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娯楽映画研究家「ブギウギ」日記PART5

第16週 ワテはワテだす 1月15日 - 1月19日


ワテはワテだす #1

1946(昭和21)年4月。楽団を解散して心機一転のスタート。愛助は大学を卒業して村山興業の宣伝部で働くことに。史実では、吉本頴右は大学を中退して吉本の社員になったのだが、櫻井剛脚本では大卒に。そして、いよいよ喜劇王エノケンならぬタナケン登場。

前年12月、上海から戻ってきた服部良一先生と笠置シヅ子が戦後初めてコンビを復活させたのが、1946年3月2日から4月10日にかけて有楽座で上演された、榎本健一一座「舞台は廻る」六景(作・演出・菊田一夫)だった。ここでエノケンと笠置のコンビが誕生。戦後のエンタメ史のエポックとなる。

今週はその再現ということになる。楽しいなぁ。タナケン映画や舞台のポスターがインサートされるが「孫悟空」や「エノケン・ロッパの弥次喜多」などの再現がアチャラカ脳を刺激。知友・原健太郎さんが協力しているのでそのあたりは間違いない。

ロッパがハッパになっているのがおかしい。原健太郎さんとは「東京喜劇研究会」と2003年「エノケン生誕100年」をご一緒した。あれから20年、何もかも懐かしい。

で(おそらく)有楽座の稽古場で、スズ子と山下が待てど暮らせどタナケンこと棚橋健二(生瀬勝久)が現れず。二時間も経って、スズ子のイライラはマックスに。ようやく現れたタナケンは舞台のイメージと裏腹。気難しいタイプで、一言も口を聞かない。

実際のエノケンさんも、オフステージではそういうタイプだった。「私はあなたを好き好んで呼んだわけではない。」スズ子「どうだっか?」タナケン「どうだろうね」暖簾に腕押し。生瀬勝久の眼がギョロギョロ。ああ、エノケン!(笑)

スズ子が稽古場を出て行こうとすると、羽鳥善一が現れる。「僕がこの舞台の音楽監督だからね」「そんなことより君のイメージで曲を作った」と譜面を渡す。ああ、やっぱり「コペカチータ」だ! 12日にNHKラジオ「ごごカフェ」で予想、ご紹介した通り(笑)

伝説のエノケン・笠置の初共演「舞台は廻る」の再現は、本当にワクワクする。「コペカチータ」は、この舞台のために服部良一が書き下ろした不思議なリズム。「ごごカフェ」では映画テイクをご紹介したが、ほんと不思議な曲。

ワテはワテだす #2

喜劇王エノケン、ならぬタナケンとの「舞台よ踊れ!」に出演することになったものの。無口なタナケンから無視されているような気持ちのスズ子。久しぶりに秋山美月が上京、青空マーケットで再会。USKのメンバーたちの戦時中の苦労を聞く。

劇場閉鎖後、挺身隊として各地の慰問をしていた話。OSSKも宝塚もみんなそうだった。長くつらい戦争を抜けての開放感。秋山にタナケンとの共演をすごいと言われて「そうか、そやろ、そうやねん」とスズ子のスイッチが入るのがいい。

このポジティブさが彼女の身上。おかしいのは秋山と別れたc直後に、闇市を小夜がサムと歩いているのを見たスズ子。去っていく秋山を追い抜いて、小夜を探しに「え?なんで」これぞ喜劇の呼吸。エノケン映画的なギャグ(笑)小夜がパンパンに?なぜ?

