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波のように、泡のように|短編小説

一 海

ジャブ、ジャブ、と波打ち際を歩く。
波が引く度に一歩二歩と歩いて、波が来たら止まって、次の波が引いたらまた歩く。
そんなだから、周りの景色は一向に変わらない。

月子(つきこ)はぼんやりと昼間の白い空を仰いだ。
今、何時かな。
そろそろ二限のフランス語が終わった頃かもな。
頭を回さずに考える。

いつもだったら。
いつもだったら、月子も授業を受けている筈だった。
いつものようにきちんと一限から出席し、友人の紗理奈の代返も滞りなく済ませ(紗理奈はフランス語に限らず大学の授業をよくサボる)、午前中であるのに居眠りをする他の学生を尻目に、真面目に先生のネイティブなフランス語を聴いているはずだった。
フランス語の教科書は独特だ。
登場人物が浮気したり、ストーカー紛いの行為をしたりする。
週刊誌でも読んでいる気分。

きっかけは些細なことだった。些細で単純。

昨日の五限の授業終わり、突然見知らぬ男性から声を掛けられた。
「あの、いつもこの授業取ってるんですか?」
一体何事だ。
普段突然男性から声を掛けられることなんて滅多にない月子は、内心焦りながら平然を装って、なんとか、笑顔を作る。
男性は授業の感想を三十秒ほど語ると、連絡先の交換を所望し、そして連絡先を交換すると去って行った。

これはまさか。

彼は私のことが好きなのか?
月子はニヤニヤを抑えつつ、彼が自分に告白するパターンをいくつも妄想して帰った。
しかしその夜に届いた一通のメールで、呆気なく妄想は終わった。
「来週のあの授業、代返頼んでもいいかな?」
結局、それですか。

大学って何なんだろう。
人生って何なんだろう。
大学は、人生を月子に問うてくる。
高校生までは、決められたルールに従っていれば、成果が得られた。それなのに。
どうやら、大学ではそうではないらしい。
これが大人の社会ってものなのか。

月子は波が引いて埋まった自分の足をみた。
小さいのにゴツゴツして、なんだか卑しい。
くだらないことで落ち込んでいることは分かっている。
それが分かるから余計に虚しい。
はぁ、と溜息をついて月子はそのままじっと海を見た。

こんな時、兄の円(まどか)ならなんて言うだろう。
目を閉じて想像する。

ばっかだなぁ。
そう言って楽しそうに笑う声が、今にも聞こえてきそうだ。
容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群と三拍子揃った円にはわからないよ、とむくれる自分の顔さえも。

この海にはかつて、円と来たことがあった。

まだ月子が小学生だった頃。
どうしても学校に行きたくなくて、部屋に閉じこもっていると円がここに連れてきてくれたのだ。
(月子の家は両親とも働いていたため、登校時間に家にいたのは円と月子だけだった。)
あの日の海は、それはそれは綺麗だった。
日本の海は汚いなんて、嘘ばっかり。月子は幼いながらにそう思ったものだ。
初夏の日差しが海の表面をさんさんと照りつける。
日差しで白く光った海は、その波をざぶん、さぶんと音を立てて寄こすのだ。
空には、薄い青がどこまでも広がっていた。
「気持ちいいよなぁ、海」
満面の笑みを円は浮かべていた。

あの日に比べて、今日はずいぶんと海のご機嫌は斜め。
分厚くて灰色の雲が空を覆い、水は鈍い色をしている。
あの日と違って、今はまだ春一番が吹いたばかりの冬を残した季節だからかもしれない。
吐く息は白い。今度はそのすっとした空気を吸うと、潮の香りが全身に広がった。
月子は少しだけ波から離れて、浜辺に寝転んでみる。
打ち上げられた砂利や昆布で、冷え冷えとしている。
けれども、そんなモノたちに月子はどこかほっとした。

生きるってなんだろう。

月子は心の中で呟いた。
あの日月子を連れてきてくれた円は、もうこの世界にはいない。
一体何のために円は生きて、死んだのだろう。
そして自分は。

「生きるってなんだろ」
今度は声に出してみた。

月子は足先に一定のリズムでやってくる波を感じた。
もう間も無く潮が満ちてきて、自分が慌てて立ち上がるであろうことは分かっている。
しゃわしゃわ、と泡が引いていく音が砂浜にぴったりとついた耳元で鳴っている。

それでも、この一瞬だけ。

波打ち際、月子はぱたんと目を閉じた。



二 仕事

息が苦しくて目が覚めた。
眼球を左右にぐりぐり動かすとそこはいつものバイト先で、月子はこの時やっと、自分がトリップしていたことに気がつく。
ちょっと違うことを考えるとすぐこれだから。
目をぱちぱちとさせて、意識がこちら側に戻ってきたことを確認する。
どうやら大丈夫そうだ。
半分自分に言い聞かせ、布巾を持って次の棚に移動する。
こんなのは月子の日常茶飯事だ。

