見出し画像

 昭和41(1966)年9月、日活の青春スター、和泉雅子と山内賢のデュエット曲「二人の銀座」をリリースした。これは映画のために書き下ろされたものではなく、1960年代の空前のエレキブームの火付け役となったザ・ベンチャーズが作曲、永六輔が作詞したエレキ歌謡は、50万枚を超すセールスを記録した。

 和泉雅子と山内賢といえば、『空の下遠い夢』(1963年)や『川っ風野郎たち』(1963年)、『悪太郎』(1963年)などで共演、吉永小百合と浜田光夫に継ぐ、ゴールデンコンビとして数々の青春映画で共演。特に山内賢は日活でのデビューほどなく、撮影所の仲間で結成していたグループ“日活ヤング&フレッシュ”のヴォーカリストで、歌手としても「天使は胸の中にいる」「泥だらけのいのち」といったレコードをリリースしていた。

 和泉雅子とは「二人の銀座」の前にも、「ユー・アンド・ミー」「二人の虹」(1966年)のデュエットをリリースしている。その二人が50万枚のヒット曲を出したことは、日活にとっても晴れがましいこと。リリースから5ヶ月後に映画化されたのが映画『二人の銀座』である。

 ヒロイン・瀬川マコ(和泉雅子)は銀座で洋裁店“ラムール”を営む姉・瀬川玲子(小林哲子)と二人暮らし。姉の店を手伝っているハイティーン。ある日、日比谷公園の電話ボックスに、姉が大事にしている楽譜を置き忘れてしまう。それを拾ったのが、東南大学の学生バンド“ヤング・アンド・フレッシュ”のリーダー、村木健一(山内賢)だった。

 “ヤング・アンド・フレッシュ”は、日活の若手俳優の、山内、和田浩治、木下雅弘、杉山元の四人で結成されたグループで、「青春ア・ゴーゴー」「僕だけのエンジェル」などのレコードをリリースしている。空前のGSブームのなか、日活映画で活躍したグループとしてファンも多い。

 さて、電話ボックスの忘れ物の譜面を、ジャズ・クラブ“HIGH TEEN”
に出演するために、村木の作曲として演奏、それが大評判となる。しかし村木は他人の曲だと言いそびれてしまったために、大騒動となる。この曲は、マコの姉・玲子の別れた恋人で、盗作疑惑で音楽界を追われた戸田周一郎(新田昌玄)の書いたものだった・・・。

 空前のヒット曲「二人の銀座」の誕生にまつわるドラマを、日活映画らしく過去と現在を交錯しながら描いてゆく。そしてマコと村木のほのかな恋が、明るい笑いのなかで展開してゆく。銀座生まれの銀座育ちの和泉雅子が、楽しげに銀座っ娘を演じているのを観ているだけで、ウキウキした気分になる。

 村木とマコたちは、場末のキャバレーのピアノ弾きとなっている戸田の居所を突き止めて、それまでの経緯を説明して、曲を譲って欲しいと正直な気持ちを話す。そこで戸田は「音楽なんて最初に誰が作ったかなんてことは問題じゃない。弾きたい人が弾き、歌いたい人が歌う。出来上がった歌はみんなの歌です」と、若い音楽家たちに“音楽のこころ”を伝える。

 このセリフを書いたのが、日活青春映画の脚本家・才賀明。演出は和泉雅子の『おゆきさん』(1966年)でデビューしたばかりの、若手監督・鍛治昇。フレッシュな演出が瑞々しく、この作品の好評を受けて、すぐに姉妹編『東京ナイト』と同じキャストで監督することとなる。

【楽曲解説】
「二人の銀座」作詞:永六輔 作曲:ザ・ベンチャーズ
発売日:昭和41(1966)年9月 東芝レコード
カップリング:(B面)「踊りたいわ」(和泉雅子)

 「二人の銀座」の英語題名は“GINZA LIGHTS”。ザ・ベンチャーズが来日公演で訪れたニッポンの印象を曲にまとめたものを、もとは越路吹雪が歌う予定だった。しかし、出来上がった曲を聴いた越路は「こういう可愛い曲は、雅子ちゃんがピッタリ」と、和泉雅子に歌うことをすすめた。しかし、一人で歌うには荷が重すぎると、日活で数多くの共演作があり、音楽にも耳が行き届く「山内賢とのデュエットならと」レコード会社に提案。二人はすでに「ユー・アンド・ミー」でレコード共演していたこともあり、レコーディングが行われた。折からのエレキブームもあり、親しみやすいメロディーとパンチのあるリズムが、若者だけでなく年少層にも受けて、たちまち50万枚を超すヒットとなった。当然、レコード大賞の候補に、と誰もが思ったが、外国人が作曲した曲は対象外ということで、ノミネートされなかったというエピソードもある。

 映画『二人の銀座』では、レコードテイクとは異なる、日活ヤング・アンド・フレッシュの演奏で、和泉雅子と山内賢のデュエットが楽しめる。
 GSブームの火付け役となったジャッキー・吉川とブルーコメッツが、銀座のジャズ・クラブ“HIGH TEEN”で演奏するシーンがふんだんに登場する。空前のヒット曲「ブルーシャトウ」「甘いお話」「青い瞳」といった、ブルコメのヒットが演奏されるシーンは、貴重な記録となっている。

 また尾藤イサオが「ちぎれた涙」「恋の苦しみ」を歌い、カレッジ・フォークの雄、ヴィレッジ・シンガーズの「君をもとめて」も劇中に登場。そして、1966年「かわいそうな娘」でミリオン・ヒットを飛ばした、シンガー・ソングライター、ヘンリー・ドレナン作曲、岩谷時子作詞、和泉雅子の「踊りたいわ」も見逃せない。

 この「二人の銀座」の大ヒットを受けて、東芝レコードは和泉雅子と山内賢のベンチャーズ・ソング第二弾「東京ナイト」を昭和42(1967)年9月にリリースすることとなる。

日活公式サイト

web京都電影電視公司「華麗なる日活映画の世界」


よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。