ここで「パンパン」という言葉が出てくる。戦後まもなく、混乱期の日本で、米兵相手に生活のために街娼となった女性のこと。戦争で何もかも失い、やむなく春をひさぐことになった女性たちは、シングルマザーとして頑張る笠置シヅ子を支持して、応援した。

おそらくはそのエピソードも今後展開してくるだろう。「ブギウギ」の闇市はいかにも朝ドラらしい健全な雰囲気でもあるが、革ジャンの担ぎ屋風の兄ちゃん(ヤクザっぽい)とかも登場して、当時の雰囲気をなんとなく伝えてくれている。

果たして小夜ちゃんは?これも喜劇的なシチュエーションで、タナケンとの「舞台よ踊れ!」の稽古が並行して描かれる。相変わらずのタナケン(生瀬勝久)のスズ子へのノーリアクション。芝居の稽古の時のコミカルなリアクション。

これからのアチャラカ劇の再現が楽しみ。スズ子が「ワテは?」とタナケンに聞くも「君は、どうだろうね?」としか答えない。プレッシャー増量の稽古。生瀬勝久の表情、エノケンに寄せているのがおかしい。目をギョロギョロさせてのエノケン顔!

1月20日(土)「昭和ブギウギ」の輪島裕介さん「ブギウギ伝説」の佐藤利明、岸野雄一さんと ゼロから聴きたい新春特別編 「戦前/戦後のニッポン・リズム大縦断」 開催! 日時:1月20日(土)13:00〜16:00 参加費:リアル観覧2,024円/オンライン1,650円 会場:美学校2F教場

エノケン・笠置の話もします!

ワテはワテだす #3

有楽座(のはず)稽古場でのタナケン劇団「舞台よ踊れ!」稽古場。スズ子の芝居はしどろもどろ。それを活かすために、受けの役者を田中から中村に変える。素人には素人、というタナケンの演出。短いシーンだけど喜劇王のセンスが窺える。

どんな芝居かさっぱりわからないけど、なんとなく視聴者にも雰囲気はわかる。芝居となるとタナケンのリアクションが抜群になる片鱗も。しかしスズ子には、なんのアドバイスもないタナケンに対して、どんどん自信喪失。役を奪われた田中の一言も、ごもっとも。

田中に「もし、歌のステージにど素人が紛れ込んできたら、あんたどうする?気持ちよく歌えるか?」と言われ、タナケンに「ワテ、間がズレてるって、ほんまだっか?」しかしタナケンからは「どうだろうね?」しか返ってこない。

「相手にされないのはしんどい」とスズ子。マネージャーの山下は「達者に歌う歌手はたくさんいるけど、みんながスズ子の歌を聞きに来る」のは「あんた自身が面白いからや」「歌しか知らない人に、もっとあんたの魅力を知ってほしい」

これは福来スズ子の魅力の本質であり、笠置シヅ子の本質でもある。佇まいだけでもおかしい。そこにいるだけで面白い。愛助も「ぼくにはわかる。愛嬌いうか、おかしみいうか、なんとも言えない佇まいがある」。まさに笠置シヅ子論!

一方、小夜はサムがアメリカに帰ると言い出して「捨てられた」と泣きじゃくる。スズ子は「あのアメリカ!」と怒り心頭でさむに猛烈抗議。これぞ喜劇的シチュエーション。稽古場の借りてきたネコのような感じとは真逆。笠置シヅ子の喜劇映画を彷彿とさせる。

サムとの対決シーン。本人は怒り心頭だけどおかしい。これが山下や愛助がいう「面白さ」であり、タナケンが引き出していくスズ子の本質。このあたりの脚色が見事。サムが悪人でないことは、英語が達者な愛助が知ることに。

サムに食ってかかったスズ子に、自分たちが付き合い始めた時の小夜と同じだと愛助。家族のように心配している。サムは小夜が天涯孤独だと思っていたけど、スズ子のような家族がいてホッとしたと愛助に話したという。果たして小夜はアメリカへ行くのか?

戦時中の展開と裏腹に敗戦後のドラマは、本人たちには「大事」なのだけども、どこかホッとする。やっぱり平和がいちばん。「負けたけど、良かったね」のココロでもある。敗戦直後の喜劇映画にあるような安堵感も感じる。しかしタナケンの芝居、楽しみだなぁ

1月20日(土)「昭和ブギウギ」の輪島裕介さん「ブギウギ伝説」の佐藤利明、岸野雄一さんと ゼロから聴きたい新春特別編 「戦前/戦後のニッポン・リズム大縦断」 開催! 日時:1月20日(土)13:00〜16:00 参加費:リアル観覧2,024円/オンライン1,650円 会場:美学校2F教場

