見出し画像

「嘘の木」読書感想

フランシス・ハーディング「嘘の木」を読んだ。
19世紀のイギリスを舞台にしたミステリ+サスペンス+一部ファンタジーのジュブナイル。なんだけど、中盤までなかなか陰鬱な展開。

主人公フェイスは聡明な14歳の女の子だが女性には知性よりも愛嬌が大切と当たり前のように教育される時代、知的な好奇心を抑えながら、両親に愛されようといつも控えめに振る舞っている。
現代人の目からはモラハラ気味の両親と共に都落ちのように島に移住し、そこで父が謎の死を遂げる。からの、追い詰められたフェイスの転身がかっこいい。




=以下ネタバレに注意=




フェイスは真相を明らかにするために重たいスカートをボロボロにしながら夜の海に漕ぎ出し、ペットの蛇を腕に巻きつけて屋敷をうろつき、嘘や噂で島民を扇動し、混乱に陥れ…とどちらかというと魔女扱いされそうな暗躍をしてのける。

(それぞれのシーンが映像としてのインパクトを持っており、映画化したらこのダークな主人公はすごくバエる気がする)

その中で、父の仕事仲間の息子ポールを謎解きに巻き込んでいくのだが、お互いの敵意から始まった関係ゆえに建前抜きでぶつかり合い、最終的に安直なボーイミーツガールではなく対等な共犯関係に仕上がっていくところが良かった。

さらに母マートルとの関係性。前半は既視感ある毒親描写で「どう復讐するのかな?」なんて思って見ていたが、(思い出したのは「ハウルの動く城」のソフィーの美しい母)
終盤にはマートルは子どもたちのことを一番に考えていて、シビアな世の中を家族で生き抜くために女らしさを武器に戦ってきたこと、娘が危ない目に合いそうになったときには火掻き棒を振りかざして(相手の男性を敵に回すことで困窮するリスクがあっても日和ったりせず)断固守る母であることが明らかになる。

最後のシーンはフェイスとマートルの対話で締め括られ、「母は邪悪なのではない。卵を守り、自分にできるだけのことをしてこの世を生き抜こうとしている知恵の回る蛇なのだ」とフェイスは考える。ここに主人公の視点の変化が明確に書かれ、フェイスは脱皮の末に成長したのだと分かる。

最後の方で一気に島の女性たちの個人の顔にフォーカスが当たり、理想主義的な終わり方をしたところはジュブナイル味を感じた(やっと)。


うーん面白かった。クラシックな装幀でとても現代的なテーマ。
ちょうどNHKでラジオドラマ化されるそうなのでもう少し盛り上がるといいな(考察界隈が)。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?