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将棋・第3回Abema TV トーナメント観戦記① 〜今泉健司四段を観て思うこと〜


 将棋の第3回Abeam TV トーナメントが面白い。通常個人戦の将棋にしては珍しく、こちらは団体戦で、しかも棋士が一喜一憂している様が観れる。将棋の観戦にしてはエンターテイメント性が強いのだ。

 先週、決勝トーナメント1回戦で負けてしまったが、チーム久保・振り飛車は、このシリーズで応援していたチームだった。他のチームが居飛車戦法が多い中、対策を立てられやすい振り飛車使いだけを敢えて選んだチームであること。そしてチームメンバーのバランスが個性的であること。この二つが魅力だった。予選では圧倒的下馬評を覆して、A組トップ通過。初戦で優勝候補と目されていたチーム豊島を倒した時は思わず興奮した。

 リーダーは久保利明九段、44歳。振り飛車使いでは現在棋界トップと目されていて「捌きのアーティスト」とも呼ばれる。角の使い方がうまかったり、劣勢から鮮やかに反撃したりと、確かに素人目にも華がある将棋だ。元王将というタイトル経験者でもある。

 そして菅井竜也八段、28歳。岡山出身、今季順位戦A級に上がった、今最も強い棋士の一人。決断が早く、強気でいく棋風など、観ていてこちらも飽きない。若いが王位のタイトル経験者でもある。

 そしてもう一人。今泉健司四段、47歳。彼がチームのムードメーカーであり、私の推し棋士だった。年齢的には一番上なのだが、苦労人で、奨励会を二度退会した後、プロ編入試験で合格し、2015年にプロ棋士となった。叩き上げ感があり、天才集団の中では庶民的な香りが漂う。

 何度も苦労してプロ棋士になった今泉四段は、だからか、実に腰が低い。「このチームには大将が二人います」と、久保リーダーはおろか、年下の後輩棋士である菅井八段も必要以上に持ち上げる。ちょっと卑屈にもみえるが、力の差を痛感した発言なのだろうか。しかし一方で菅井八段からは、下積み時代の先輩風エピソードを暴露されたりと、とにかく絵になりやすいキャラクターではあった。

 棋士というのは感情を読まれないよう隠すのが上手い。実際、久保九段は常にポーカーフェースだ。菅井八段はその点、割と感情が表に出やすい方だと思う。指している姿にも闘志が現れるので、応援したくなる。

 だが、今泉四段は感情を全く隠そうとしない珍しい棋士だった。緊張しています、と言ってるそばから、画面越しに緊張感が伝わってくる。負けて悔しそうな、そしてチームメンバーに申し訳ない、という気持ちが痛いほど伝わってしまい、もっと我慢しろ! ちょっと気持ちを押し殺してくれ、と言いたくなってしまう。辛うじて勝って、心底ホッとしているのが手に取るようにわかる。本当に本当に良かったね〜、と心から賛辞を送りたくなる。とにかく感情移入しやすい人だった。

 藤井聡太七段のように、とてつもなく強い棋士を応援する気持ちはもちろんわかる。私もジャンプ世代だし、常人には手が届かないと思わせるような、素晴らしい快挙を達成するヒーローには無条件で憧れる。しかし同時に、今泉四段のように、生身の、身近な雰囲気を漂わせる棋士の存在も捨て置けない。彼がいるからこそ、画面越しの天才達の戦いが、なぜか親戚が出ている地元の町の将棋大会のように、親近感を持って楽しめるのだ。余談だが、今泉四段はNHK杯で藤井聡太に勝っている。「史上最年長で棋士になった今泉が、史上最年少で棋士になった藤井聡太を撃破」としてニュースにもなった。

 繰り返すが、決勝トーナメントで、佐藤康光九段率いるチーム康光・レジェンドに競り負けてしまい、チーム振り飛車は姿を消した。あの3人のデコボコチームが観れないのはとても残念だ。たらればになるが、個人的には、康光九段と今泉四段が最終戦を戦うところが観たかった。今泉四段の一世一代の決戦になっていただろう。それを心配しながら固唾を飲んで見守る久保九段、菅井八段の姿も、また観戦の醍醐味だったに違いない。

 

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