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『社長繁盛記』(1968年・松林宗恵)

「社長シリーズ」第28作!

 昭和43(1968)年1月14日、正月第二弾として、オールスターキャストの女性映画『春らんまん』(千葉泰樹)と同時公開された。映画界は斜陽となり、東映やくざ映画が大いに気を吐いていた。昭和30年代の映画黄金時代を支えていたファミリー層は、レジャーの多様化にともない、映画館から遠ざかっていた。そうしたなか「明るく楽しい東宝映画」のキャッチで、それまでの路線を継承してきた東宝は、加山雄三の『ゴー!ゴー!若大将』、植木等の『日本一の男の中の男』を正月映画に、第二弾を『社長繁盛記』としてラインナップ。

 シリーズも第28作を重ねてきたが、製作・藤本真澄、脚本・笠原良三、監督・松林宗恵、出演・森繁久彌、小林桂樹と、製作・主演は変わらずに「良い意味でのルーティーン」が観客のお楽しみだった。『社長繁盛記』もフランキー堺、三木のり平が出演予定だったが、クランクイン前に、藤本プロデューサーの発言に対してフランキーさんとのり平さんが降板を申し入れて、急遽、代役探しをすることに。

 三木のり平のC調な営業部長の「パーっと行きましょう」に匹敵するのは、と、クレイジーキャッツの谷啓が選ばれた「パーっと」から「ムヒョー」へ、である。そしてフランキー堺の怪しげな日系バイヤーの役は、名バイプレイヤーとして川島雄三作品や風俗喜劇で活躍していた小沢昭一が抜擢された。小沢とフランキーは麻布中学の同窓で「落語研究会」の仲間でもあり、小沢は出演を快諾。フランキーの路線を守りつつ、日活アクションなどで見せた怪しげな中国人役を発展させた怪演は、何度見ても楽しい。

 そして前作『社長千一夜』前後編で、小林桂樹に変わって社長秘書役に抜擢された黒沢年男も、シリーズに「ヤングパワー」をもたらしてくれる。この頃、充実していた東宝青春映画で活躍する若手女優陣もファンには嬉しい。黒沢の意中の人に酒井和歌子、その妹に岡田可愛。そして社長令嬢に松本めぐみ。東宝フレッシュ・スター総出演である。

 オープニング。いつものように社長宅の朝の風景かと思いきや、『サラリーマン清水港』(1962年)で「スーダラ節」を歌っていた新聞少年を演じていた大沢健三郎の牛乳配達青年が、伊東ゆかりの「小指の想い出」を歌いながら配達する。そこに登場するのは、世田谷区岡本にあった「百窓」と呼ばれた不思議な建物。「ウルトラセブン」第12話「遊星より愛をこめて」や日活『大巨獣ガッパ』(1967年)にも登場した建築物である。で、ここに牛乳を配ってから、いよいよ社長宅の朝のシーンとなる。

 今回のテーマは「若返り」。総合商社・高山物産社長・高山圭太郎(森繁久彌)は、例によって入婿で恐妻家。妻・厚子(久慈あさみ)の父で、会長・柿島伝之助(宮口精二)が高山家に泊まりにきていて、朝から少林寺拳法の練習に家族を付き合わさせる。

 社長にとって頭が上がらない会長の存在。これまでのシリーズでは、先代社長夫人の浪花千栄子や三好栄子が登場してきたが、今回はベテラン宮口精二が、70代を超えてもなお少林寺拳法の有段者として厳然と存在している。そのことで森繁社長の「若返り」イメージが増幅される。

 今回のロケ地、香川県多度津には金剛禅総本山少林寺があり、柿島会長は香川県で製塩会社を経営しているので、少林寺拳法をフィーチャー。余談だが、森繁は時代劇・『飛びっちょ勘太郎』(1959年・宝塚映画)で少林寺拳法の遣い手を演じている。日本映画で少林寺拳法がフィーチャーされるのは『眠狂四郎 殺法帖』(1963年・大映)での城健三朗(若山富三郎)あたりからだから、森繁さんが一番早い。

