邦楽『スパイダー』(スピッツ) 逃げるのも追いかけるのも、傍から見れば同じ

音楽の素晴らしさの一つに、歌詞がある。

スピッツは切なく綺麗なメロディに、意味深な歌詞が乗っかる曲が多く、とても素敵だ。

普段、僕は曲を聴くときに歌詞を重視しない。だけど、スピッツの歌詞は好きだ。聞けば、彼らの音楽のテーマはほとんどが死とセックスだという。なるほど、惹かれるわけである。

折に触れて、『スパイダー』が聴きたくなる。

彼らのアルバムの2曲目はアップテンポでメロディアスな曲がくることが多いが、これがまさにそうだ。軽快なリズムとメロディに乗せて、不穏な歌詞が展開される。この世界観は、本当に唯一無二だ。マサムネ氏の声も、一切の解釈や考察を無視するかのようだ。

作品の解釈はそれぞれあっていい。それが音楽の楽しみ方だ。

『スパイダー』で歌われるのは、「君」をさらって逃げるけど、ダメだったときは笑い飛ばしてくれ、と言う物語だ。

別にどうなったっていい。奪いたいから奪う。さらいたいからさらう。善悪ではなくて、そうせざるを得ない。死ぬときは死ぬし、生きるときは生きる。聴き手の共感なんてどうでもいいよ。

そう言わんばかりの姿勢は、本当にカッコいい。

彼らの音楽からは、ある種の「やるせなさ」を感じる。諦めに近い感情だ。

だけど、それは決してネガティブなだけじゃない。「生きるって大したことではない」そういって背中を押してくれている気もする。

そう思えることが、彼らの音楽を聴く楽しみの一つでもある。

いつか彼らの歌に心を奪われた僕は、これからも聴き続けるだろう。願わくば、ずっと答えなんて与えられないでほしい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?