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【短編小説】コンビニの彼女-儚き想い-

「今日も出勤か。めんどくさいな。」

自宅アパートの鍵を閉めながらそう思った。

「給料のため。給料のため。」

自分に言い聞かせながらアパートの階段を降りる。

そして、幹線道路につながる道を歩いて行く。

最寄りの駅まで普通に歩けば10分程度。

でも、職場に直行はしたくない。

だから、最寄り駅の近くにあるコンビニに立ち寄るのが日課だ。

コンビニに立ち寄る時間を含めれば、自宅から最寄り駅までは15分くらいだろうか。

自分にとって、コンビニで過ごす数分間は、絶対確保したい時間。

目覚ましもこのコンビニタイムを確保する前提で時間をセットしている。

ただ、この1年くらい前からだったか、コンビニに立ち寄る理由がもう一つ増えた。

それが、彼女だ。

彼女といっても、どこの誰かもわからない。

ただ、異性として気になってしまう。

自分がコンビニに立ち寄る際、店内で見かけることが多い。

服をみると、どこかに出勤する途中だろう。今日は紺色のスカートスーツ姿だ。

髪はボブカットというのだろうか。とても彼女に似合っている。

いつも、一瞬だけ視界にいれるだけ。見つめるのはだめだ。

知らない男から見つめられているというのは、恐怖でしかないはずだ。

自分は、彼女との一瞬の邂逅に満足している。

それ以上のことを望んでも何も良いことはない。

今日もいるだろうか。

商品を見ているふりをして周りを見回す。

「いた。」

心の中でつぶやく。

彼女は、ミネラルウォーターを取ろうとしている。

今日もこの辺で視線を外すか。そう思った時、彼女のところに、スーツ姿の男性が寄ってきた。

とても仲が良さそうに話している。

そして、彼女が空いている手で、男性の手を握った。

「彼氏なんだろうな。」

我に帰り、視線を外す。そろそろ店をでないといけない。

男性の手を握ろうとする彼女の嬉しそうな横顔が浮かんだ。

胸がくるしい。

でも、思った。

「幸せそうな彼女を初めて見ることができてよかった。」

何か全てが吹っ切れたような気がした。

明日からは、このコンビニに立ち寄る必要もないだろう。

(おわり)

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