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【短編小説】上官の命令は絶対です

片倉左京警部と甲斐達郎巡査は、昨晩発生した殺人事件の捜査を行っていた。
これから二人が向かうのは、殺された被害者と金銭上のトラブルがある佐々木という男のアパートだ。佐々木は、知人に被害者への殺意を漏らしていたという有力な情報があった。

「このアパートの2階みたいですね」

甲斐巡査は手帳のメモを確認し、アパートの2階を見上げた。

「ベランダから逃走するかもしれない。甲斐巡査はアパートの裏側にいてくれないか」

「承知しました」

甲斐巡査は、アパートの裏に走って行った。

甲斐巡査が視界から消えたことを確認した後、片倉警部はゆっくりとアパートの階段を登って行った。

佐々木の部屋の前に着いた片倉警部は、部屋の中の気配を確認しチャイムを鳴らした。

人が歩いてくる音がした。ドアがわずかに開き、男が顔を見せた。

「佐々木さんですね」

片倉警部が話しかけた。

「だれ?」

「私はこういう者です」

片倉警部が警察手帳を見せた。男の目が一瞬泳いだ。

「佐々木さんですよね」

片倉警部はもう一度確認した。

「ああ。そうだよ。何の用だ」

「昨日の夜、殺人事件がありましてね。その被害者とあなたがトラブルを抱えているという情報がありまして・・・」

そう言った瞬間、佐々木がドアを勢いよく閉めた。そして、部屋の奥に走っていく大きな音が聞こえてきた。

「甲斐!まかせた!」

片倉警部は大声をあげた。甲斐巡査が裏に回っているから、確保するのも時間の問題だろう、そう思った片倉警部はゆっくりと廊下を歩いてアパートの階段を降りて行った。アパートの裏側は空き地となっている。各部屋のベランダはつながっていない構造であることも確認している。甲斐巡査一人で十分対応可能だろう。

片倉警部は、階段を降りてアパートの裏にまわった。すると、そこには鼻くそをほじりながらベランダを見上げている甲斐巡査がいた。

「甲斐 !そっちに佐々木が行っただろう!!」

「へ?来ませんよ?」

「さっき、俺が大声でお前に声をかけただろう!」

「え?ああ、あれ、警部の声でしたか。集中してベランダを監視していたので気がつきませんでした。へへ」

「へへじゃねぇ!じゃあ、佐々木はまだ中にいるのか!?」

そう言って片倉警部は走り出した。

「佐々木!」

片倉警部は佐々木の部屋のドアを勢いよく開け、中に入った。

佐々木がベランダを開け、ベランダから飛び降りた。今度こそ、甲斐巡査が捕まえてくれるだろう。

「甲斐!!」

片倉警部が叫んだ。

「はい。どうしました?」

甲斐巡査の声が後ろから聞こえた。

「お前、なんで!」

「え?裏にいろって指示がなかったんで警部の後を追ったんですが・・・」

「・・・」

佐々木はまんまと逃走した。

(終わり)

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