１−１６

しろい　　はーい。

　　福永としろい、はちあわせる。
　　尻もちをつく、しろい、福永。

岩谷　　　おまえか。
しろい　　だめですか？
岩谷　　　原稿、読んでればいいのに。
しろい　　でも……くろかわさん、はいじまさん。

　　くろかわ、はいじま、顔をのぞかせる。
　　すぐに去る。

しろい　　……いやなんですって。
岩谷　　　なんで？
しろい　　……こわい思いをしたんですって。木刀を持って、追いかけられて(福永を見る)
福永　　　なんですか、それ？ ＤＶですか？ 体罰ですか？ 通り魔ですか？
あんな子たち、知りませんよ。
　　　　　まったく……カラスやネズミじゃあるまいし……

　　先に立ったしろいが、福永の手をとる。

福永　　　……
しろい　　だいじょうぶですか？
福永　　　いいえ……
しろい　　だいじょうぶじゃないんですか？ すいません。
福永　　　いいえ……

　　福永、しろいの手をにぎりつづけている。
　　しろいは、ちらばった原稿を集めている。

しろい　　ゆるしてください。しろいは、カラスでもネズミでもないので。
福永　　　運命ですかね。
しろい　　運命？
福永　　　ぶつかって出会うなんて。
岩谷　　　さっきも三上さんとぶつかっただろ……
福永　　　ドラマ、見てます？ 「太陽と砂時計」……すてきですよね。主人公
とヒロインの出会いも、たしか……
しろい　　太陽？ 砂時計？
福永　　　毎週たのしみだよね！ いいのかな、こんなこと聞いて……彼氏、い
ますか？
しろい　　彼氏？
福永　　　よし！ いない！ ……年上はオーケー？
しろい　　オーケー？
福永　　　よし！ いいのかな……名前とか聞いて。
しろい　　しろい。
福永　　　あ、ぼくのこと？ 岩谷さんの大家。福永です。
しろい　　あの。
福永　　　なんでも聞いて。
しろい　　運命、ってなんですか？
福永　　　(悶絶する)かわいい……神さまが、ふたり、いっしょになることを
決めてた、ってことだよ。
しろい　　じゃあ……
福永　　　そう！
しろい　　先生としろいは、運命だ。
福永　　　……(硬直する)
しろい　　先生。
岩谷　　　お金。
しろい　　ない。
岩谷　　　どこにも？
しろい　　ない。
岩谷　　　１円も？
しろい　　ない。

　　チャイムが鳴る。

岩谷　　　どうぞ。

１―１７

　　古本屋・大森、登場。古本をかかえている。

大森　　　まいど。かじか書房です。先生のお気に入りになる本、入荷しましたよ。『黒死館殺人事件』初版、署名入り……『痴愚神礼讃』これも初版、訳者の手紙つき……『一千一秒物語』金星堂版……
岩谷　　　いや、今日は、売りたいんだ。
大森　　　あ……さようで。
岩谷　　　すみません。
大森　　　いえいえ。えーと、じゃあ……
岩谷　　　しろい。
しろい　　はい。
岩谷　　　案内して。
しろい　　かしこまりました！
大森　　　あ、片づけたのね。そっちね……よっこいしょ……

　　ふらふらして、大森、本を床に落とす。
　　しろいの足に落ちる。　　

しろい　　にゃー！
大森　　　すみません……

　　ふたり、ちらばった本を拾う。
　　しろい、大森、本にのばした手が、かさなる。

大森　　　あっ。
しろい　　はい(本をわたす)
大森　　　ドラマ、見てます？ 「太陽と砂時計」……すてきですよね。主人公
とヒロインの出会いも、たしか……
福永　　　ちがう！
大森　　　なんだ？
福永　　　ぶつかって出会うんだ。
大森　　　似たようなもんだろ。
福永　　　こっちが先！
大森　　　だからどうした！
福永　　　名前も知らないくせに。
しろい　　しろいです。
大森　　　しろいちゃん……
福永　　　ちゃん？

　　福永、大森、にらみあう。

岩谷　　　しろい。
しろい　　かしこまりました！
大森　　　よし！

　　大森、本は置いといて、奥へ。