雑貨屋でアルバイトを始めてちょうど一年。
キッチン雑貨のみを扱っていて、にも関わらずやけに広いこの店は、いつも大抵空いている。
そんな中アルバイトに任された仕事は、
・レジを打つ
・棚を拭く
・新しい商品を出す
・商品の在庫数を数える
・他にも、色々
案外やることが沢山あって、入った当初は驚いた。

その中でも月子が一番好んだのは、棚を拭く作業だった。
客ともスタッフとも話をしなくて済むから。
独りぼっちは嫌いだけど、群れるのも苦手、仲良くない人と話すのも苦手。
そんな自分が、月子は案外好きなのだった。

小学校六年生で転校した。
転校先で、当時はまっていた少女漫画の主人公のように人気者になろうと、月子は明るくみんなに話しかけた。結果、見事同じように明るい友達が出来、昼休みも放課後も独りぼっちで過ごすことなく終えられた。中学校も、高校もそうだ。そして大学も。
独りぼっちで過ごす学校の休み時間ほど、居た堪れないものはない。アレは本当に、恐怖だ。たまにやっているテレビの「怖い話」なんかよりも、ずっと。ずっと。

しかし大学も三年になった今頃になって、ようやく、独りぼっちでいても居た堪れない気持ちになる瞬間が減った。
周りを見渡すと案外、みんな独りぼっちでいる。
なーんだ。自分だけじゃない。
そう気付いた時、月子はとても自由な気持ちになった。

友人の紗理奈(さりな)はよく「高校の頃、最高だったなぁ〜戻りたいよ〜」などとのたまう。
とんでもないことだ。
月子はその度、「私は絶対戻りたくない」と応酬する。
あんな不自由で窮屈な時間、二度と御免。
本気で本気の、本心だった。

ハッとして時計を見ると、棚を拭き始めてから二十分も経っていた。
月子は変わらず同じ棚を拭いている。
今日はトリップしてばっかりだな。
そう思いながらレジをみると、次のシフトの原さんがエプロンを巻いて既に仕事を始めていた。
月子は飛び跳ねるようにレジに向かう。

「おはよう」
「おはようございます、原さん」
原さんは三十代の美人だ。結婚していて子供が一人いる。お子さんは女の子だ。
将来雑貨屋を開くのが夢で、ここで働き始めたというこの人は、いつも綺麗にお化粧をしていて、綺麗な姿勢で仕事をする。
何というか、幸せを体現しているって感じだ。
「いつも綺麗ですね、原さん」
思っていることを言っただけだったが、口に出してみるとホストの台詞のようで、可笑しかった。
原さんも苦笑する。
「なあに、それ」
笑うと大きめの口が左右にくいっと上がる。
この雑貨屋の制服であるカフェエプロンには柔らかそうな白のレースシャツを合わせた原さんの装いはまさに春爛漫、といった可愛さ。
これが雑誌だったら“おしゃれなママの春コーデ”とかなんとか見出しがつくだろう。
「なんか原さんを見てると、幸せそうだなぁって感じがします」
月子の言葉に、原さんは少し困ったような顔をして首を振った。
「悩みもいっぱいあるよ~。ストレスいっぱい、溜息いっぱい」
それもそうか。
自分の勝手な憧れを押し付けてしまったようで、月子は自分を恥じた。
けれども原さんはちっとも気にしていないようだった。独り言のように
「昔そんな歌あったよね。"恋人たちは幸せそうに見えるけど本当のことは二人しか知らない"って言う…」
と続ける。
掴みどころのない原さん。

家に帰ると、月子は早々に円の部屋に向かった。
原さんが言っていた歌詞はどこかで聞いたことがあると帰り道ずっと考えていて、家についた途端思い出したのだ。

それは円もすいぶんと好きだった日本の女性アーティストの歌詞だった。

プレーヤーにセットすると女性の高くて細い声で歌が始まる。

恋人達はとても幸せそうに手をつないで歩いているからね。
まるで全てのことがうまくいっているかのように見えるよね。
本当は二人しか知らない

そんな歌だった。


三 青野くん

月子が彼に出逢ったのは、通夜でも葬式でもない。お墓参りの時だった。
後から知ったが彼は通夜にも葬式にも来てはいなかった。

あの日は、初七日も四十九日も過ぎた、何でもない日。
季節はちょうど梅雨入りしたばかりで、細かい雨が肌にまとわりつくように降っていた。
そうして円のお墓に着くと、いたのだ。彼が。

