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寒い朝の戯れ

図書委員の朝は早い。

冬は寝室に暖房をかけて暖まってから着替える。
寒い寒い、と言いながらひょろりひょろりと細長い脚をももひきに通し、おじさんが着るVネックのTシャツを着る。

あまりにも細く青白い体が「寒い寒い」とジタバタしているのが可哀想なので、年がら年中手が温かい私は、寝起きの特別温かい手で温めてあげようと、ぬーっと両手を差し出して図書委員に近づく。

すると弾けるように図書委員はまだ寒いリビングに飛び出し「ひゃああぁ〜〜〜」と走り出す。

自分の手が年がら年中冷たいものだから寒い中冷たい手をヒャッと押し当てられると勘違いしたのだ。

その走り出す様が実に滑稽で、ぴょんぴょん跳ねながら腕をダバダバと振り乱す、鳥獣戯画の笑う兎のような、『すごいよ!! マサルさん』の走り方のような……それが面白くて笑いながら暫し眺めていた。

「私の手あったかいから暖めてあげようと思ったんだよ」
と見飽きた頃に真意を告げると、取り乱したことが恥ずかしいようで「あっ…あっ…」とバツが悪そうである。

「今の動きが俗に言う『こけつまろびつ』である」

と照れながらも得意げに図書委員は言った。

あ〜〜これが!
気になってたんだよね、まろびつ??
なんじゃ「まろびつ」って。
って思ってた、ずっと。
これね。すごいわかったわ。

朝から良い言葉を学んだ。


倒(こ)けつ転(まろ)びつ
たおれたりころがったり。あわてふためいて走るようすをいう。「—逃げ去る」
出典:デジタル大辞泉(小学館)

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