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『喜劇駅前弁天』(1966年・東京映画・佐伯幸三)

 「駅前シリーズ」第14作!

 東京映画のドル箱「駅前シリーズ」第14作。昭和41(1966)年1月15日、三船敏郎の『暴れ豪右衛門』(稲垣浩)と共に封切られた。前作『喜劇駅前大学』がいろんな意味でフレッシュでギャグも充実していたのに、今回はかなりダレ気味。第一作から連投してきている長瀬喜伴脚本も、佐伯幸三の演出も新味も感じられない。レギュラー陣も「こなしている」感がある。以前、シリーズを連続で観た時に、急に失速している感があったが、今回も印象は変わらない。

 舞台は長野県諏訪湖、岡谷駅界隈。森田徳之助(森繁久彌)は老舗の蕎麦屋・森田の主人。伴野孫作(伴淳三郎)は地元で会社を経営している。三井三平(三木のり平)は妻・藤子(亜淡路恵子)が美容院を経営していて主夫をしている「髪結の亭主」。この3人は戦友でもあり、戦時中、演習中に出会った景子(淡島千景)、京子(乙羽信子)、藤子(淡路)の「ミス弁天」と結婚。それぞれ恐妻家となっている。

 といういつもの「駅前」の設定で、「駅前トリオ」が森繁・伴淳・フランキーではなく、森繁・伴淳・のり平がメインとなっている。フランキーは、前作同様、若者の役でいわばコメディリリーフなのだけど、今回は景子の弟で「蕎麦屋・森田」を手伝っている青年、坂井次郎。生真面目で近所の女性たちの意識を高めるために文化活動のリーダーとして、様々なリクリエーションを計画したり、恋人・大川由美(大空真弓)と文化活動に余念がない。

 昭和30年代、『喜劇 駅前弁当』(1961年)の時代なら、こうした設定はありなのだが、この年、ビートルズが来日、エレキブームが席巻する時代。ちょっとズレているなぁと。そのズレが笑いになれば良いのだけど、フランキーは、奥様方にモテモテのオルゴール会社「三協精機」の好青年・高田(津川雅彦)と由美の仲に嫉妬して悶々とする程度なので。一向に盛り上がらない。

 おかしいのはレクリエーションのピクニックで、みんなに「コーラスをやろう!」と歌唱指導するシーン。「♪ツーツーツーのパッパパ〜 ジャンプだよ ターンだね」と始めると景子「次郎さん、これなんなのよ」、次郎「知らないの?これ僕が作曲した『ちょいとスキーだよおっかさん』」と誰も知らない自作を披露。とまぁ、小手先の笑いが多い。

 本筋と関係なく、三木のり平がおかしい。淡路恵子が不在で臨時休業しているところに、ゴルフ芸者・染子(池内淳子)がセットにやってくる。孫作に誘われて東京へゴルフ道具を買いに行くからと。で、のり平「アタシに任せてよ」と、染子の頭をいじり始めるが、真似事なのでこれがとんでもないことに。ついに染子の頭はコントの爆発みたいになって、泣き出す始末。相当くだらないけど、のり平のエスカレートぶりについ笑ってしまう。『喜劇駅前飯店』(1963年)の「王さんアタマ刈りたいな〜」の床屋と、『喜劇駅前医院』(1965年)の婦人科の真似事をしたくて白衣を着て診察する番頭のバリエーションなのだけど。

 池内淳子が「ゴルフ芸者」なら、『喜劇駅前金融』(1965年)に引き続き出演の松尾和子さんが「歌謡芸者」として登場。今回はお芝居もしていて、御座敷で「ゴルフ小唄」を披露するシーンがある。

 で、森繁は東京の支店に出張名目で、毎週、東京に出かけては、内緒で借りたアパートで若い娘・菊子(野川由美子)と浮気をしようとするが、いつも邪魔が入って完遂できない。で、なんだかんだと毎回、喫茶店でパフェを一緒に食べるのが関の山。停滞気味の「駅前シリーズ」の新風ということで、本作から野川由美子が登場。ちょうどこの年『河内カルメン』(日活・鈴木清順)に主演することになるが、いわば「旬の女優」である。

 野川由美子の出演シーンははじけている。さらに終盤、「蕎麦屋・森田」に菊子と、チンピラ風情の南郷力丸(藤田まこと)が、徳之助の浮気をネタに強請りにやってくる。ここはもう藤田まことの一人勝ちである。歌舞伎の「青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)」で武家娘に化けた弁天小僧を連れて、浜松屋に乗り込んで百両を強請る南郷力丸にあやかってのこと。これも藤田まことの小手先の笑いなのだけど、難癖つけるたびに、松山英太郎さんの蕎麦屋の小僧・英吉に、いちいち突っ込まれて、調子が狂ってしまう。松山英太郎のボケと藤田まことのツッコミ。新喜劇みたいでおかしい。

 森繁は、終始、心ここにあらずといった感じで、これまた小手先の笑いとリアクションで笑わせてくれるが、ちょっと投げやりな感じもする。結局、藤田まことが、フランキーの大学時代の「東台大学の歌舞伎研究会」の後輩だったことで、丸くおさまる下りは、藤田まこととフランキーのコメディアンとしての芸のやりとりがおかしく、この映画で最大のみもの。で、女房・景子に浮気がバレて、必死にごまかしたい徳之助。

 さらに藤田まことが、フランキーの大学時代「音研(音楽研究会)」の後輩とわかり、突然フランキーがロシア民謡「カチューシャ」を歌い、藤田まこと・伴淳・フランキーがダンスを踊り出す。そこに森繁も加わって「面白いねぇ」と誤魔化す。この「面白いねぇ」は、この頃、森繁の物真似をするコメディアンがよく使っていたフレーズ。で、「カチューシャ」の歌終わりに「ヘイ!」となるところで、全員で「シェー!」。とイヤミのシェーのポーズを決める。

 この頃、少年サンデー連載中の赤塚不二夫の「おそ松くん」ブームが席巻。毎日放送で放映されるアニメ版は、この映画の一ヶ月後、2月5日からスタートする。イヤミの「シェー!」は、アニメではなく、漫画から大流行。『駅前弁天』の前に封切られた『怪獣大戦争』(1965年・12月19日)ではゴジラが「シェー!」をしたが、ついに森繁まで「シェー!」を決めたのだ。

 この「おそ松くん」ブームは凄まじく、次作『喜劇 駅前漫画』(4月22日)では、ついに「おそ松くん」と、藤子不二雄の「オバケのQ太郎」とコラボレーションを組むことになる。



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