墓の前にしゃがみ込み、肩で差した傘からの雫がそのまま地面に水溜りを作って、新しそうなスニーカーは白く、雨で光って濡れていた。
彼は月子に気づくと、少しはっとした顔を見せたが、またすぐに目線を墓標の方に戻した。
月子も特に話しかける気もなかったので、彼のお参りが終わるのをその場でただぼうっと見ていた。
それはまるで何かの順番待ちのようで(実際にお墓参りの順番待ちであった)、側から見たらいとも滑稽であったと思う。

それから度々、彼をみかけた。
お墓の前で、お墓がある駅で、あるいは帰り道の本屋さんで。
互いにいつも一人だった。

もう何度すれ違ったことだろう。
ある日はまた雨が降っていて、月子は墓参りの帰りにカフェに立ち寄った。
少しぼーっとしたい気分だったので、コーヒーは甘めのキャラメル入りで、大きさはグランデを頼んだ。
出されたカップを受け取ると暖かく、冷房の効き過ぎた店内にぴったりで幸せを感じる。
空いているカウンター席に腰をかけると、隣にいたのが彼だった。

その日、初めて彼の声を聞いた。
初めて笑顔をみて、初めて彼が円の中学の同級であることを知って、初めて彼の名前が『青野くん』であることを知った。
以来、月子は彼のことを『青野くん』と呼んでいる。

「ごめん、待たせた?」
「なんで?待ってないよ」
青野くんは、待ち合わせの概念を認識するのが苦手だ。
だからか、いつも最初の会話はこんな風。
待っているという感覚がないのと、そもそも今日会おうということ事態も彼にとっては希薄な約束なのかもしれない。

外は初めて彼をみたあの日とは打って変わって陽気な天気。
梅雨の合間の晴れ日は嬉しくて、それだけで気分が上がる。
月子と青野くんは二人共アイスのカフェラテを頼んだ。
初めて話をした日から一年、気づくと頻繁に会う関係になっている。
ここはいつもの二人の行きつけのカフェ。
こんな青野くんだけれど、実は話好きで色々な話をしてくれる。

「大学って楽しい?」
青野くんが聞く。興味津々、という感じだ。青野くんは大学どころか高校もロクに行っていない。
「楽しくは、ない。」
月子は正直に答えた。
青野くんはますます興味津々、といった様子で楽しそうにくくくっと笑った。
「高いカネ払ってんのに。」
口元を片方だけほころばせる。
見上げる細い茶色の目から注がれる視線。
この人は随分と色素が薄い。髪も肌も目の色も。

「今度大学遊びに行っていい?」
青野くんの申し出に、月子は苦笑して頷いた。

帰り道は、ずいぶんと真っ赤な夕陽の中だった。
「こういう日は太陽が高かったりするのかな?」
月子が何気なく聞くと青野くんは首を振った。
「いや、太陽が昼間よりも低いから夕焼けは赤いんだよ。そんでもって、いつもよりきれいな夕焼けっているのは西の空が澄んでる証拠」
青野くんは自分の手を夕焼けにかざしてみせた。
「手のひらを太陽に、すかしてみれば」
月子が歌う。
「オケラって、この歌以外で出会わない言葉だよな」
青野くんも応じた。

円の話は、今日もしなかった。
年齢も性別も趣味もまるで違う二人の唯一の共通点である筈のこの話題。けれども今日もやっぱりしなかった。

みんなみんな、生きているんだ。友達なんだ。

子どもの頃に覚えた歌は、なかなか壮大な歌詞である。
夕焼けに手をかざすと、白い月子の小さな手からは夕焼けの赤が眩しいほど溢れた。



四 偶然

「うわぁ、奇抜なピアス」
おろしたてのピアスはカタツムリの形をしていて、見た瞬間に紗理奈は突っ込みをいれてきた。
奇抜、と言われて月子は悪い気はしない。
自分が平凡で平均的だと思っている人間は、"変人"に憧れるのだ。(それこそが平凡な発想だという事も月子は承知している。)
「何でそれを買おうと思ったの」
「一目惚れ」
「やばー」
紗理奈の言葉は裏もなく棘もないので心地いい。
目鼻立ちの整った顔をしていたが、その飾りっ気のない性格は同時に色気もないらしく、彼女の男受けはさっぱりだった。
紗理奈は大学に入ってから知り合った友人の一人で、どこがということもなく気が合い、よく一緒にいる。いわゆる“つるんでいる”というやつ。
今日は月子の用で大学の図書館に来ていた。

それなりの大学だからかは分からないが、大学の図書館は大きい。
これまで学校といえば、館ではなくて“図書室”であったのが、急に建物にグレードアップしたらからか。
大きさもさる事ながら、古くてかび臭いところが、そこはかとなく叡智を感じさせて、月子はこの場所が好きだった。
入ったらまず深呼吸をして、その匂いを身体中に循環させるのは無意識の習慣。

