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不登校先生 (3)

誰もいないホーム、散らかった荷物をとぼとぼと拾い、

肩紐がちぎれて破れた作品バックを風呂敷の様に結びなおして、

家に帰る電車を待っていると、

貨物列車の赤と同じ色だった夕暮れの空は、

一気に濃い青と黒にグラデーションを変えていく。

心が赤信号だったのが、意識だけは何とか青信号に切り替えてくれるように

今の自分の状態をぼんやりとたたずみながらも、冷静に振り返っていた。

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たしかに、僕は今、死のうとした。

貨物列車に自分からぶつかりに行こうとした。

これ以上、生きているのが辛いから楽になろうとした。

たぶん、作品バックの肩紐がちぎれていなければ

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死んでいた。

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何かが落ちていって

ガラスの窓が砕けて割れるような音がした。

ガッシャン!

ああ、心が完全に砕けたんだな。

冷静に見つめる自分の前に

粉々になった何かが映る。

15年、ひびが入りながらも、傷をいっぱいつけられながらも、

絶対に砕けなかった、大きなガラスの柱のような

そんな心の柱が、砂浜の砂の様に粉塵をあげて、

粉々に砕けて、そこから無くなった。

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そうか、心が壊れるって、

こういうことなのか。

見つめている僕は冷静で。

落ち込むでもなく、慌てるでもなく、

ただただ、自分を支えていた、大きな柱を失った心の中で。

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「ありがとう。」

電車の隅にたたずんで揺られながら、

風呂敷包みになった作品バックに目を落とし、声をかける。

「それだけは無しだったよね。

  子ども達に、言ってきたもんね。

    心臓が鼓動をやめない限り、

      自分からそれを止めちゃいけない。

        自分で自分の命を投げ捨てることだけはしないでって。」

「ありがとう、約束を破らずに止めてくれて。」

作品バックをキュッと握りなおして、ぽっかりと柱を失った心で考える。

冷静に見つめている自分が、心の中で腕を組みながら考えている。

「守ろう。自分の命を。」

↓次話


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