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ゆっくり歩く

仕事のやる気が起きないときは、家事をする。特に洗い物。気持ちが落ち着いてくる。大がかりなことじゃなくて、ちょっとずつできるのが良い。掃除機掛けとかは、全面をかけないと気が済まなくなるので、避ける。お風呂掃除とか、トイレ掃除とかもそう。何なら、皿一枚だけ洗って終わらせることもできる。気楽に取り掛かり、切りの良いところで終わる。ラジオを聴きながらできるのもいい。

けれども、今日は全ての皿を洗い終わってもまだ仕事に戻りたいという気持ちにはならなかった。月曜日の昼は、良くあるんだよね。クライアントからの連絡も来ない。日本のクライアントは月曜日はまず午前中は自分のメールボックスの処理が忙しいんだろうし、海外にいたってはまだ月曜にすらなっていない。だからどうしてもたるんでしまう。

そういう時は、今までは喫茶店に場所を変えて仕事をするのが常で、スタバだとか、最近ではストリーマーだとかいう東北沢の駅に併設されている喫茶店に行ったりしていた。しかし、コロナ以来、何となく心理的にそういうことをしづらくなっている。必要性が無いのに、暴露される可能性があることをして、結果的に感染してしまうというわけには、やっぱりいかないので。いろんな人に迷惑もかけてしまうだろうし、仕事にも差し障る。

それで、仕方なくどこと行く宛もなく近所を散歩してみた。先ずは一番近いローソンに行ってみる。6月末の中途半端に晴れた昼下がりは、蒸し暑いのうち、「蒸し」のほうが「暑い」よりもシェアが大きい。そうなると欲しいものはアイスクリームだな。アイスクリームはチョコミントかラムレーズンに限るのだが、今の季節はチョコミントとなる。案の定、置いてある。月曜の昼間のローソンはそこそこ空いていて、ここで一度、おじさん、試してみたかったことがあるんだよね。それはセルフレジ。無人の自動レジは6年前アメリカに住んでいた時はウォルグリーンズだとかで、普通にやっていたことなので、別に抵抗はないのだが、何せ日本でやるとなると特に後ろに若い客が並んでいたりすると操作にプレッシャーを感じてしまうのが嫌で、今まで避けていた。案の定、最初にポンタカード(だったっけ?)だか何だかを「持っていればスワイプする」みたいなところで先にクレジットカードを操作してしまい、まごまごして、気が急く。だいたい、オレがまともに使えないようなものが普及すると思ってのか? 短気なのはおじさんの証拠である。コーン入りチョコミントのバーコードをリーダーで読み取り、クレジットカードを差し込み、一丁上がり。別に現金派ではないが、ちょっとした手続きだけで補助金が銀行口座に振り込まれ、それがこういう形でクレジットカードで出てゆく。お金の存在を全く感じない世の中になってしまった。これが2020年のスタンダードだと言えばそれまでだが。おじさんはまだまだ死なず、まだまだ消え去りもせんぞ。

アイスを舐めながら、近所をパトロール。世間は忙しく動いている。若者は下北沢に帰ってきている。ここで致命的なクラスターが発生したとしても、驚くに値しないな、とぼんやり思う。急ぎの仕事が無いわけじゃないが、商店街をのんびり歩く。スタバには客が入っている。地下の客席には通しているのだろうか。無印良品は入場規制をやめたのか。さっきのコンビニでの焦る気持ちを静めるように、わざと、ごくゆっくり歩いてみる。すると、鎌倉通りに入ったあたりでふと気がつく。自分がゆっくり歩いていると、すれ違う人たちが自分をよけて通ってゆくではないか。当たり前かもしれないが、今まで思いつかなかった。つまり、ゆっくり歩けば、少なくとも自分が思っている通りの軌道を通って進むことができるのである。もちろん、目的地への到着時間は長くなるわけだけれども。自分が速く歩いて早く目的地に着こうと思うと、向こうからすれ違ってくる人や自分が追い越そうとしている人は障害物になる。しかし、こちらがゆっくりになり、向こうが障害物だと認定してくれれば相手は勝手によけてくれるわけだから、自分の立場から相手を障害物とみる必要がなくなるわけか。何か示唆的ではないか。今まで何となく、街路を歩いていても人に追い越されるということ不快感を感じることがあり、それは競走馬の本能と同じなんだろうか、とか思ったりしていた。しかし、わざとゆっくり歩くというのは、ストレスをためないことが目的になるならありなのかもしれない。今年47になるおじさんはそんなことを思いながら、ミヤタヤでニンジンを一本だけ買って、散歩を終えたのでした。

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