円は本をあまり読まなかった。
両親は本が好きで、本を読むことこそ脳に良い、と考えている節があったけれど、円は「眠くなるし」と苦手にしていた。
それでもゲームの原作に使われるような歴史小説なんかは時折読んでいて、今日みたいな真夏の日に円の部屋を除くと、クーラーの効き過ぎた部屋の中ベッドで本を片手にぐうぐうと眠っている円の姿は、未だ月子の記憶にはっきりと残っていた。
友情も恋も将来も、幸せな未来が約束されているかのように大らかな寝顔。
天下泰平とはまさにあの顔のことだ。

「月子?決まった?」
はっと気づくと、ずっと同じ棚の本に手をかけたままで、紗理奈が小声で囁いていた。
「ごめん、ぼーっとしてた」
月子は慌てて思考を現実に呼び戻す。
「いくら夏でもさ。図書館って、クーラー効き過ぎだよね」
鞄から上着をごそごそと取り出しながら紗理奈はぼやいていた。

「これからどうする?」
図書館を出ると日差しは強く、途端にむわっとして暑さが存在感を出してきた。
「このあと青野くんと約束があるの」
「ああ、“青野くん”」
これが月子と紗理奈の更なる共通点。
紗理奈の今の彼氏は、円の友達であり、青野くんのかつての同級でもあるのだ。
紗理奈と彼氏は大学の同じサークル仲間であり(といっても相手は大学院生で結構歳上だ)、それは偶然だったのだけれど、それでも青野くんのことは彼氏も知っているそうだった。
「じゃあ私もこのあとサークル顔出して、彼氏とご飯でも食べよっと。今日来てるかな~」
紗理奈がスマホを取り出してピコピコと文字を打っていると「あ」と声を出した。
「あ、あの人?“青野くん”。」
指を差す方をみると、眩しい日差しの中に不釣合いな長袖を纏った猫背がみえた。

「青野くん、大学まで来るの初めてだね」
月子が言うと、青野くんは少し意地悪な顔をする。
「こないだの話聞いて、これは是非行かないと、と思って」
わざわざそういうことを言わなくていいのに。
紗理奈も横にいる手前、月子はバツが悪い。じろっと青野くんを睨み、無言で抗議する。
「なになに?何の話?」
楽しそうに紗理奈が混じる。ほら見ろ。

ひとまず、月子は紗理奈と青野くんをそれぞれに紹介した。
「紗理奈の彼氏は、×××さんだよ」
共通項目を伝えると、青野くんの細い目が更にぎゅっと鋭くなった。怒っているのではなくて、青野くんは驚いたり考え事をする時はこういう顔になる。
「世間は狭い」
言ったが早いか、ちょうど紗理奈の彼氏が現れた。
「あれ?青野?」
どうやら紗理奈が呼んだらしい。
ひょんなことから、珍しい組み合わせの四人が大学で揃ってしまった。

成り行き上、大学から出る月子と青野くんを、紗理奈と彼氏が見送ってくれることになった。
広い学内、横一列に並んで歩く。
青野くんだけは、少しだけ後ろを歩き、月子たち三人を眺めている。
「何してるの?」
月子が聞くと
「大学生が大学を歩くのを、見ているの」
月子の口真似をして青野くんは答える。
そんなやりとりを見て、紗理奈の彼氏は嬉しそうだ。
「青野、お前、もう外、出られるようになったんか」
青野くんは中学、高校と引きこもりだった。
「おう」
青野くんは短く答える。
「そうか、そうかあ」
紗理奈の彼氏は心底嬉しそうに言い、青野くんも嬉しそうに笑顔で応えた。
彼氏は続ける。
「円がみたら、喜ぶな」

「円はしょっちゅう青野んちにプリント届けてて、その度 “今日こそ青野を連れ出す! ”とか言ってて、んで次の日 “全然だめだった ”ってしょげてたからな。青野はプリント届ける係で、俺は次の日、円を慰める係で」
「いい話じゃん」
いい話だな。紗理奈の相槌に、月子も心の中で同意する。
青野くんは少し離れた斜め後ろ、細い目を尖らせて、再び月子たちを眺めていた。
日差しが、四人をギラギラと焼いていた。

紗理奈と彼氏は笑顔で去っていった。
銀杏並木の木陰から木陰へ移動しながら、次は二人で並んで歩く。
今度は青野くんも月子の隣に並んでいた。
二人でもくもくと歩く。
ただ蝉の声だけが真昼の暑さの中に響いている。

「あいつすげぇな」
ふと青野くんがぼそっと呟いた。
「俺には、まだ― 」
その続きはもう、聞こえなかった。



五 ごはん

買ったばかりの包丁の切れ味に感激しながら、月子はレタスを刻む。
電子レンジの上には使い込んだ料理の本。
料理をするようになってから三年近く経つが、月子は未だに本無しでは料理が出来ない。
エビの殻をむき、脚をとり、背ワタをとる。
どちらかというと背中よりもお腹側の方に、黒っぽい取るべきモノはある気がいつもするが、レシピには『背ワタを取る』と書いてあるのでそれに従う。
料理はいつだって、迷わないことが肝心なのだ。