ワテはワテだす #4

小夜はサムと結婚してアメリカに行く決意をする。スズ子は一度は猛反対。まるでツヤ(水上あさみ)がスズ子の東京行きを反対した時のように「あかん」と激しい口調。ああ、ここでツヤとスズ子がリンクしているのか。櫻井剛脚本、うまいなぁ。

「アメリカはどんなとこか知れねえけど、サムといればなんもおっかなくねえ」と小夜。これまでにない穏やかな表情がいい。かつてスズ子に言われた「どこで何してたって、オレはオレだって」に背中を押されたと小夜。自分が自分らしくいられればそれでいい。

「これからはオレの人生だ。ワクワクします」と小夜。タナケンとの芝居に悩んでいるスズ子に「どこで何をしたってスズ子さんはスズ子さん」今度は小夜がスズ子の背中を押す。この「幸福の連鎖」が、事態を転回させる。いいなぁ。

羽鳥善一も調子っ外れなスズ子の芝居を面白がる。普段と違うのは「落差を見せてるんだろう。音楽で言うと転調だ」「君は『コペカチータ』で新しい扉を開くんだ」とにこやか。根拠があるようでない、良い意味での無責任さに救われる。草彅剛がいいねぇ。

スズ子の「間の悪さ」に「少しぐらいリズムがズレても面白いだろう。そこからまた違うノリが生まれるかも知れない」これでスズ子の気持ちが固まる。「ワテはワテや」。タナケンとの稽古で、良い意味で開き直って大阪弁で芝居する。タナケン「面白いね」。

座員はタナケンのセリフを勝手に変えたスズ子を叱責するがタナケンは「面白けりゃいいんです」「現実を忘れに来るお客様に当たり前の芝居を見せても仕方ない」「僕を誰だと思っているんだ。喜劇王タナケンだよ」ああ、ここで史実とリンクするんだ!

1946年2月「舞台は廻る」の稽古場で、エノケンは笠置シヅ子に、君の芝居はツボが外れているのが面白い。だから「僕は君がどんなにツボをはずしても、どこからでも受けてやる」とアドバイスをした。「外したまま突っ込んでこい」と。

20日(土)は美学校「ゼロから聴きたい新春特別編「戦前/戦後のニッポン・リズム大縦断」講師:輪島裕介 佐藤利明 岸野雄一 開催! エノケン、笠置シヅ子のパフォーマーとしての魅力、サウンドについても語ります。

対面、オンラインともに受付中!是非ご参加ください!

ワテはワテだす #5

いよいよタナケン劇団公演「舞台よ踊れ!」の幕が開く。調子を外したままでいい「どこからでも受けてやる」のタナケンの言葉を受けてのスズ子の芝居。東京喜劇というより大阪喜劇のようなテイスト。生瀬勝久のタナケンは、実際のエノケンよりもインテリの印象。

むしろ古川ロッパ的でもある。エノケンとロッパの融合がタナケンなのかも。アチャラカ芝居の再現はともかく、嬉しいのはここで「コペカチータ」が繰り広げられること。「不思議なリズム」のこの曲は服部良一先生のリズムへの挑戦。

カラフルで変幻。独特の味のナンバーに相応しい華やかなステージ。そこへタナケンが登場。コミカルな動きで客席を沸かす。史実ではエノケンがタイミングを間違えて、吹き出してしまい、笠置シヅ子がフォローしたというエピソードもある。

客席には、坂口、愛助、羽鳥善一、サムと小夜もいる。みんな楽しそう。自分はありのままでいい。それが舞台に昇華されている。楽屋でタナケン「君の芝居が間がずれている。が、そこが面白い」「君はそれでいい。君は君のままでいなさい」。

エノケンが笠置シヅ子に伝えたことばである。ここからエノケン・笠置の時代が幕開ける。毎年、日比谷の有楽座でのエノケン劇団公演には笠置シヅ子が出演。1948年、エノケンプロを興したエノケンは笠置を相手役に『歌うエノケン捕物帖』を製作することに。

