*宮川泰「植木さんといろんな冗談みたいなことを言いながら作り上げた」という。月曜は日曜の“休みたい気持ち”が残っているから “ウンジャラゲ”だな、とか。それが「だんだん“ギンギラギン”にエスカレートしていくんだ」。

【二人の「アッと驚く為五郎」】
*NTV「巨泉×前武のゲバゲバ90分」(10月7日〜71年3月31日)のなかで、ハナがヒッピースタイルで叫んだ「アッと驚く為五郎」は、放送開始後、たちまち流行語に。宮川泰と萩原哲晶がそれぞれ作曲。二つのヴァージョンからレコード用テイクを選ぶという企画。

M 11 アッと驚く為五郎(作詞・河野洋 作曲・編曲・萩原哲晶) 未発売

クレイジーサウンドの発展 大瀧詠一と萩原哲晶のコラボレーション

【大瀧詠一によるクレイジー再評価】
*大瀧は、「スーダラ節」について 「この曲に関してはもう何もいうことはない。 たただ私にとっては〝ハウンド・ドック〞、〝抱きしめたい〞に匹敵する曲で、植木等の歌声 はエルヴィス、ジョン・レノンと同じ種類の開放感を与えてくれた。リアルタイムで「スーダラ節」に出会った大瀧詠一は、1973(昭和48)年、伊藤銀次に中原弓彦の「日本の喜劇人」を薦められた。それが大瀧にとっての再評価のきっかけとなった。

【遅れてきた世代のクレイジー再評価】
*それから一年かけて全シングルを集め、1975(昭和50)年ラジオ「ゴーゴーナイアガラ」で「クレイジーキャッツ特集」を放送。ハナや植木のインタビューも敢行。リスナーの若者たちに影響を与えはじめていた。遅れてきた世代のクレイジー・ファンが続々と生まれた。

【ビートルズサウンドの音頭化】
*1970年代半ば、萩原哲晶と出会った大瀧は、ビートルズの「イエロー・サ ブマリン」を萩原のエッセンスをちりばめた“音頭”によるカヴァーで、 金沢明子の「イエロー・サブマリン音頭」( 1982年 11月・ビクター)として発表。

*元祖とフォロワーによる共同作業は、“クレイジーサウンドが 何も手を加えずそのままでも現代に立派に通用することを一部で証明した。”(大瀧詠一『植木等的音楽』 年・ファンハウスのライナーより)

M 12 イエロー・サブマリン音頭 金沢明子 作詞・作曲:ジョン・レノン、ポール・マッカートニー 
日本語訳詞:松本隆 編曲・萩原哲晶

【30周年記念・実年行進曲 作詞・青島幸男 作曲・大瀧詠一 原編曲・萩原哲晶】
*リスペクター大瀧詠一が、ラジオ番組を通じて植木等や谷啓、萩原哲晶と出会って”ん余年”長い準備期間を経て、御大・青島幸男が作詞、大瀧が作曲したクレイジー・ソングの集大成。1984(昭和59)年に亡くなった萩原が手がけた数々の作品における”編曲”を”原編曲”として徹底的に大瀧が研究した「クレイジー・ソングの構造」に新たな生命を吹き込んだのだ。

M 13 実年行進曲(作詞・青島幸男 作曲・大瀧詠一 原編曲・萩原哲晶 編曲・大瀧詠一)東芝EMI・TP-18000・3月6日発売

スーダラ伝説 植木等の復活 1990年の奇跡

*1970年代後半からの大瀧詠一による「サブカルチャー」としての再評価ムーブメントで、クレイジーソングがスタンダード化。俳優としてのキャリアを重ねながら「無責任男」のイメージを大切にしてきた植木等自身の復活への意欲、スタッフの熱意が、夢のメドレー「スーダラ伝説」を実現させた。

【スーダラ伝説】
「スーダラ節〜無責任一代男〜ドント節〜ショボクレ人生〜五万節〜ゴマスリ行進曲〜だまって俺について来い〜いろいろ節〜ホンダラ行進曲〜これが男の生きる道〜遺憾に存じます〜ウンジャラゲ〜ハイそれまでョ〜スーダラ節」。14曲、10分41秒に及ぶ空前のメドレー。曲の最後、「スーダラ節」のリプライズ、ベートーベンの「第九」との掛け合いで盛り上がる。

M 14 スーダラ伝説(作詞・青島幸男、西島大、藤田敏雄 作曲・萩原哲晶、山本直純、宮川泰 編曲・宮川泰)ファンハウス・FHDF-1062・1990年11月25日発売

スターダストをもう一度

*昭和の終わりから平成にかけて、戦後ジャズブームを駆け抜け、「ハナ肇とクレイジーキャッツ」を作り上げたジャズマンたちが、星になっていった。ハナ肇とクレイジーキャッツがもたらしたものは大きい。大瀧詠一を筆頭にクレイジー・フォローワーのミュージシャンたちは後を立たない。

*いつの時代にも、意外なかたちで、クレイジーは、若い世代に発見され、リスペクター、フォロワーのミューシャンたちが、新たなサウンドを生み出していく。敗戦後、七人の若者たちがジャズと出会い、その後の人生を切り拓いていったように…。

聴き逃し配信はこちらから!

第1回 初心者のためのクレイジーキャッツ入門 は こちらから!

第2回 戦後ジャズブームと7人の猫たち はこちらから!

第3回 スーダラ節の衝撃 はこちらから!


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