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長谷部安春の日活ニューアクション時代

 長谷部安春監督のデビュー作は、小林旭のスパイ活劇『俺にさわると危ないぜ』(1966年2月12日)。助監督時代、鈴木清順に師事しただけあって、ポップな感覚にあふれ、セット中心の展開は人工美の魅力に満ちている。同時に、本寸法の演出は、やはり師匠の野村孝譲りの判りやすさだろう。日活が驚いたというカット数の多さは、長谷部自身の粘りによるもの。しかし、興行的にふるわず、1年4ヶ月ほど干されてしまう。

 復帰作は、助監督時代からの盟友・小林旭の“あいつ”第四作『爆弾男といわれるあいつ』(1967年6月28日)。小林旭と東京ぼん太コンビによる、前作までの定石をふまえ、前半はコミカルに展開。しかし、悪役たちが1950年代ハリウッドの犯罪映画もかくやで、色と欲に眼がくらんでの仲間割れをする。西村晃、内田良平、青木義朗らワルの描写は、ぼん太の暢気さと対極にある。中盤になるとアキラは満身創痍で傷だらけ。そこからの反撃がカタルシスとなるわけだが、マカロニ影響下のヴァイオレンスは、壮絶を極める。

 続く『みな殺しの拳銃』(1967年9月6日)は 日活ニューアクションが動き出す瞬間の傑作。宍戸錠、藤竜也、岡崎二朗の兄弟の絆と、かつて錠が所属していた組織との対立をクールに描いている。親友・二谷英明と、お互いの立場ゆえに闘わねばならないクライマックスがカッコいい。

 ブラジルロケ作『赤道を駈ける男』の演出を製作者・小林旭に依頼されるも、日活はベテラン斎藤武市を指名。それがゆえに「渡り鳥」タイプのアベレージ作になったのは残念でならない。その『赤道を駈ける男』で小林旭は多額の負債を抱え、長谷部は『みな殺しの拳銃』から1年ほど干される。

 その二人のフラストレーションが『縄張はもらった』(1968年10月5日)で炸裂し、傑作が誕生する。小林旭、宍戸錠、二谷英明、川地民夫、藤竜也、郷鍈治らが織りなす集団抗争劇。アキラが出所してきたところ、病床の親分は、新興ヤクザの世話になっている。その恩義のため命ぜられるのは、工場用地買収で地元のヤクザが暗躍する地方都市の暗黒街をかき回し、利権をゴッソリ奪う計画。ロングショットを多用した、凄惨なヴァイオレンス場面が展開される、血だらけのアキラと錠が、敵陣に挑んで行くラストは血沸き肉踊る。

 本作の成功により、藤竜也、郷鍈治たちバイプレイヤーの個性を引き出し、ヒーロー映画の概念を打ち破り、集団抗争アクションというジャンルが成熟。この手法は次の『野獣を消せ』(1969年2月22日)で、さらなる発展を遂げる。主人公の渡哲也は“プロハンター”で、久々に帰国すると、恋人・吉岡ゆりが非道な暴走集団にレイプされ自殺。藤竜也、尾藤イサオを中心とする暴走集団の描写は、それまでの悪役の概念を軽々と超越している。外国人女性を集団レイプするシーンで、ただ一人無言で立っている川地民夫の不気味さ。そして藤竜也の冷血さ! 後の『野良猫ロック セックス・ハンター』(1970年)で藤が演じたバロンのプロトタイプといえるだろう。作品そのものが『野良猫ロック』の前身的作品なのだ。

 次の『あらくれ』(1969年6月14日)は、コミカルな“渡り鳥”パロディ『やくざ渡り鳥 悪党稼業』(江崎実生)の続篇として作られたもの。弟分の藤竜也の儲け話を信じ、一文無しの小林旭が北陸までやってくるが、無賃乗車で警察に御用。という出だしはまさしく喜劇で、続く温泉でのアキラの無銭飲食豪遊など、完全に植木等のノリ。ところが中盤からハードアクションに転じる。クライマックス、アキラは腹にダイナマイトを仕込み、廃坑を舞台に大暴れ。敵との戦いでドスが折れ、丸腰になると敵の股に刺さったドスを抜いて、斬りつける! シリーズものでありながら、中盤でそれをぶちこわし、新たな世界を切開いて、滅法面白くなっている。

 そして『広域暴力 流血の縄張』(1969年7月26日)では、小林旭に東宝の中丸忠雄を組ませ、現代ヤクザのリアルな実態を、またしても集団抗争のなかで描いていく。最後、満身創痍となったダボシャツ姿のアキラが新宿歌舞伎町を彷徨う。通行人のリアクションも含め、生々しい名場面となっている。

  続く『盛り場仁義』(1970年1月24日)でもまた任侠映画を任されるが、北島三郎、里見浩太朗、「脱線トリオ」の三波伸介による、笑いとヴァイオレンス溢れる“集団抗争活劇”にしてしまったのは、長谷部の凄腕あればこそ。そして、1970年5月2日に『女番長 野良猫ロック』が公開され、それまでの長谷部作品で展開されてきた、ヴァイオレンス、集団抗争、ユーモアが凝縮されることとなる。

  傑作『野良猫ロック セックス・ハンター』(1970年9月1日)は、もとは「夜の最前線」シリーズの「人間狩り」として企画されたものを、野良猫ロック用に改稿。このシリーズは全作DVD化されており、DVDボックスの映像特典「時代を作ったアウトローたち」に、筆者による長谷部監督のインタビューが収録されているので、『爆弾男といわれるあいつ』のコメンタリー同様、是非!

 長谷部監督は、映画が斜陽に向かうなか、日活アクションの小林旭作品を大転換させ、集団抗争アクション、ニューアクションの時代を切開いた。石原裕次郎の日活最後の『男の世界』(1971年1月13日)、そして宍戸錠VS佐藤允のヴァイオレンス映画『流血の抗争』(1971年6月10日)で、日活アクションの終焉を見届けた、生粋のアクション映画監督なのだ。

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