サムとアメリカに行く小夜を見送るスズ子と愛助。この別れのシーンもいい。「小夜ちゃんはほんまの家族やから」の言葉に養母・ツヤの顔が浮かぶ。スズ子が渡す四葉のクローバー「グッドラック!」。いいねぇ。

1946(昭和21)年の春。束の間の幸せなひととき。史実でのこれから先、笠置シヅ子を待ち受けている運命を考えると…それが次週の予告にちらっと見えるし。「東京ブギウギ」誕生は翌年の秋なのに… というわけで来週も楽しみであります。

明日、1月20日(土)開催! 輪島裕介×佐藤利明×岸野雄一 ゼロから聴きたい新春特別編「戦前/戦後のニッポン・リズム大縦断」 | 美学校 13時開講! エノケン・笠置シヅ子のパフォーマンス、彼らの功績についてもお話します!

第17週 ほんまに離れとうない  1月22日-1月26日

ほんまに離れとうない  #1

昭和21(1946)年、笠置シヅ子と服部良一は再びコンビを組んで活躍していた。その頃の話。スズ子が愛助(水上恒司)との結婚を考えいた矢先、村山興業社長・トミから「結婚は認めるが、歌手を辞めるのが条件」と究極の選択を迫られる。

今週は足立紳脚本。村山興業というファミリーの経営者の妻になる覚悟を迫られるスズ子。社長秘書・矢崎(三浦誠己)の冷徹さ、融通の効かなさは、かつての坂口(黒田有)のようでもあり、そのヒールぶりも徹底している。かつての吉本興業が見え隠れ。

相談を受けた羽鳥善一(草彅剛)は「君が歌手を辞めるなんて、僕にとって音楽をやめろということ」と取り乱して猛反対。声がオクターブ上がって裏返る感じが「音楽のことしか考えていない」オタクだなぁ。わかる、わかる。

しかし妻の麻里(市川実和子)は、そんな身勝手なことを言う夫に怒り出す。「好き勝手、よくわからない音楽やってられるのは誰のおかげ?」麻里は、スズ子の気持ちがよくわかる。村山トミの横暴に「我慢するのはいつも女よ、おかしいわよ」怒り心頭。

羽鳥家は夫唱婦随だけど、その実は恐妻家というのが足立紳脚本らしくて面白い。愛助はスズ子に本音を話して欲しいというと「ワテ、言い出したら止まらんよ」。それぞれの立場、それぞれの想い。大阪へ行った坂口の説得も失敗。いよいよ選択を迫られる。

という訳で、保利透×佐藤利明「SPレコード博物館 キネマとソングのレコード」ネオ書房@ワンダー神保町店で開催。笠置シヅ子の1947年のSPレコードもご紹介!映像とレコード、トークで構成する110分!14時開演です!

ほんまに離れとうない #2

愛助と結婚するには、歌手を辞めるという選択肢しかなく、誰もが頭を悩ませる。今日はその究極の選択回。スズ子は愛助と家族になれば「辞めてもいいかな」、しかし愛助は「日本の芸能界の損失、あり得ない」ならば愛助が村山を辞めると言い出す。

夕食の準備、スズ子が「ラッパと娘」のイントロをハミング。包丁や食器の音がリズムを刻み、スズ子が歌い出す。ミュージカル映画、いや江利チエミの映画『サザエさん』みたいな演出が楽しい。派手でなくさりげない動きがいい。

そこへ羽鳥善一が訪ねて来る。麻里さんには叱られるかもと前置きをして、どうしても「歌手を辞めて欲しくない」と言いに来たのである。「君は激情にかられて、辞めてしまうかも」と、スズ子の性格を見抜いている。草彅剛がいいね。

思いやりより、自分の気持ちを優先させてしまう。スズ子が辞めることは「損失」と愛助と同じ考えである。なので愛助に説得してもらおうとやってきた。そこで新作舞台の構想を語る。兼ねてから温めてきた「カルメン」のミュージカル化である。

