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日記 /第12話

x月x日。
今日から私は日記を書くことにした。
この頃、気づくと記憶が飛んでいるからだ。

x月x日。
零の体調が悪い。
また無意識に活動してしまっているらしい。
活動の後、零はいつも自己嫌悪だ。

x月x日。
最近、お父さんはいつもメインコンピュータの前でぶつぶつ言っている。
あれはもう、お母さんではないのに。

x月x日。
私の腕に腕輪がつけられた。
いよいよ実験が最終段階に入ったのだ。
これさえあれば、サイバーシティ中の人間とコネクションが作れるらしい。
前に一度記憶をなくす実験をやった時は、すべてあのメインコンピュータがやったのに。やっぱり命令は一つの媒体だけでは難しいらしい。あの日から、何かがおかしいもの。

x月x日。
どうしよう。私もどうやら無意識に活動するようになったらしい。
記憶が飛んでいたのはそのせいだった。
その間、一体自分が何をやっているのか。
分からないけど分かりたくもない。

x月x日。
今日はサイバー・C・プロジェクトの設計図をコピーしてきた。
アンドロイドでよかった。
こんなとき、すぐに研究内容が理解できるから便利。

x月x日。
零の様子が日に日におかしい。
正気じゃない時間が多い。
零によると、私もそうなのだそうだ。
もう時間がない。

x月x日。
計画を零に話した。
あの子には辛い思いをさせてしまう。
けれど、私たちがこの呪縛から逃げるにはこれしかない。

x月x日。
計画は明日だ。




「これは、私の日記…?」
菜々子の唇は震えていた。
ノートはそのまま、白紙が続いている。
「最後のページに、なんか書いてあるよ」
ピヨがページをめくる。




菜々子へ。
貴方がこのノートを読んでいるとき、果たしてこの計画のことを覚えているでしょうか。
覚えていないのだとしたら、計画は現在進行形で成功していると言えます。

私は箸本菜々子です。
私と零は研究所の事故で生死を彷徨い、間一髪のところをお父さんがアンドロイドとして再生することで、何とか生きることが出来ました。
目覚めてからしばらくは、問題はありませんでした。
しかしこのところ、『世界を操ろう』とする気持ちが、私たちの頭を支配して、私たちの意識の及ばぬところで勝手に行動するようになってきました。
まもなく、私も零も自我を失い、世界を操るというその思想によって完全に支配されることでしょう。
ですから、私は零と二人、この呪縛から逃げ出す計画を建てました。
これから、私は記憶をなくします。
アンドロイドの設計図通りに、頭の回路を叩くので、おそらく記憶障害が起こるはずです。あの恐ろしい思想からも解き放たれることができるでしょう。
この研究所を出れば、きっとこの考えに共感してくれる人がいるはずです。仲間をみつけて、そしてお父さんの研究を阻止してください。
二人一緒には出られません。どちらかがお父さんを引き留めていなくてはいけない。
その役目は、零が担ってくれます。
万一のことを考えると、零の回路を破壊する訳にはいきませんから、記憶をなくす役目は私です。
その為に、零には私を殴ってもらいますから、可哀想。
後できちんとフォローをしてあげてね。

菜々子、貴方はちゃんと戻ってきたようですね。
どうか零を助けてあげて。





ぱちん。
部屋が白く明るくなる。
電気が点いたのだ。

「おかえり。菜々ちゃん」

そこには零がいた。
右耳のピアスが光る。
そうか。あの石は、計画を実行する前に私があげたものだ。
いざとなったら、零も父から逃げ出せるように。電磁波を防ぐ石だ。
菜々子はすべてを思い出した。

目の前にいる弟の瞳には、違う何かが宿っている。
もう弟はここにはいない。


思い出したくもない現実だったが、菜々子は思い出したのだ。



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#サイバーCプロジェクト


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