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                   佐藤利明(娯楽映画研究家)

 永遠の青春スター、舟木一夫。2007年、デビュー四十五年を迎えてもなお、「青春」という言葉がよく似合う。1963(昭和38)年6月発売のデビュー曲「高校三年生」が大ヒット。ステージ衣裳がなく、急遽、自前の詰襟で歌ったところ、好評を博し、それがトレードマークとなる。2006年に行われた「団塊の世代の好きな歌アンケート」で、ザ・ビートルズなどのポップ・ヒーローを抜いて、堂々の一位となったのが「高校三年生」だった。

 舟木一夫が颯爽と登場した昭和30年代末のニッポンは、高度経済成長時代のまっただなか。地方から集団就職などで上京してきた若者たちは、青春時代を勤労にはげみ、舟木一夫の歌を同世代の応援歌として口ずさんだという。

 そんな青春スター、舟木一夫の人気に目をつけたのが映画界。大映、日活、東映、東宝、松竹と、邦画各社に主演作を残していることからも、その人気のほどが伺える。特に日活は、1963年の『学園広場』(山崎徳次郎)から1969年の『青春の鐘』(鍛治昇)まで六年間に十六作もの舟木一夫映画が作られた。 

 この「舟木一夫 純愛BOX」に収録されているのは、その中から「純愛」をテーマにセレクションされた八作品。1964(昭和39)年の『仲間たち』から1968(昭和43)年の『残雪』まで、スクリーンで舟木一夫が演じた、様々な愛のドラマと、魅力的な主題歌や挿入歌を楽しむことができる。

 日活での第二作となる『仲間たち』が公開されたのが、1964年3月。前年11月に発売された「仲間たち」をモチーフに、日活青春スターの浜田光夫、松原智恵子が、明日の幸福を夢見て懸命に働く姿を描いた青春ドラマ。この映画が公開された頃は、歌謡界を空前の舟木一夫ブームが席巻。所属するコロムビアレコードでの「ヒット賞」を獲得するなど、まさに時代の寵児だった。『仲間たち』での舟木一夫は、浜田光夫と同郷の出身で、餃子店で働く勤労青年。この作品ではまだ恋をすることなく、主演カップルを励ますという役。

 1965(昭和40)年の『東京は恋する』は、前作『北国の街』に続いての舟木一夫主演作。看板のペンキ塗りをしながら、芸術への道を志している青年を公演し、保育士・伊藤るり子にほのかな恋心を寄せながら、親友・和田浩治と彼女の恋愛のために身を引く“悲恋”の主人公でもある。同時に、東京銀座や赤坂の風景のなかで、シティ感覚あふれる青春ドラマが展開され、同名主題歌のポップなテイストも含め、それまでのローカリズムあふれる舟木一夫映画とは一線を画している。

 同年12月に公開された『高原のお嬢さん』は、コロムビア創立55周年記念の同名曲をモチーフに、舟木とは黄金コンビを組んでいた和泉雅子との悲恋を描いている。映画館に観客が収まり切らないほどの大ヒットを記録。ここでの舟木の役は、蓼科高原で植物の研究を続けている学者の卵。別荘にやってきた「高原のお嬢さん」と恋に落ちるという物語。『学園広場』から共演を続けている山内賢と、舟木の弟分的な堺正章がコミカルな味を見せて、人気GSザ・スパイダースとの共演など、カラフルで盛りだくさんな作品となった。

 1967(昭和42)年のお正月映画『北国の旅情』は、明朗青春小説の雄・石坂洋次郎原作、脚本は倉本聰と山田信夫、そして監督は『絶唱』で舟木一夫の魅力をスクリーンに引き出した西河克己が担当。十朱幸代をヒロインに迎え、ガールフレンドの縁談と結婚問題に直面する大学四年生を好演。卒論を書きながらタバコを吸うシーンは、舟木一夫がヘビースモーカーになるきっかけだったとか。ここでの舟木もまた、十朱幸代に惹かれてはいるが、彼女の結婚を祝福するために身を引く。女性ファンへの配慮もあって、舟木一夫映画では、ヒロインと恋愛はしても、結ばれてはならないという不文律が徹底されている。それが「純愛映画」の“悲恋”度をより濃厚なものにしている。

 同年9月に「芸術祭参加作品」として公開された『夕笛』は、前年の『絶唱』に続く“悲恋”の文芸作品。ヒロインは松原智恵子。昭和のはじめ、お互いに惹かれ合いながら、結ばれることがなかった学生と悲劇のヒロインに、訪れる数々の試練。舟木一夫「純愛映画」のなかでも、最も悲劇性の高い作品となったが、これもまた主題歌と共に記録的な大ヒット。

 同年11月公開の『君は恋人』は、石原裕次郎、小林旭、吉永小百合たち日活スターのほとんどが顔を揃えたオールスター映画。舟木とはプライベートでも友人だった浜田光夫が不幸なアクシデントに見舞われケガで入院。一年吸うヶ月ぶりの復帰を記念して作られた作品。舟木は、浜田の親友として、彼を励ます役で出演。「愛すればこそ君に」を熱唱する。

 1968(昭和43)年1月、お正月らしい華やかな顔が揃った『花の恋人たち』は、吉永小百合、十朱幸代、和泉雅子、山本陽子といった日活女優陣が国家試験を目指す医者の卵に扮した女性映画。舟木は山本陽子の弟役の高校生として助演。「くちなしのバラード」を劇中歌い、ラストには「北風のビギン」が流れている。助演といっても、かつてのような形でなく、大物のゲスト出演という扱いとなっている。

 そして舟木自身が激動の年の幕開けと語っている1968年。『絶唱』『夕笛』に続く三部作の完結篇的に登場したのが『残雪』。舟木一夫は、建築を学んでいる、将来を約束されたエリート。雪国で出会った純真な少女と恋に落ちるが、彼女の出生の秘密を知り苦悩する。これも映画オリジナル・ストーリーによる文芸作で、舟木一夫と松原智恵子、二人の“悲恋”は心中という哀しい形で結末を迎える。その哀切たる悲恋ドラマこそ、日活の舟木一夫映画の味でもある。

 高度経済成長時代のなかで、舟木一夫が主演した「純愛映画」の数々は、多くの女性ファンの感涙を誘い映画館を満員にした。この「純愛映画」の時代は、ファンにとっても、映画界にとっても良き時代だったことだろう。

 これらの作品にパッケージされた1960年代の青春と純愛。ここには、その時代の空気がそのまま、タイムカプセルのように凝縮されている。

日活「舟木一夫 純愛BOX」ライナーノーツより

舟木一夫 純愛BOX [DVD] 





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