1947年1月、日劇で上演される「ジャズ・カルメン」である。元々は1946年の秋に上演予定だったが東宝争議の影響で延期してしまう。帰宅してきた愛助が廊下で羽鳥の熱弁を聞いていて、大興奮。「僕も羽鳥先生と全く同意見だ」

「僕が1番のファン」「いや君は2番だ」。愛助と羽鳥がスズ子のファンとしてもマウント合戦。おかしいね。スズ子も「やっぱりワテは歌いたいと思います」結局振り出しに戻って問題は「解決しまへん」そこへ山下マネージャーと坂口「解決しまひょ」

縁側から現れる坂口と山下。ほとんど新喜劇のノリ。じゃあどうするか?「スズ子さんが歌手を辞めることはない。僕が村山を辞めることはない」。村山トミを説得できるのは愛助しかいない。という結論。愛助が大阪に行くことに。しかしそこで喀血…

今日もジェットコースターのような展開。「ジャズ・カルメン」については拙著「笠置シヅ子ブギウギ伝説」でも一項目執筆しておりますので、ぜひご一読ください。ここからは史実が切ない展開となるので、色々切ないですが…

ほんまに離れとうない #3

愛助が喀血して再び入院。そこへ母・村山トミ(小雪)が駆けつけ、坂口と山下を叱責。「あんたらを信頼したんや、そやけど、私の間違いでしたわ」。目の前のスズ子を無視するように。母の強い想い。

その日の朝、スズ子は亡母・ツヤに「どうか愛助さんをお守りください」と。だからトミの気持ちもわかる。トミは疾風の如く去っていく。スズ子の気持ちを慮り愛助は「なんか甘いもの食べたいわ。おはぎとか」と甘える。「まかしとき!」

闇市。殺到する人々のなか、スズ子「これで買えるだけのお砂糖ちょうだい!」いいなぁ。なけなしの砂糖でおはぎを作るスズ子。切ないけど幸せなひととき。愛助に「孝行したい時に親はなし、いいますやろ」と大阪へ帰るように説得する。

愛助は大阪に行く途中、スズ子に「箱根まで僕を送ってくれないか?」と初めての旅行を提案する。唐突のようだが、これは史実通り。1946年5月、笠置シヅ子は吉本穎右と、マネージャーの山内義富(山下のモデル)と箱根へ旅行する。

そこで翌月早々に大阪へ戻って、シヅ子とのことを「なるべく早く適宜に処理します。あとのことは、どうかよろしくお願いします」と山内に頼む。というエピソードを足立紳が脚色。明日の「湖畔の宿」はさらに翌月の話でありますが…それはまた明日にでも。

というわけで、いよいよ今週の土曜日です! エノケン、笠置シヅ子、エトセトラ・・・ 「#ブギウギ」で描かれている時代のレコード文化を語ります 1月27日(土)保利透×佐藤利明「SPレコード博物館 キネマとソングのレコード」ネオ書房@ワンダー神保町 14時開演! 予約 kirira@nifty.com

ほんまに離れとうない #4

大阪に療養のために帰る愛助と箱根へ初めての旅行に行ったスズ子。二人の楽しそうなひととき。かけがえのない時間が、おっとりとした空気のなかで描かれる。昭和20年代のカップルという雰囲気がいい。楽しくも切ない。

史実では1946(昭和21)年5月に、笠置シヅ子は吉本穎右と箱根にで出かけ、翌6月16日に大阪へ帰るを見送りがてら、琵琶湖の「湖畔の宿」で最後のひと時を過ごした。9月に日劇「スイング・ホテル」稽古中に、笠置シヅ子は妊娠に気づく。

服部良一渾身の「ジャズ・カルメン」は東宝争議で延期となり、翌年1月28日からの上演となる。偶然とはいえ今週のオンエアと重なる。ドラマに夢中になっていると、スズ子と愛助のハードルは「村山トミ」だけなのでなんとかならないか?と思ってしまう。

スズ子は愛助に妊娠を手紙で告げる。手紙を書くスズ子を見守るように、欄間にかかっている愛助の丹前。誰もいない部屋に「ただいま」と帰ってきた時に、スズ子はこの丹前に語りかける。

