見出し画像

栗山富夫
 シリーズの方向性を決定づけたのは、なんといっても栗山富夫監督の功績が大きい。山田洋次監督の助監督をつとめ、『祝辞』(85年)や『愛しのチイパッパ』(86年)で、クレイジーキャッツの植木等を絶妙なスパイスとして起用。この“わかっている”監督が、念願の『釣りバカ日誌』(88年)の映画化を成功させる。西田敏行と三國連太郎の持ち味に、栗山の戯作精神が加わって、シリーズ初期、笑いが笑いを誘発させる爆笑篇となった。浜ちゃんの息子が鈴木建設社内で行方不明になる『5』(92年)は、良い意味での栗山監督と西田敏行のワルノリぶりで、エスカレート。そして、小林稔侍を浜ちゃんの同期の部長にキャスティングした『9』(97年)では、「寅さん」の脚本コンビ(山田洋次、朝間義隆)の名シナリオを得て、好評を得た。番外篇『花のお江戸の釣りバカ日誌』(98年)では時代劇版を丁寧に撮り上げた(全11作)。

森崎東
 急遽、夏休み映画として製作されることになった番外篇『Sスペシャル』(94年)は、「男はつらいよ」テレビ版の脚本、第三作『フーテンの寅』(70年)をてがけたベテラン、森崎東監督が担当。重喜劇の作家らしく、パワフルで破天荒かつ、リリカルな傑作となった。なんたって浜ちゃんが住んでいるのは、森崎のデビュー作『喜劇・女は度胸』(69年)で渥美清一家が住んでいたのと同じ場所という設定!(全1作)

本木克英
 そして、松竹大船撮影所出身の最後の世代である、若手(1963年生まれ)の本木克英監督が『イレブン』(2000)、『12』(2001年)、『13』(2002年)と三本演出。シリーズのリニューアル化と、浜ちゃんの無責任キャラの強化に成功。特に、青島幸男がゲスト出演した『12』では、ロケ先の宴会で青島に主題歌の作詞作曲をリクエスト。西田の「とりあえずは元気で行こうぜ」が誕生した(全3作)。

朝原雄三
 『14』(2003年)から今回の『20』までシリーズ後半を支えたのは、1964年生まれの朝原雄三監督。本木と並ぶ、松竹大船最終世代だが、その丁寧な演出と、緩急自在のドラマ運びは、まさしく大船調の後継者に相応しい。秋田を舞台にした小津映画へのオマージュをこめた『15』(2004年)のしっとりとした味わい、うって変わってボビー・オロゴン参戦のドタバタ篇『16』(2005年)、この振幅こそ、プログラムピクチャー作家の真骨頂。ミュージカル志向は『16』のオープニングの「鈴木建設社歌2」(作曲・信田かずお)でもわかるが、最終作でも、クライマックスのミュージカルで、最終作に相応しい弾けた演出を見せてくれる(全7作)。

よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。