オットー_ネーベル

【小説の書き方 73】

一人の哀れな男が外套を盗まれる(ゴーゴリの「外套」、もっと正確にいえば「馭者用の重い外套」)、もう一人の哀れな男が甲虫に変わる(カフカの「変身」)⎻⎻それで、どうした? 「それで、どうした」といわれても、合理的な答えはありはしない。わたしたちにできることは、その物語を分解して、部分がどのようにぴったりと組み合わさっているか、作品の様式がいかに互いに呼応し合っているかを見出だすことだけだ。が、定義づけることも、念頭から追い出してしまうこともできないこの感動に応えて、うち顫えるなんらかの細胞、遺伝子、胚種を、身内にもっていなければならない。美と哀れを知る心⎻⎻これが芸術の定義としては、わたしたちがゆきつけるぎりぎりのものだ。
(ナボコフ)

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