愛助は嬉しさのあまりトミにそのことを告げたために、騒ぎは大きくなる。坂口セリフ「ガキの使いやあらへんで」は、このタイミングだと、かなりすべってしまうなぁ。

しかしスズ子は、自分が大阪に行ってトミを説得する決意を山下と坂口にする。「ワテはきちんと愛助さんと結婚してからこの子を生みたいんです」ここでスズ子は初めて、自分の出生の秘密を話す。この子だけはちっとも傷つかんように、育ってほしい。

出生のことについては愛助も知らない。だからきちんと話しておきたい。足立紳脚本はストレートだが、スズ子(と笠置シヅ子の)心情に寄り添って描いている。それを聞いた山下は「言うても先代の頃から古い付き合いや、まかしておきなはれ」と大阪へ。

先週のタナケン編の楽しさから一転、今週の展開、史実がわかっているだけに、その時の「心情」「想い」がセリフに描かれて、余計に切ない。それがまたドラマの楽しみでもあるのだけど・・・

ほんまに離れとうない #5

いよいよ佳境。大阪、マネージャー山下(近藤芳正)は村山トミ(小雪)と対峙。しかしトミは「順序が違う」とさらに頑なになる。「子供が出来たから結婚します」では筋が通らないと。しかし山下はスズ子こと、愛助の成長ぶりを得々と話す。

あの二人は無責任じゃない。スズ子が歌手を辞めるのは日本の損失だと愛助。自分もそう思います。「ボンはもっと先の日本のエンタテインメントを考えてます」「ボンを信じてやってください」と山下は土下座をする。

しかしトミは「許しまへんで」「これは家族をどう思うかの問題」「家族は同じ方向を見て頑張らなあかんのや」。「#ブギウギ」の大きなテーマの一つ「家族」。それをどう捉えるか、ここが足立紳の脚本の上手いところ。

愛助も山下も坂口も、スズ子のことでは同じ方向を向いている。つまり一枚岩。これがトミの言う「家族」である。が、肝心のトミだけが「世間体」「対面」「筋」を前面に出して頑なである。愛助を溺愛するが故の「エゴ」であることに気づいていない。

愛助は「お腹の子は僕の子にする」と伝えてと山下に頼む。愛助からの手紙には愛が溢れている。「その子をててなしごには絶対しません」スズ子の出生の秘密を知らない愛助のことばに、スズ子も坂口も胸がいっぱいになる。やっぱり彼らは「家族」だ。

スズ子にはもう一つの「家族」がある。羽鳥善一一家である。「ジャズカルメン」をやりたいが妊娠中でできるかどうか?スズ子が切り出すと「そうか、そうか腹ボテのカルメンか、これはこれで面白くなりそうだ」と羽鳥。草彅剛の屈託のなさ最高!

この「腹ボテカルメン」と言う言い回しは、実際に服部良一先生が「ジャズ・カルメン」のパンフレットの寄稿文や自伝にも書いてある。そんな呑気な夫をよそに、羽鳥夫人・麻里は「男の人はてんで役に立たない」とかかりつけの産科医を紹介してくれる。

この医師も東看護師(友近)もスズ子の大ファンで「ハイライト」公演もチケットを手に入れて観に行ったと大喜び。身重で心細いスズ子のために、誰もが自分にできることは何かと考えて行動する。誰もが他人だけど、これが本当の「家族」と思わせてくれる。

視聴者も含めて、誰もがスズ子の幸せを考えている。村山トミだけの言う「家族」は「母親のエゴ」にすぎない。それがどんどん明確になっていく。史実をドラマに転換していく脚色の醍醐味がここにある。来週、いよいよ「ジャズ・カルメン」上演であります。

いよいよ明日! 笠置シヅ子も当時のSP盤で再生します!

1/27(土) 「キネマとソングのレコード」 保利透(『SPレコード博物館』著者) 佐藤利明(娯楽映画研究家、オトナの歌謡曲プロデューサー) ネオ書房神保町@ワンダー店 14時開演 予約 kirira@nifty.com

よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。