「有機農業が世界を席巻する」・夏子の酒

 昭和64年 1989年。いわゆる昭和から平成の時代。
基本的に年号には興味がないが、時代をふりかえったときに、ちょうどこの時期をふりかえるには「昭和から平成」がふさわしいレトリックだ。
 私はそのとき、山梨県都留市という人口3万人の地方の街で大学生活を送っていた。大阪生まれ、大阪育ちの自分にとってはいまの言い方でいえば、田舎生活だ。1987年に「田舎暮らしの本」という本が創刊されている。そうそのころは、バブル絶頂期。その前の高度経済成長期から、田舎から都会へがあたりまえ。都会の文化、カルチャーへの憧れがメジャー。その中でのカウンターカルチャーと言われた。
 もう1つ「夏子の酒」という漫画がある。wikiにも書かれているように、当時の日本酒の課題だけではなく、広く農業問題を取り上げたとされている。
 「夏子の酒」の登場人物の中で、豪田という有機農業をおこなっている男性が登場する。彼は、「飢え」ということばを使い、「田畑をつぶしつづけるこの国」と吠え、「有機農業が世界を席巻する」と説く。合鴨農法まで登場する。
 「夏子の酒」は1988年~1991年の連載。まさにその時代である。
 そういえば、山田洋次監督の「息子」も1991年。田舎と都会 そこにDeafの女性が登場する。(そっか、なぜか夏子の酒のドラマも息子も和久井映見だ)。
 都会の田舎の関係、カウンターカルチャーの芽というには、全体から見るとあまりにも小さな動き。逆にいえば、バブル絶頂期だったあのとき、すべてが煌びやかだったあのときだったからこその小さな小さな動きだったのだろうか。
 田中角栄が日本列島改造論をぶちあげ、リゾート地として地方はバブル開発される(いわゆるリゾート法が1987年)。スキー場、ゴルフ場が山地を崩し、開発されていく。そうして地方は都市に消費される存在になっていった。
 それから30年。
 都市と地方の関係はかわったのだろうか。
バブルはほどなく終わり、経済学者によれば長い低迷期、その後、グローバル化。それでも、高速道路は全国をかけめぐり、新幹線は北海道から鹿児島までのびた。自分が大学時代をすごした都留にはリニアの実験線が通っている。
 有機農業は世界を席巻することはできず、作物は工業化されつつある。
毎年のように災害が起こるときに、森の話ができる人はさらに少なくなった。
何も変わっていないといえば何も変わっていない。変わったといえば変わった。そうその変化を改めていま語り残していく時代に平成から令和 2020年なっているようにおもう。

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