微熱のコピー

詩 66〜70

  微熱

クモの巣ばかりの路地裏に
指おり数える室外機
五十二個目であらわれた
夏の日の海 たぶん 朝

髪型変えて努力した
だけどすぐには のびなくて
結局帽子で蓋をする
わたしの思いが飛びたてない

葉っぱを集めてつみかさね
少しのずれを繰り返し
双子の月だ こんなに 大きい

完璧なもの ここにある
靴の底から のぼれ 種
のがれられない 微熱 わたしは




  人畜無害

人影 すさぶ 風 やまず
路上に ひとつ 踏みにじれ
トマトの正義 他愛ない
石の自由は 片隅に

砂の世界のレストラン
じっと座っていられない
堕落と言うな もう眠れ
自信がなくて ごめんなさい

やっぱり 人だ 受け入れろ
目だけで笑う あいさつに
責任はない 悲しいけれど

残る苦悩は ただひとつ
レモンの希望 これも だめ
たよりないから おまえが 変われ




  積木小屋

いま何日目 「分からない」
もう二週間 (せきばらい)
不幸な事件は過ぎ去って
刻一刻と過去になり

手拍子 いつも はずれていて
誰も あなたに 注意せず
いい気になって生きてきた
生きていないと知らないで

心やさしい人に会い
忘れられると思うたび
思い出している 巣食う からっぽ

正直だけがとりえだと
自慢しないなら 言っていい
純潔 かかげて 天使にでもなれ




  天国

神経繊維は人工で
肯定だけが聞こえない
水をかぶって 雲の下
きれいになって 笑いたい

独善的な圧縮で
ぐるぐる まわって また 拡声
鳥や けものを 集めては
無邪気な愛撫を あたえたい

無口な人が 吐き捨てた
水彩風の 非難なら
失望しない 人間 ボレロ

その物質は 日没後
お湯に溶かして 完璧な
まどろむあなたに 飲ませてみよう




  国境

あわれむはずだ よく見れば
つきささる 釘 コウノトリ
不毛な土地が 裏返る
明るくなれば それでいい

受精の証拠は うなじだけ
毒薬 あふれ 優越感
その奔流に期待した
摩擦しつづけ ごほうびは

わずかな屈折 それでいい
つぐなう弱点 わずかでも
隙間があれば 棲息できた

パンにはさんで 噛み切った
よろこべ あなた 救われた
敵意も 風も なにもない日だ

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