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小さな炎

魔法学校は、いつも放たれた魔法でピカピカと光っている。
けれど本当に美しいのは魔法ではないと、僕は思うんだ。



「わー!すごい!すごい!」
子供たちが歓声をあげると、少年は得意げな顔をする。
手のひらには炎がぱちぱちと燃えていた。
少年がふーっと息を吹き替えると、炎はやがて小さくなり、ぽんっと消えた。
「キアラはすごいね。さすがは魔法学校の期待の星!」
一人の子供がそうはしゃぐと、少年はかぶりを振った。
「そんなんじゃないよ」
そして何かに気づくと、「あ、僕もう帰る!またね!」と手を振って駆け出した。


少年が息を切らして駆け寄った先には、少女が一人座り込んでいた。
ここは森の入口。
夜になると、魔物が出ることもある危険な場所だ。
子供たちは昼間でも滅多に近づかない。
「キアリー、またこんなところにいて。何しているの?」
少女は少年を見上げると、真顔で答える。
「別になにも」
そうして、下を向いて地面をじっとみつめた。
さっき起きたばかりなのだろうか。頭には寝癖がついたままだ。
キアリーの生活リズムはがちゃがちゃだ。
少年はそう思うと、くくっと声がこぼれた。
笑いながらそばの切り株に腰掛けて、少女を見守る。


お日さまが真っ赤に燃えても、少女はじいっと地面をみつめていた。
お日さまが沈んで月がこんにちはをしても、少女はじいっと地面をみつめている。
暗いと魔物が寄りやすい。少年は手のひらから炎をぽっと出して、少女と地面を照らしていた。


「あ」
やがて数時間ぶりに少女が声を出した。
すると地面から、もこもことセミが顔を出す。
「がんばって、がんばって」
少女が一生懸命応援している。
「がんばって、がんばって」
少年も一緒になって応援した。

セミは地面から這い出ると暫くうろうろとしていたが、そのうち脱皮する場所を求めてどこかへ行ってしまった。
「もう帰る?」
少年が言うと、少女は頷きながら、少年の炎をみて、あれ?と言った。
「ずっと照らしててくれたんだ。ありがとう」
少年は「今気づいたの?」と苦笑する。

すると少女は自らの手をそっと開いた。
少女は一年中長袖を着ている。親指の付け根まで伸びた服の袖から覗く白い手は、とても小さかった。

少女は、んっと手に力をいれる。
炎が、いとも容易く彼女の手から放たれた。
少女はふーっと少年の手に息を吹きかける。
「ずっとは疲れるでしょ?代わるよ」
炎の消えた少年の手は、黒くなっていた。
「相変わらず、上手だね」
少年が手のひらを服に擦りながら言うと、少女は表情を変えずに答えた。
「別に。私は見たものを再現してるだけだから」

それが、なかなか出来ることじゃないんだけど、と少年は心の中で呟く。
「土の中で生まれるのに、ある日突然空を飛べるようになるセミのがずっと凄いよ」
少女は森を振り返りながら言った。
炎を失った森は真っ暗で、どこまでも続いているようだった。
月の光も、魔法学校の灯りも届かない。

「うん、そうだね」
少年は、小さく答えた。
少女の手のひらの上では赤い炎が揺らめいて、二人をそっと暖める。


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