2019/1/7(月)日記2

干支が3回りも離れている先輩に、仕事を教わっている。

その人は来年で定年を迎えるけれど、特に役職もついていない。人手不足の会社で、部長を兼務している人が何人もいるというのにだ。等級の違いはあれど、彼と私には同じ「係員」という文字がつく。

その人は、まるで福笑いのような顔立ちをしていて、瞳は灰色に青を混ぜた色で、濁っている。片方の目は見えないらしい。ひどいアレルギー体質で、アトピーなのかいつも体中をかきむしっている。肌はまだらにピンク色で、首筋には火傷のあとみたいな大きな痣がある。それもピンク色だ。かさぶたがはがれたまま、元の肌色に戻らなくなってしまったのだろう。

いつも我慢せずそこらじゅう掻き毟っているから、手の甲とか、腕とかに、まだ乾いてないかさぶたをはがしたことによる赤い血が乗っかっている。この間、オフィスの床に血が垂れていて、何事かと思ったらそれは彼が大きなかさぶたをはがして、それを手当てせずに流血していたからなのだった。

彼のシャツには、いつも、赤い血のしみができている。

彼は指紋だらけの眼鏡をかけて、わたしに仕事を教える。眼鏡には、小さな赤い値札がついたままになっているが、彼はもうそれすらも見えない。弱い視力で、何度もパソコンの画面を見直しながら、エクセルと間違えてヤフージャパンを開く。彼はスタートバーのエクセルのアイコンもよく見えない。それなのに、気合と経験で、役員に提出するグラフや資料を作っている。当たり前だがすこぶる時間がかかるので、彼はいつも上司に怒られている。

彼は教え方が独特だ。普通、新人を横に座らせて、自分のデスクでパソコンを操作して教えて見せるのに、何故だか私のデスクにくる。そしてわたしのマウスとキーボードを奪って、ヤフージャパンを開く。彼が仕事を教えた後、わたしの透明なデスクマットは指紋でべたべたになるので、いつもこっそりウェットティッシュで拭いている。

1つの資料を作るのに、要領を得ない説明のせいで、1時間以上時間を割く。「ここの数字は決算書のどこから引っ張ってきているんですか?」みたいな質問をするたびに、今から作成する資料が何のために存在していて、どこのフォルダに保存していて、ついでに全く関係ない先程作成した資料の話もして、それから質問に答えるから、わたしはとてもイライラする。でも、世の中「ここの数字は決算書のどこから引っ張ってきているんですか?」「ここの数字は決算書のグループ売上高を参照しているんだよ」みたいな会話ができない人というのが、確かに存在しているのだ。社会人になるというのは、自分の無力さを感じることも多いが、一方で「こいつよくここまで社会人やってこれたな」と思うような人間に会うことも含まれていると思う。

わたしは、彼を見るたび悲しくなる。朝早く会社に来て、来たは良いがほとんどの時間をうとうとし、終業のベルが鳴った瞬間慌てて今日の資料を作り始めたりとか、いつものようにわたしのデスクでぺちゃくちゃ喋った後、なにかメモを取ろうとしたが紙が無く、やにわにわたしのゴミ箱を漁ったりとか、お腹が大きいせいでズボンが下がるのか、喋っている最中にズボンをあげるところとか、股間も遠慮なく掻き毟ったりとか、爪をかんだあとにわたしのマウスに触るところとか、そういうの全部、悲しくなる。沢山の薬を飲みながら、見えない目でパソコンをさわり、必死に資料を作るだけなら同情も引くのに。社長の前で堂々と居眠りこいたり、自分のこだわりが強すぎて仕事を煩雑にしていたりするから、哀れみも起きない。

お年寄りには優しくするべきであるのに、わたしは彼がピンク色にまだらの肌をしていて、そこらじゅうから血を流しているのが気持ち悪くて(嫌悪ではなくグロテスクさで)正面から見ることができない。見た目で人を判断してはいけないのに、彼が触ったもの全てが嫌に思えて、ウェットティッシュでそこらじゅう拭くのを止めることができない。一方で、マクロを教えたら自分も参考書を買って勉強しようとしたりとか、そういう良い部分もあるから、思い切り嫌がることもできない。

彼は本当に、ただ仕事ができないのだ。往々にして仕事ができない人間は性格が悪く人をねたんだりそねんだり陥れようとしたりしてくるから、素直に大嫌いになれるけれど、彼は単純に仕事ができないだけで悪意が全く無いから、余計に私は罪悪感でいっぱいになる。

上手くまとまらないけれど、とりあえず、ウェットティッシュはやめられそうにない。

ずっと書こうと思っていたので、かけてよかった。すこしすっきりした。

おしまい。








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