ずっとメガネケースが欲しかった。

私は深夜の災害時に備えて、毎晩眼鏡を枕元のメガネケースに仕舞って寝ている。

昔、断捨離したときに捨てることがあまりにストレスだったので、二度とあれを味わいたくないと思うとメガネケース一個であっても妥協で買いたくなかった。枕元は濃い茶色でまとめている。どんなに素敵でも、インテリアに合わない色は体調の優れない中ほぼ部屋で過ごす私にとってそれこそストレスだ。結局、遠目でパッと見て色のストレスがなければよしと割り切り、家族が持っていたツルリとした真っ黒なメガネケースを仕方なく使っていた。

理想のメガネケースは少し赤みのある濃い茶色。持ち歩かないから大きさは拘らない。でも、近い物を見つけても、どうにも買う気が起きない。今も妥協で使っているのに、新しく買う物も妥協では意味がない。心から欲しいと思える物を買いたかった。まあ、今すごいストレスになってるわけでもないし、のんびり探しましょうと可もなく不可もなく過ごしていた。

先日、東京都美術館からこんなツイートが流れて来た。

‼

かわいい‼👀✨

犬だ、しかもダックス。うちの犬は一代目も二代目もダックスだ。ダックスモチーフの物を何か欲しいなと思うことはあっても、ほっこりしている物が多くて好みではなく、買えたことがなかった。この絵ならシンプルで部屋にも合う。

枕元に置いている所を妄想してみた。

かわいい……けど……、白だ……。

早々に諦めた。

黒地に白だったらなあ。

未練がましく画像を眺める。

ベッドの枠木が茶色だから枕元もそれに揃えていたが、ベッドリネンは白で揃えている。全く別の色を持ってくる訳ではない。イケるか？いや白が飛び出て部屋のノイズになるんじゃ…そうだ、そもそもメガネケースよりも、その横に置いてるティッシュケースを理想の物に買い替えたかったじゃないか。そっちを探す方が先じゃないか？

数年前に理想のティッシュケースを見つけたはものの売り切れで、でも理想のティッシュケースのイメージがやっと掴めて、この感覚を基準に探そうと決めていた。自問自答ファッション的にいうと「妄想インテリア」だ。あのティッシュケース、本当に可愛かったな…ウェブで見た画像を思い出してぼーっとしていると、突然、あのティッシュケースの横にこのメガネケースがあったら最高だな！？と閃いた。

妄想インテリアの理想のティッシュケースの横に、寄り添うようにダックスがいる。

えっかわいい。

ありじゃないか？

そもそも、私はピカソのグッズも何か手元に欲しかった。長くなるので割愛するが、19のときに生まれて初めて絵を見てむせび泣いたのがピカソだったからだ。

そのピカソの素描画、しかもモチーフはダックス。

このメガネケースと暮らす生活を妄想してみよう。

KO-GUのインセンスとこの仔に守られて眠りたいと思った。ベッド周りを「私の安心」で固めるのだ。
夜眠るとき、部屋を暗くして、スマホでぼーっと自問自答ガールズのツイートを眺めてると、きっとこの仔が目に入る。noteを読んでインセンスを一振りして、「安心の香り」に包まれて深呼吸をする。つるつるしたメガネケースのダックスの頭をちょっと撫で、見守られながら眠りにつく…。

よくないか。

これは、最高の夜じゃないか！？

しかもそれが毎日だ。毎晩体験出来るのだ。

買うしかない。

私の物にしたい。

私の部屋に迎い入れたい。

翌日は新橋に用事があった。普段は時間ぎりぎりまでダラダラと準備をして時間を潰してしまうが、午前中に出れば全然間に合う。上野に寄ってから行こう。

東京都美術館は印象派をやっていた。印象派も好きだ。正直どうせ行くなら美術館も見れるときに買いに行きたかった。でも、ツイートに「入荷しました」とあった。行くときまでに売り切れてたら嫌だ！だって1700以上RTされて7000以上のいいねがついてる。明日、明後日は大丈夫でも、グズグズしてたら売り切れるのもあり得なくはない。

