不登校先生 (4)
家に帰りつくと、大きな三つの荷物を、
引きはがすように、畳の上に置いた。
大したものじゃないといった荷物たち、
おそらくほとんどの人には、本当に大したものじゃない。
けれど、僕にとっては、どの荷物も、大事なもの。
これまで向き合ってきた、子ども達との時間の中で使ってきた。
先生としてやってきた中で使った道具たち。
「今度はいつ、力を貸してもらうことになるかわからんくなったね」
「ごめんね」
そう呟いて、僕は、改めて自分のこれからすることを考えた。
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心が壊れたのは、これが初めてではない。
15年前、新任講師でいきなり挫折して、
でも当時は自分の心をどう救ってもいいかわからずに、
病んで狂気のまま、病院に行くという選択もできず、
言われるまま壊されるままに、心は粉々に砕かれて、
その上からさらにマグマでの流し込まれるがごとく荒野の状態になって
1学期だけで、辞表を出すよう吊し上げられて、
一度、死んだも同然の状態になった経験があった。
その時は、自分を客観的に見つめる自分はいなくて、
「アア、モウジンセイオワッタナ・・・」
とただ屍のように、ボロボロの部屋で一人佇むしかなかった。
たまたまその前年度に、非常勤のサポーター教員制度枠で働かせてもらった
小学校の校長先生が、今考えると、おそらく噂を耳にしていたのだろう。
「夏休みに、アキレス腱を切って病休に入られている先生の代わりが来なくてね。担任とかではなく、補助枠で、昨年度のサポーター的に。もしよかったら来てもらえたら助かるのだけど、どう?」
と、声をかけてもらえて、拾ってもらって。
また学校で働く機会を得ることができて、
それから15年、働かせてもらえてきたのだけれど。
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その時に経験したぼろぼろの心の状態を覚えていたから、
今回は自分を客観的に見ることができた。
今の自分の心は、あの時の自分の心の状態に近いほど、
壊れてしまっている。
命だけでもつながった今の状態を、きちんと診てもらおう。
↓次話
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