生姜と豆板醤とごま油を炒め、良い香りがしてきた頃に、ちょうど母が帰ってきた。
「ただいまー。美味しい匂い。今日何?エビ?」
「うん、エビチリ」
あら、いいねぇと言いながら母はパタパタと手を洗いにリビングを出る。
そして荷物を置いて、またパタパタと戻ってくる。
「もうできる?ご飯よそう?」
「うん。入れてー」
母が炊飯器をあけると、こちらもたちまちいい匂いが膨らんだ。

「今日、母さんたらミスしちゃったのよ。もうそのフォローが大変で…遅くなっちゃった」
食事をしながら、母は今日の職場の出来事を聞かせてくれる。
「それでね、母さんはいつも早めに出勤してるのね。じゃないと誰もお店の入り口のお掃除しないし…。あ、お父さん帰ってきたかな?」
母の話はいつもこんな感じだ。文句が多い、愚痴っぽいとも言えるかもしれない。
しかしそれらが全く嫌味なく聞こえるのが不思議で、それも母の特徴だった。
「お、またぐちぐち話してんのか」
帰ってきた父が楽しそうに会話に加わる。口ではそう言うものの、父は母の話を聞くのが好きなのだ。
「そんなんじゃないわ」
母はそう返したけれど、まぁ “そんなん ”ではあったと月子は心の中で思う。
父の食事を温めるために、母は立ち上がる。
「夜になると外は少し涼しいな。もう秋の気配だね」
父は誰にともなくそう言った。

それは円が亡くなってからすぐのこと。

母が料理をしなくなった。

ある日家に帰ると、スーパーで買ったお惣菜が並んでいた。そうして気づけばいつの間にかそれが日常になっていた。
「何かね、最近疲れちゃって」
母は言い、月子も父も言及はしなかった。
円は食物アレルギーがあった。
卵とか牛乳とかが駄目だった。

顔や身体には、幼い頃に出来たのであろう吹き出物の跡があったし、社会人になってからも時折身体を掻いたり、突如思わぬ発疹が出来るなどしていた。
おそらく皮膚そのものが弱かったのだと思う。

そんな円を育ててきた母は、料理にもすごく気を遣ってきたのだろう。
卵を使わない、牛乳を使わないレシピを謳った本が家には沢山あった。

円は母の料理が好きだった。
「やっぱ母さん、料理上手いよねぇ」
小さい頃も、大の大人になってからも、そんなことをよく言っていた。

だからきっと、母は料理が作れなくなったのだ。
母の気持ちが、月子には分かる気がした。きっと父も。

そんなわけで、当時高校一年生だった月子が料理を始めたのは、母のためだった。
初めて作ったのはハンバーグ。
思った以上に簡単だったがやっぱりレシピを見て作った。
父は「うまいうまい」と単純に喜び、母は少し申し訳なさそうに「ありがとう」と言った。

そうして月子が時折料理をするようになってから一年ほど経った頃、母はある日突然、再び料理をするようになった。
何があったかは知らない。あるいは何もなかったのかもしれない。おそらく後者だろうと月子は思う。
それからは、月子と母は互いに互いにごはんを作っている。

「今日のエビチリ、いつもより辛くてうまいなあ」
父はいつだって月子のごはんを褒める。
「それねぇ、豆板醤だけじゃなくて唐辛子も入れたから。うち、辛いものみんな好きだし」
月子が言うと、そうかそうかと嬉しそうに父は頷いた。
母もにこにことエビを頬ばり、そしてまた口を開く。
「でね、今日しちゃったミスって言うのが…」
月子と父は目を見合わせ、苦笑した。



六 映画

「遅い!」
開口一番、紗理奈は言った。
時計をみると、確かに待ち合わせ時刻に三十分も遅刻である。
「ごめん、ごめん、奢る。ほら、ラテ。紗理奈の好きな店のカフェラテ」
「いいよ、そんなん」
紗理奈はそっぽを向いた。
ふわっとした芥子色のニットのカーディガンから膨れた頬が覗いている。
そんな紗理奈をみて可愛いな、と月子は思ったが、怒っている人に対してこれは不謹慎だな、と思い口には出さずにおいた。

今日はこれから映画を観る。
月子自身はあまり率先して映画は観ないが、映画館に行く行為は好きだった。
いかにも “遊んでいる ”という感じがする。
喫茶店に行くのではただ “お茶している ”だけだし、かと言って他に行きたい場所や、やりたいこともなければ、映画館は大学生の遊びとして(少なくともカラオケもボーリングもお酒も好まない月子にとっては)適切だ。

