【短編小説】変身
順一は目を覚ました。目の前は真っ暗だ。頭まで布団をかぶっているからだろう。
第一希望の大学の受験まであと2週間だ。順一はため息をついた。昨日、滑り止めの大学を受験したが、結果は散々だった。順一は第一希望の大学を受験することに恐怖を感じるようになっていた。
「どうしよう・・・」
順一は起き上がった。順一は驚いて周りを見渡した。そこは自分の部屋ではなく、砂漠の真ん中にあるテントだった。順一は戦場で戦っている兵士になっていた。
「えっ、なにこれ?」
順一はパニックになった。体は筋肉質で、迷彩服を着ていた。
「なんで俺がこんなところに・・・」
爆発音が聞こえた。テントの外からは銃声や悲鳴が聞こえてきた。順一は恐怖に震えた。
「助けて・・・」
順一は泣きそうになった。戦いたくない順一だが、戦わないと死が待っているだけだった。順一は、側にあったヘルメットを被り、銃を手にした。知るはずもない銃の取り扱いができる自分に困惑した。
「順一、大丈夫か?」
テントの中に、順一の仲間の兵士が走り込んできた。その兵士は順一の顔を見て心配そうに言った。
「順一、どうしたんだ?お前、昨日はすごかったぞ。敵を何人も倒してたじゃないか」
順一は健太の言葉に戸惑った。自分は昨日、敵を倒していたのだろうか。順一は記憶がなかった。
「えっ、俺、昨日、何・・・。それに君はだれだ?」
「健太だよ。どうした頭でも打ったか?」
そのとき、テントの外から恐怖でひきつったような声が聞こえた。
「敵襲だ!」
「順一、行こうぜ。お前は俺の相棒だ。一緒に生き残ろうぜ」
順一と健太はテントから走り出た。
すでに敵と味方が激しい戦闘を繰り返していた。味方の兵士が次々に死んでいった。順一は恐怖に震えながらも必死で逃げた。健太は順一を守ろうとして、敵の銃弾に倒れた。順一は健太の死体を見て絶望した。
「健太・・・」
順一は健太の名前を呼んだが、返事はなかった。順一は健太の手を握ったが、冷たくなっていた。順一は涙を流した。
「なんでこんなことに・・・」
順一は悲しみにくれた。そのとき、空から敵の爆撃機が飛んできた。順一は爆撃機に気づかなかった。順一は健太の死体に抱きついていた。爆撃機は順一のいる場所に爆弾を落とした。順一は爆発に巻き込まれて即死した。
順一は目を覚ました。枕元のスマフォを見ると、第一希望の大学の受験日を知らせる通知が表示されていた。順一は混乱した。自分は戦争で死んだはずだった。それがなぜ、自分の部屋にいるのだろうか。順一は夢だったのだと思った。しかし、夢とは思えないほどリアルな記憶が頭に残っていた。順一は戦争の恐怖を思い出した。順一は震えた。
「あれはなんだったんだ・・・」
順一は自分の体を確認した。傷はなかった。血もなかった。順一はスマフォを見た。第一希望の大学の受験時間まで時間がなかった。順一は慌てて支度をした。
第一希望の大学を受験することに恐怖を感じなくなっていた。戦争の恐怖に比べたら受験失敗の恐怖など問題ではなかった。
「頑張ればいいだけだ。なんてことはない」
受験の恐怖は消え去った順一は、受験会場に急いだ。
※
受験科目は英語と国語だ。順一は英語が得意だった。英語の試験に自信を持って臨み、問題なく試験終えた。
次は国語の試験だった。現代文で戦現代文で戦争を扱った文章が出題されていた。その文章を読んだ順一の頭には、自分が体験した戦争の記憶が蘇った。順一は震えが止まらなくなった。順一は受験どころではなくなった。順一は必死に震えを耐えた。しかし、震えは止まらない。段々と思考力がなくなり、目の前に霧がかかったようになった。順一は記憶をなくした。
順一は目を覚ました。
砂漠の真ん中にあるテントだった。順一はまた兵士になっていた。
「まじか・・・。なんでだ」
テントの周りでは爆発音、銃弾が空気を切り裂く音がしている。
「そうか。ここに戻ってきたのは、恐怖を麻痺させろということか。なら、目の前の恐怖を葬ればいいんだ。そうだ」
そう考えた順一は、機関銃を手にし勢いよくテントから外にでた。そして、敵味方関係なく、機関銃を向け、引き金を引いた。順一の銃で兵士が次々に倒れていく。
「そうだ。これだ。この感覚だ。アハハハハ」
順一は笑いながら銃弾を周りに放っていく。順一は戦争に病んでいった。
「俺はもう大丈夫だ。恐怖に打ち勝ったんだ。元の世界にもどったら受験がんばるぞ」
(終わり)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?