ワクワクしながら上野駅から美術館へ歩いた。日は暖かいが、風が強くて空気が冷たい。桜を見上げるとピンクの蕾が春を待っていた。ミュージアムショップは相変わらずの混雑ぶりで、中々メガネケースが見つからない。最後に探した棚でやっと見つけた。

うん、可愛い。

尻尾が短いのも愛犬に似ている。

これだ〜〜〜あったよ〜〜〜3つ出ていたのでどの仔にするか厳選する。イラストのあるメガネケースは角の部分に皺がよっていることが多いので、そこを注意深く見たが、このケースはどれも大丈夫そうだった。

よしよし、今日からお前はうちの仔だからね、とメガネケースを撫でながらお会計をお願いした。浮かれポンチになっていた上にレジが空いていたので、レジのお姉さんに話し掛けた。「このグッズのツイートを見て来ました。担当者の方にお礼をお伝え下さい😊」お姉さんは笑ったあとに、「それ、私です！」と。今日はなんてラッキーなハッピーディだ！「ずっとメガネケースを探してたんです！ツイートのお陰で出会えました！」思わず続けて感謝を伝えた。購入したときの嬉しさのまま誰かと笑えるなんて最高だ。

移動中もこの仔がリュックの中にいると思うと幸せだった。愛犬を入れて移動してるみたいだ。前に回したリュックを犬を抱くように大事に抱える。口角が上がってしまう。

家に帰って、ビニール袋から出し、さっそく枕元に置いてみる。

かわいい。

実物、めっちゃかわいい。

妄想よりいい！

これから毎日この仔と過ごせるのか〜〜〜！

私は幸せを感じると何故か腕がムズムズする。

腕のムズムズを感じながらイラストのダックスの尻尾の付け根を撫でた。

ナニシテルノ！？と言わんばかりに愛犬が来たのでメガネケースを紹介する。新しい物特有の匂いが気になったのか、クンカクンカと嗅いでいた。可愛いね、君とおんなじ短い尻尾だよ、とお話しした。

眠るとき、妄想通り部屋を暗くして、スマホを開いた。TLをスクロールしてはちらりとメガネケースを見る。本当に可愛い。しかも、白だから暗くても有事に見つけやすいことに気がつく。テンションが高くて眠れなそうだなと思いながら、香水をつけて寝た。

迎えて初めての朝が来た。
起きたとき、仰向けのままだと真っ先に目に入るのは流木に取り付けた胡蝶蘭だ。もぞもぞスマホの目覚ましを止め、うつ伏せになってグズグズする。起きなきゃ……と目を上げるとメガネケースの犬がいた。「おはよう〜」無意識に声を掛けた。もちろん口には出さずに、心の中で。起き上がりながら、今のは妄想になかったな…と思い返す。メガネケースを迎えた朝の妄想はしてなかったけど、朝日の入る部屋の中でちょこんとベッドにいる犬は、とても可愛かった。

昼は部屋のあちこちに置いてみた。

机、サイドボード、棚、アクセサリーの横、観葉植物の横………(こうして書くと、なんだか広い部屋みたいだ)
何処に置いてもかわいく馴染む。
どうしよう。どんどん好きになる。

なんて可愛いんだ！

妥協で買わないでいて、本当によかった。

この数年、部屋を必死に整えて来た。本当に、必死だった。目に入ってストレスになるものを兎に角捨てた。お金がないから新しい家具は買えない。選ぶ元気もないからリメイクして、心落ち着く空間を作って来た。やっと、落ち着くだけでなく、遊び心を取り入れられるようになったみたいだ。


自問自答ファッションならぬ、自問自答インテリアのnoteも書いて行きたい。部屋のほとんどがDIYだから、語ると長いんだ。