券売機の小さな画面。月子と紗理奈は顔を寄せ合って覗き込む。
「座席は?後ろの方?」
「後ろにしよ。あ、この横の取られてるの、カップルぽくない?ちょっと間、開けようよ」
「そこはむしろ隣で」
「まじか」
ふざけあいながら席を決めてお金を入れる。チケットがしゅん、と音と共に現れたのをみて、紗理奈が「なんか私が小さい頃とかは、まだ地元の方はこんな座席予約とかなくて、並んでいた気がする」と語った。
「え、そんな田舎だったっけ。私並んだことないよ」
「嘘でしょ」
紗理奈があんまり驚いた顔をしたので、月子は改めて頭の中を探ってみる。

並んだかなあ。
そもそも小さい頃、何かに並んだことあったっけ。
並んだもの、並んだもの、並んだもの…。

頭の中で反芻すると、ふっとある記憶が蘇る。
「パンダだ」
声に出すと、月子の脳裏に白く霞みがかったあの頃の映像が映し出された。

東京生まれ東京育ちの月子が小さい頃に並んだもの、それは上野動物園のパンダであった。
あの頃、動物園には赤ちゃんパンダが産まれていた。

月子は当時まだ小学校に入ったか入る前かの年齢で、円は小学校高学年であったと思う。
そして二人共、動物園にさほどの興味もなかった、と記憶している。

だって動物園の動物は、遠い。
当然触れもせず、場合によってはガラス越しだったりするのだ。
そんなのは到底小学生の子どもは満足できるわけもない。
そういう訳で、さっきからフラッシュバックされる記憶たちは、円と二人、並んでいる間中、一緒に携帯ゲームをしたりふざけ合って帽子を取り合ったりした様子だ。
結局赤ちゃんパンダをみたのかさえも定かではない。

まぁ、そんなもんだよなぁと月子はすっかり大人になった者として思う。
円が中学に入ってからは、家族総出で出かけることは滅多になくなった。
一番覚えているのはあの海で、それ以外はもう、家で漫画を読んだりテーブルでご飯を食べている円の映像ばかりが頭を通り過ぎていく。

「うちは映画はそもそもあんまりみなかった。家族でそんな出かけなかったし」
月子の言葉に、紗理奈が、えっと声をあげた。
「まだそのこと考えてたの?もう予告始まるよ」
どうやらまたトリップしていたらしい。
いつの間にやら映画が始まる時間だ。

ビーっというブザーの音ともにスクリーンのカーテンがスルスルと開いていく。

脳内ムービーはもう観ちゃったな。

月子は頬杖をつき、買ったばかりのホットコーヒーを飲むと、それはもう少しばかりぬるいのであった。




七 外の世界

青野くんは円の中学の同級生だ。
小学校までは彼らは毎日一緒に通学していた。
けれども中学に入るとクラスが変わり、円はバスケ部の朝練があり放課後練があり、別々に通学するようになった。

それは直接的には何の関係もなかっただろう。
だが青野くんは、いつしか学校に行かなくなった。そして家から出なくなった。
それは円が無くなるまでの九年間、続いたのだった。

「男にもやっぱりグループとか、ヒエラルキーみたいのがあってさ」
この店オリジナルのコーヒーを飲みながら青野くんは言う。
「そういうのが嫌になっちゃったんだよね」
挽いた豆の少々主張が強すぎる香りが、言葉とともに月子の鼻まで届いてくる。
「いじめられてたの?」
多分違うだろうなと思いながらも聞くと、青野くんは首を振る。
そうして少し目を細めて笑った。
「同じ聞き方された」
呟く言葉で、誰のことか分かった。

青野くんと円の共通の友人に月子は何度か会った事があったし(紗理奈の彼氏もその一人だ)、当然円もいたのだから、友人がいなかった訳でもないのだろう。
それでも青野くんは学校には行かなくなった。
コンビニもスーパーも図書館も、家の外には滅多に行くことはなかった。
白くて薄いまぶたを伏せて、青野くんは懐かしそうに言う。
「唯一、家の縁側に出てぼんやりと飼っている犬と戯れることくらいが外の世界と繋がる瞬間だった。あとは、あいつの家庭訪問」
“ 家庭訪問 ”という言い方に、月子は聞き覚えがあった。

あの頃、円は月に数回青野くんを “家庭訪問 ”していた。
家庭訪問という言い方は円が実際に使っていたものだ。
「不登校児の家庭訪問に行ってくる」
円は外出時にそうのたまった。

