メリーさん（本名不詳、1921年- 2005年1月17日）は、神奈川県横浜市の中心部でしばしば目撃された伝説的な娼婦。白塗りの厚化粧にフリルのついた純白のドレスという印象的な風貌や謎に満ちた人物像から、数多くの歌や文学、演劇の題材となった。

第二次世界大戦終戦後、進駐軍兵士相手に身体を売っていた「パンパン」と呼ばれる娼婦だと噂され、「皇后陛下」「白狐様」「クレオパトラ」「きんきらさん」などの通り名で呼ばれていた。1980年代に入った辺りから「（港の）マリーさん」と呼ばれ出し、同じく80年代の後半から「メリーさん」と呼び名が変化したようである。また「西岡雪子」という仮名もあり、他にも「ホワイトさん」、「白いお化け」などと呼ばれるとともに都市伝説にもなった。そして後年ドキュメント映画がヒットした影響から「ヨコハマメリー」「ハマのメリーさん」などと呼ばれることが多くなった。

岡山県出身。実家は農家で、女4人、男4人のきょうだいの長女として生まれる。
実弟の話によると、地元の青年学校を卒業後に国鉄職員と結婚。その後、戦争が始まり軍需工場で働きに出るが、人間関係を苦に自殺未遂騒動を起こす。この出来事が原因で結婚からわずか2年で離婚。子供はいなかったという。戦後、関西のとある料亭（実際は米兵相手の慰安所だった）で仲居として働いた後、そこで知り合った米軍将校の愛人となる。彼に連れられ東京へ出るが、朝鮮戦争勃発後、現地へ赴いた彼は戦争が終結するとそのまま故郷のアメリカ合衆国へ帰り、日本には戻らなかったという。
取り残された彼女はその後、横須賀を経て横浜へと移動し、米兵相手の娼婦としての生活を始める。以後は在日米軍基地に数十年間と長期にわたり居住した。中村高寛監督の映画『ヨコハマメリー』によると来浜の時期は1963年とのことだが、檀原照和著『消えた横浜娼婦たち』によれば1955年には既に横浜の伊勢佐木町で目撃されていた、という。
彼女の存在が注目されだしたのは、1980年代に入ってからである。折しも「なんちゃっておじさん」や「歌舞伎町のタイガーマスク」など、町の奇人たちがメディアに取り上げられていた時期と重なる。
1990年代の半ばに、横浜の街から姿を消した。その時期は映画『ヨコハマメリー』では1995年初冬（『朝日新聞』は「関係者の話」として同年12月に故郷の中国地方へ帰ったとしている）、書籍『消えた横浜娼婦たち』によると1996年の11月だという。
森永ラブ伊勢佐木町店(閉店)の常連客で、来店した際には「砂糖入りの白湯」（※同店の正規メニューではない）を愛飲していた。
晩年は「故郷の老人ホームで暮らした」とされるが、実際は故郷に居場所を見いだせず、数十キロメートル離れた津山の老人ホームで余生を送った。2005年1月17日、死去。84歳没。

それはすべてメリーさんのまなざしに出会ったことから始まったのです。
昭和から平成へと代わる時代の狭間で、移りゆく今を見すえるそのまなざしは、私に投げかけられた問いのように思えました。「私はいったい誰？」
その問いに突き動かされ、創りあげ、演じ続けてきた舞台「横浜ローザ」は四半世紀を過ぎ、今年で27年目となります。ようやく落ち着きはじめたコロナ禍、その一方で戦争や争いの火種は消えることなく、世界は揺らぎつづけています。ローザの語る言葉は今、私たちの心にどう響くのでしょうか。
　2019年から演出を西川信廣さんにお願いし、舞台にあるのは2脚のパイプ椅子をいくつかの木箱、シンプルな舞台装置だけ。ローザ自身が場面転換をしてゆく芝居に変身しました。ですがローザの背後には舞台を支えてくれるたくさんの強靭なスタッフがいます。隣りにはローザを愛するボランティアスタッフが居てくれます。そして目の前にはローザに逢いに来てくださったたくさんのお客様。こんな素晴らしいフィールドに今年もローザは一輪のバラを咲かせます。
　　私もいつかローザのようにキャリーバッグに荷物を詰め込んで、世界中を公演して回りたい。そんな夢を心に抱いております。　

私が演出して、今年で4度目の『横浜ローザ』になります。27年前の初演は、作者である杉山義法さんの演出でした。その後、何人かの演出家の手で再演され、高い評価を受けてきた作品です。しかし、評価の高かった作品を演出する時、演出家にはプレッシャーがあります。「前回の方が良かったね」と言われるのでは・・・と言うプレッシャーです。それもあって、初めて演出を担当した2019年、パンフレットに「見せるローザ」から「語るローザ」へとの演出の方針を書きました。それは義法さんの描かれた戯曲を読んで、劇構成とセリフの力が素晴らしいと思ったからです。
それを「語る言葉の力」で勝負してみようと考えたのです。と言って、演出家がいくら意気込んでも役者が納得してくれなければどうにもなりません。幸い、五大路子さんは私の演出の方針を理解して下さって、無理難題も聞いてくれました。それは、私の演出を理解してくれたと同時に、五大さんのこの作品に対する愛と情熱と、そしてライフワークにしようとする執念が大きな力となっていたと思います。
　2度目の公演は新型コロナが蔓延している中、公演の中止や延期があちこちで起こる中で無事に公演が出来ました。昨年の3度目は、ウクライナとロシアの戦争が勃発した中での公演で、戦争に傷つくのは弱いものという現実を目の当たりにしながら、改めてこの作品の主題である「戦争と人間」を考えるきっかけになったと思います。ふと、2度の再演が無事できたのは、もしかしたら天国のメリーさんが後押ししてくれたのかなあ・・・とも思っています。
　さて、4度目の語る、そして騙る『横浜ローザ』になりました。「語る言葉の力」を信じて、セリフをもっと掘り下げて、いまが「新しい戦前」にならぬよう、この作品を通して問いかけたいと思っています。