spoon_knights_2のコピー144

銀匙騎士(すぷーんないと) (36)

「そうなの」
「ちがう。おっさんも、これにはびっくりしたよ。ばらばら、ばらばら、でもしずかに、すとんって着地する人の影が、やまない」
「どこから落ちてきたんだ」
「木の上」
「木の枝のところにかくれてたんだ。鳥みたい」
「鳥みたいなんだ。その人たちも、蛾にびっくりして足をすべらした」
「なるほどね。でも」
「その人たちが、その、賊だった」
「えっ」
「合歓木(れいんつりー)の下で休憩する旅の人たちをおそう」
「ずるい」
「落ちてきて、ぼくたちに見つかったでしょう。ぼくはなにがなんだか分からないけど、おそってくるんだよ。
 おっさんが斬られて、死んじゃった」
「おまえは」
「まだ生きてる」
「そうだけど」
「そのとき」
「うん」
「つまり、こういうわけなんだ」
「なにが」
「ぼくが、いま、きずだらけで死にそうなのは」
「逃げたのか」
「戦った」
「ひとりで」
「ひとりで、銀の小刀(ないふ)をぶんぶん振ってさ。なんでかって。それは、なんか、そいつらをこらしめたかった。ぼくの村をおそったやつらかどうかは知らないけど、たぶんちがうけど、なんて悪者が多いんだろう。
 一回横に振ったら、手とか首が十個くらい飛んだよ。二回振ったら、二十個くらい。縦に振ったら三人くらいまっぷたつ。でも、うしろの敵はどうしようもないから、やられる。そっちを向いて、またうしろから。そうやって、ぼくは斬られまくった。全員、たおしたけど」
「分かった。もういい」
「ごほ、ごほ」
「よくやったよ」
「ぼくには、分からない」
「だまってろよ。もうすぐ、あいつが帰ってくると思うから」
「分からない」
「なにが分からないんだよ」
「ぼくが、なにをしたんだか、さ」
「賊を退治したじゃないか。で、いま、きずだらけで死にそうだ。死ぬな。がんばれ」
「そうだけど。これで、よかったのかな」
「おれが、よかったとか悪かったとか言えば、おまえは分かったことにするのか」
「しないんじゃない」
「じゃあ、いいのか」
「でも、言って」
「おまえが、そうしたかったなら、よかったんだよ」
「それが分からないんだもん。神さまの仕事だ。いつも、聞かされた。人が人を裁く権利はない、ってさ。蕎麦は歯ごたえ、饂飩はのどごし、ってさ」
「意味不明だよ、まあいいよ」
「神さまの仕事だから、神さまがやってくれるのを待つでしょう。いつまでたってもやってくれないから、ぼくがやるしかないでしょう。やってよかったのかどうなのか、それを聞いてみたいし、聞くんだけど、それもだんまりでしょう。
 まいったよ。ぼくは、天国に行けるのかな。それも、不安ってわけでもないけど、なんか。なんか、なんかじゃない。知りたいか、知りたくないか、って言ったら、それはもう、知りたい。だいたい、おしえてくれない理由が分からない」
「どの、神さま」
「一番えらい」
「おまえの村(あいる)の神さまたち、おやじさんたちじゃないな」
「じゃないと思うよ」
「そんなにむやみにしゃべりゃしないよ」
「だろうね。そんなの知ってたよ」
「なに怒ってんだよ」
「ずるいんじゃないかな。神さまは、全部を見てて、おもしろがってて、つまんなかったらぽい捨てして、そんなふうにされてるぼくは、ぼくは、ぼくに、感想くらい言ってくれてもいい」
「おまえ、神さまから感想もらうために生きてるのか。死ぬのか」
「ちがうなあ」
「おまえのおはなしだから、おまえがおもしろければ、それでいいよ」
「おはなし」
「神さまが見てるって言うから」
「おはなしかあ」
「おはなしだよ」
「いいんじゃないかな。いま、誰もきらいじゃないもの。うらみはしない。呪いなんて。好きなのは、妹。いま、妹のことばっかり浮かぶよ。見たいな。顔を見ていたいよ。
 うん。ぼくがはじめて、終えるおはなしは、いいおはなしだったと思う」
「よかったな」
「安稜(あろん)も」
「え」
「安稜(あろん)が、覚えててよ。ぼくの、おはなし」
「うん。いいよ」
「たりないところは、想像していいよ」
「そうするよ」
「遠慮しないで。いやなことでも、つらいことでも、安稜(あろん)が考えたことならそうして。最後に、妹の顔が見たいと思えれば、それでいいんだから」
「うん」
「ああ、つかれた」
「もう、だまれ」
「その小刀と茶碗(かっぷ)は、あげる」
「ありがとう」
「どんな、おはなしに、なれるかなあ」
「なるんだよ。おまえの意志で」
「むう」

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