行きは楽しそうに出掛ける。
帰りはもっと楽しそうに帰ってくる。
円にとっては青野くんと遊ぶことが目的だったのだろうから、不登校であることにさほど問題を感じてもいなかったかもしれない。
あるいは、優等生であった円は学校の先生や月子の両親・青野くんの両親になんらか頼まれて日々青野くんの家に通っていたのかもしれない。
もうその真意は分からない。
しかしいずれにせよ、円の訪問は当時の青野くんにとって数少ない外の世界に触れる機会であった。

「そういえば、動画とかたまに撮ってなかった?私何回か観たことあるよ」
月子が言うと青野くんはぎょっとする。
「え?まじ?」
「うん、観た」
それは青野くんが撮ったというコメディー映画のようなショートムービー。
だった気がする。
青野くん自体は写ってもいないし言葉すら発していなかったのではないか。比べて円の姿や声ははっきりと写っていた。
しかし内容は思い出せなかった。
「あー…」
青野くんは細い目を鋭くさせて、考え事をしている風だ。
「そういえば妹に見せたとか、あいつ言ってたかも…」
恥ずかしそうに俯いた顔は、なんだか新鮮だ。

あれ、今、私達、円の話をしているなぁ。

月子は、はっと気づく。
青野くんもそこで気づいたのか、顔を上げ、月子の顔をまじまじと見つめていた。
二人は互いの顔を凝視する。
よくみると、青野くんは目元に小さなホクロがあって、綺麗な一重と短い睫毛にそれはなんだかとても似合っていた。

「時間ってさぁ、残酷だよね」
青野くんが言う。
残酷。そうかもしれない。

「でも」
月子は目を落として言う。
「でも、時間が流れてくれて良かった」

そうじゃなきゃ、とても人生やってられない。
心の底からそう思う。
流れてくれなければ、月子の心はあの場所に留まったまま、漂流して空っぽのままだったろう。
あるいはあの胸の痛みが、月子を食い尽くしていただろう。
「だよなぁ」
首を擡げて青野くんが同意する。

そうして二人、気持ちの遣り場をみつけたかのように、互いにカップのコーヒーに口をつけた。

再び、主張の強い香りが二人の間に溶け出した。
挽いたばかりのコーヒー豆。
いつも二人で来るこの店の、いつものオリジナルブレンド。

湯気が月子の目頭を温めるのを、月子はされるがままにしておいた。



八 お墓の花

あの日のことは、正直、ほとんど思い出せない。
視界がぼんやり霞みがかったグレーの状態が何時間も続いた。
頭が痛くなるほど泣いた。

あの日、円が天国に旅立った日。
天国が本当にあるかどうかは、知らないけど。

ぼーぼーぼーぼー。
お坊さんの読むお経は、月子には擬音に聞こえる。高尚で文化的な擬音。
ぼーぼーぼーぼー。
四回忌が去年だったので、今年は五回忌だ。そこまで思って月子はふと、四回忌、五回忌、という言い方はそもそもするのだろうかと悩み、そしてすぐに面倒になって悩みを放棄した。
目を瞑り、心の中で月子も擬音を唱える。
ぼーぼーぼーぼー。
円がどこかで聞いているなら、大いに笑ってくれるだろう。

あの日は、紗理奈と夕飯を食べていた。
テレビで少し前に紹介されていた有名な洋食屋さん。並んで入り、美味しいね、幸せだね、なんて二人でその時間を満喫していたら、電話がかかってきたのだ。
普段は鞄に入れっぱなしのスマホをあの時だけは何故かテーブルに置いていた。
今でもあれは、運命だったと思っている。

電話で円の事故を知り、病院を知らされた。
「大丈夫なの?」
という問いに「いいから、とにかく今すぐ来なさい」という母の声。
月子はその瞬間涙が溢れ、同時に悟った。

病院までのルートを調べ、タクシーを捕まえてくれたのは紗理奈だ。
そのあとは一人、どのように家族の元まで辿り着いたのかは定かではない。
霞がかったグレーの記憶。

お経も終わり、あとはお墓を掃除して花を供え、お参りして終わり。
今日の花は百合だった。円の好きだった花。
「菊の花じゃなくていいのかな?」
言いながら墓石に水をかける。
「良いのですよ。そこに故人を想う気持ちさえあれば」
側にいたお坊さんが教えてくれた。
「菊がよくお供えとして使われるのは、長持ちしやすいことや邪気払いなど諸説ありますが、菊でなくてはいけないという決まりはないのです」
外で聞く彼の地声は、はっきりと澄んで聞こえた。

「故人というか、ユリの花は、元は母さんの好きな花だよね」
父が言うと母は即座に
「あら。元々はお父さんよ」
と茶目っ気たっぷりな目をして言った。
そんなやりとりを、お坊さんはやっぱりにっこりとしていた。

