とある春の日、

東京都美術館で開催中の
「レオポルド美術館　エゴン・シーレ展　ウィーンが生んだ若き天才」
に行ってきました。

3月は毎日のように予定が入っていて、
身動きが取れないと思っていましたが、
予定がキャンセルになってぽっかり空いた木曜日に、
友人に誘われて上野へと出かけて行きました。


天才エゴン・シーレの作品は気になっていたものの
きちんと向き合ったのは初めてでした。
あまり親しくなかった友達を訪ねたら、
なんでもっと早く会いに行かなかったのかしら・・
という思いに駆られました。


私はクリムトが好きで、
以前、ウィーン　ベルベデーレ宮殿「接吻」を観に行きました。
美しさと妖艶さと退廃が密やかな息遣いしながら
そっと迫ってくるのを感じました。

フロイトとクリムトとシーレ

1900年　この年にジークムント・フロイトが
「夢判断」を世に出しました。
私も大学生の時に読みました。
抑圧された本能的衝動＝repressed instinctual impulses について
初めて言及したフロイトはウイーンで活躍していた
アーティスト、芸術家たちと相互的な影響関係にありました。
クリムト、シーレ、ココシカたちです。

パリがモダンアートの中心となっていったとすれば、
ウイーンはこれまでの伝統、定義から撤退し、
secession ＝ 分離して行きました。

そしてウイーン分離派と呼ばれるようになっていったのです。


芸術と精神病理学、生理学、神経学が連結され、
女性の身体がヒステリーと病理化されると同時に審美化され、
芸術が精神分析の翻訳者となっていったのです。

いまひとつ理解してなかったウイーン分離派、
フロイトのエディプスコンプレックスも関連してことを知り、
なるほどと思いました。

クリムトといえばユディトでしょうか・・・

撮影可のお部屋

シーレの生涯

エゴン・シーレは1890年6月12日に
オースリア・ハンガリー帝国に誕生しました。
1918年10月31日にスペイン風邪で亡くなるまでの
28年間を生き急いでいきました。
幼少期から早熟な才能を認められていたシーレは
16歳のときにクリムトを同じウイーン工芸学校に進み、
さらにウイーン美術アカデミーへと進学していきます。

シーレが入学した1906年の翌年、翌々年の2回に渡り、
アドルフ・ヒトラーは入学試験に失敗しています。
もし・・と言っても詮ないことですが、
もしヒトラーがシーレの後輩になっていたら、
ヒトラーは独裁者になることもなかったかもしれません。

クリムトの助けもあり、メキメキと腕を上げたシーレは
1908年に最初の古典を開きます。
その翌年、アカデミーを正式に辞めて、アカデミー教育と決別。
本格的に独自の活動を開始します。
そして分離派の源泉とも言えるフランス印象派の展覧会で
ゴッホの作品を見て、大きな衝撃を受け、
創作意欲に駆られて、精力的に試作を繰り返していきました。
死、性などのタブーにも挑戦していきます。
当然、周囲からは理解されないこともありました。

モデルと深い仲になりながらも、
1915年、シーレはエーディトと結婚式をあげます。
結婚の三日後、第一世界大戦勃発。
シーレはオーストリア＝ハンガリー帝国軍に招集されますが、
軍は彼を芸術家として尊重し、前線には出さず、
プラハの捕虜収容所に看守の仕事を与えました。

1918年、第一次世界大戦も終わりに近づいたときに
クリムトがウイーン分離派に作品を一挙公開。
シーレの作品群は一躍注目を浴び、
彼の絵の価格は高騰しました。

次々と絵が売れ、シーレは高級住宅地に
アトリエを構えるまでになります。
しかし、大戦前後にヨーロッパ中に流行していたスペイン風邪に
妊娠6ヶ月の妻エーディトが罹患し、
10月28日に死去してしまいます。
シーレも感染して、三日後の10月31日、
愛妻と小さな命を追うように亡くなりました。

ストライプのドレスで座っているエーディト・シーレ

この絵を目の前にしたとき
シーレがどれだけ彼女を愛していたかが伝わってきました。

優しい上目遣いの目はシーレを見つめて離しません。
誠実な伴侶を得て、シーレは安心して
生を描くことができるようになったと思います。

赤ちゃんを抱くエディートを描けたら、
それは聖母子のような清らかな
柔らかな絵になっていたのではないかと思います。

短い時間の中で驚くほど多作だったシーレ。

彼の芸術にやっと時代が追いついてきたと感じます。

4月9日まで開催中。ぜひお出かけください。

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