 さて、社長・高山圭太郎は、会長・柿島伝之助から、会社の重役も社長も「老化している」と激を飛ばされ、早速「若返り策」を打ち出す。

 迷惑なのは、第一営業部長・本庄健一(小林桂樹)、第二営業部長・赤間仙吉(谷啓)、総務部長・有賀勉(加東大介)たち。本庄部長は、西独から輸入した特殊鋼を名古屋のアトラス自動車に売り込むことにするが、積極策をとる社長が自らアトラス自動車担当・山田(伊藤久哉)と交渉すると言い出してビジネスは大混乱。

 さらに、赤間部長が昵懇の香港のバイヤー・范平漢(小沢昭一)が来日して、連日の接待攻勢が始まる。范平漢の「寝スルか?食スルか?」と、ホステスに「寝しよう」とせまる姿がおかしい。谷さんと小沢さんの悪ノリぶりは、ただただ眺めているだけで楽しい。ちなみに「高山物産株式会社」本社ビルがあるのは、東京九段下に近い千代田会館ビルでロケーションしている。

 本庄部長の代わりに行った名古屋のゴルフ場で、アトラス自動車の担当をしくじった高山社長は、犬山の明治村にアトラス自動車社長・藤川(中村伸郎)に抜き打ちで会いに行く。この年、昭和43年は「明治100年」で盛り上がっていた。愛知県犬山市に、昭和40(1965)年にオープンした「博物館明治村」は、全国各地に残っていた明治の建物を移築したテーマパーク。初代村長は、活弁士出身の文化人・徳川夢声(1965〜1971年)だったが、1990年に二代目となったのが森繁久彌(〜2004)。三代目が小沢昭一(2004〜2016年)。ちなみに徳川夢声は『続社長三代記』(1957年)で、二代目社長・加東大介のスピーチの先生として本人役で出演。「社長シリーズ」と「博物館明治村」にはどこまでも縁がある。

 さて、高山社長、明治村の事務局でボランティアをしている有賀総務部長の紹介で、明治村理事をしている藤川社長から、四国高松にある明治時代の発電所を寄贈して欲しいと依頼される。その発電所は、柿島会長が所有している物件なので「親父に頼めば大丈夫」と安請け合いする高山社長。

 このまま、義父にストレートに頼めば問題ないのに、高山社長は会長が苦手なので、高松に出張しても、なかなか伝之助に会おうとしない。なじみの銀座のバーのマダム・秋子(浜木綿子)が高松に帰郷していたので、デートと洒落込む。ところが栗林公園で、散歩中の伝之助とバッタリ会ってしまい・・・

 いつも以上に、喜劇的状況が展開される。ビジネスの話よりも、森繁社長の人間的な弱さと、ルーズな性格が事態をややこしくしていく。

 「若返り」ということでは、黒沢年男が抜群に良い。直情径行タイプで、クソ真面目で、エネルギッシュ。同僚の中川めぐみ(酒井和歌子)とのコンビも爽やかで、青春映画のような楽しさがある。そのめぐみも高松出身で、田中徹(黒沢)が彼女の実家の果物店を訪ねると高校生の妹・はるみ(岡田可愛)が、田中に一目惚れして、またまたややこしいことになる。

 社長をめぐる女性陣は、銀座のバーのマダムに浜木綿子。元宝塚歌劇団のトップ娘役出身で、『社長繁盛記』クランクイン直前、森繁と帝国劇場の舞台「屋根の上のバイオリン弾き」で共演。気心知れた関係がそのまま、マダム秋子と高山社長の親密感となっている。また、高松の芸者・小花にシリーズではお馴染み沢井佳子、豆奴に「駅前シリーズ」でお馴染みの旭瑠璃(ルリ)。いつもながらに、浮気は未遂に終わってしまうが・・・




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