「ちょっとトイレ」
帰り間際に父が言う。
何かあるとすぐにトイレに行くのは父の昔からの癖、というか習性だ。出かける直前にトイレ、みたいな。
仕方なく、母と月子は墓標の前に腰を下ろす。
澄んだ空気をはらんだ風は冷たくて、手のひらに息を吹きかけていると母がマフラーを貸してくれた。

「百合の花はね、お母さんが昔、父さんから貰った花なの」
母は日差しに目をとろんとさせながらのんびりと話し出す。
「万葉集にね、百合の花で恋心を謳った歌があるとかで…それに掛ける形で父さんが私にプレゼントしてくれたの。いつだったか、それを円に話したらそのエピソードがいたく気に入ったみたいでね。自分も好きな人に告白するときは百合の花をあげるだと言って。本当にあげたみたい。」
ふふふ、と声をあげて母は笑った。

「そんな話、初めて聞いた」
月子は母の話をうんうんと聞く学生時代の円を想像する。
ユリの花を買う円や、好きな人にあげる円を。
ふふふ。
月子も声をあげた。

父が帰ってきた。
墓標の前に並んで座り、にこにこしている妻と娘を見比べ「何か良いことでもあった?」と聞くが、二人とも返事はしない。
けれども、父はつられてにこにこしていた。

「さて、美味しいいものでも食べて帰りましょうか」
母が立ち上がった。
「円の好きなものじゃなくていいの?」
月子が言うと
「あなたとお父さんの食べたいものでいいじゃない」とあっさりと答える。

「そうしましょう、そうしましょう」
謳うように言う母の足取りは、まるでスキップでもしているかのようだった。



九 真冬の鳥

ザ、ブン。ザ、ブン。
今日の波はいつもと違って、少し間を置いてから浜に落ちる気がする。
ザ、ブン。ザ、ブン。
今日は、青野くんと海に来た。

円に連れてきてもらった海。その後は一人で来ていた海。
これで、この海には青野くんと来た海、という情報が追加された。
初対面の相手に、海も緊張しているのかもしれない。
そう思うと可笑しくて、月子はそっと波肌を撫でてやる。
水は驚く程冷たくて、なんだか余計に愛しくなった。

「海って、大きいよなあ」
心地よさそうに青野くんが言う。
海に向かって直立すると、両腕を横に広げて伸びをしている。

鳥みたい。
冷たい風が月子の髪を靡かせる。
「人生が、どうでも良くなるよねえ」
青野くんは続けた。

「人生、大変?」
月子は聞くと、青野くんは笑って答える。
「うん、大変。容赦無いよ、ほんと。円すら死んじゃうんだから」
唐突な青野くんの言葉。
波がまたザ、ブンと間を開けながら寄せてきて、泡をたてて引いていく。
青野くんは真っ直ぐに海を見ていた。

「天国とか地獄とかってあるのかなぁ」
ぼんやりと月子は問うてみる。
あるとしたら、今この景色を円は見てくれているだろうか。
「無いよ。死んだらもうそれっきり」
「そんな。身も蓋も無い」
月子は苦笑したが、でもそうかもしれないなぁとも思う。
「だって人生は、容赦ない事ばっかりだ」
青野くんが言う。
まるで海に言い聞かせるかのように。あるいは、海に問いかけるかのように。

「でも」
そこで青野くんは久しぶりに月子の方を向いた。波が再び、ザブンと音を立てて落ちた。
「ほんの時々、良いこともある」
潮の香りが青々とした空に溶けていく。空気は乾いて澄んでいた。
へへっと笑う青野くんは、円に少し似ていた。
「俺は円が生きている間、家にずっと閉じこもっていた。あいつがなんて言おうと、そうしてきた。でもさ、あいつが死んだことを知らされた日、俺は何年かぶりに自発的に外に出たんだ。何も考えずに飛び出して、あいつの家まで行った。そしたらあいつの家には誰もいなくて、電気は消えて真っ暗で、ああ、と思った。ああ、あいつはいない。もう、二度と帰ってこない。それなのに、俺はまだこの世界にいる。あいつが行き来したであろう道を今走って、あいつが住んでいた家を見ている」
青野くんは拳をぎゅっと握った。
「そうして気づいたら、あの日から俺はもう、閉じこもることを辞めていたんだ」
ザブン。ザブン。
波の音が聞こえる。
しゃわしゃわしゃわ。
引いていく泡の音も。
それ以外は、もう何も聞こえない。

ねぇ、円。

聞こえないことは分かっていた。でも月子は語りかける。

ねぇ、円。

答えはない。そして月子自身の言葉の先も。
いいのだ、これで。

息を吸ってトリップから戻ってくると、視線の先には青野くんの姿があった。
靴のまま足首まで海に突っ込んで、波が来る度「わっわっ」と一人ではしゃいでいる。

「なーに、一人で楽しんでんの」
月子は靴下を脱ぐと、海に向かって飛んだ。

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